授業時間の終わり[1/2]



あと数分で授業が始まる、といったところで気付いた。教科書がない。
家で勉強していて机に忘れたのだ。昨日の様子を思い出して一人で納得する。
横を見ると、キノが怪訝そうな瞳でこちらを見ていた。

「レイ、首の体操でもしてるのかい?」

「違うよ、キノ。教科書忘れちゃったみたいで、昨日の行動を思い出してたの」

それで理由に合点がいって頷いたんだね、とキノが言い、わたしはそうだよと答えた。

「キノ、教科書見せてくれない?」

キノの席はわたしの隣だし、左隣は窓。前の人に見せてもらえるわけもなく、後ろはロッカー。頼れるのはキノだけだ。
おねがい、と手をあわせると、キノはしょうがないなとか言いながらも机を寄せてくれた。

担当の教師が入ってきて、授業が始まった。ノートを開き、板書をメモする。
長々とした説明。チョークが音をたてて黒板をたたいた。

***

しばらくして、板書に飽きて窓の外をちらりと見上げると、雲がゆっくりと流れていた。
黒い影が横切っていくのも見える。飛行機だろうか。

ノートの端に飛行機だよ、と書いてキノのほうへずらしてみた。
キノはノートを見て、窓の外を見て、視線をまたノートに戻した。右手が動く。
帰ってきたノートには綺麗な字でひとこと、“授業中だよ”と書かれていた。

わたしが言いたかったのはそんなことではなかったのだけれど、キノが正しいのは火を見るより明らかだった。
それに、キノは窓を見たとき以外こちらを一度も見ず、視線はずっと黒板に固定されたままだった。付き合う気はないのだろう。

キノのけち、と心のなかで悪態をつきながら、わたしはしぶしぶ板書作業に戻ることにした。
短時間でも板書は確実に増えていて、わたしはキノにあらためて説得されたような気分になった。





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