狼まであと何秒?[2/3]


以上が先程までの経緯だ。ちなみに、エルメス達は部屋に入れないので別の場所で預かってもらっている。

「良い国だね、キノ。シャワーではないけど、お湯もたっぷり使えるし」

立ち上がって景色を見ていたレイが振り返って言った。ああ、と短く答えて顔にお湯をかけ、タオルで拭う。
絞って折り畳み、頭の上に乗せ(これも伝統のスタイルらしい)、お湯を見たまま軽く息を吐いた。そして顔を上げる。
レイはまた先程と同じようにして景色を眺めていた。

(立ち上がらないで、と言ったのに)

軽く溜め息をつく。注意したのは何もレイが転ばないようにというわけではない。むしろ自分自身の為だ。

今この場にいるのはボクとレイの二人だけ。しかも二人とも濡れた布一枚しか身に付けていないわけで。
目線を上げればすぐにレイの姿が目に入る。

旅をしているにもかかわらず、体質なのか全くと言っていいほど日に焼けていない白い肌。
お湯で暖まり、ほんのりと色付いた頬。結い上げて纏めた髪は濡れていて、細いうなじが見える。
そして、水を吸って張りついたタオルによって露になった体のラインも。

お湯は色が付いているので、その中に入ってくれれば多少は意識しなくて済むというのに、立ち上がられては嫌でも視界に入るというものだ。
幸いレイは景色を見ているので、ボクがこんなことを考えているなんて気付いていないだろう。
気付かれたらどうなるだろうか? 嫌われて口をきいてもらえなくなるだろうか。
いや、もしかしたらボクのことを恋愛対象として意識してくれるかもしれない。

どちらにせよ、今まで通りにはいかなくなるだろう。それならば。


(このまま、こっそりレイの姿を眺めていようかな)

ボクの理性が保てればの話だけどね。


【END】



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