月が見える里には山がありません。君は月みたいに繊細な男の子なのです。 | ナノ



冒険のおともに


ひとつの扉の前に立っていた。日の光でも差し込んでいるのか、その部屋だけ明るい。
教室とはちがい、押して入るタイプの前で一呼吸する。
持ち手に力を入れて、黒子はそっと二度ドアをノックした。

暫くたって、ゆっくり開いたそこから顔を出したのは、見覚えのある女性だった。

「おはよう、相談に来たのかしら?」

「いえ、理緒君がいると聞いたので、会いに来ました」

「理緒の友達?」

「はい、黒子テツヤといいます」

「キミがあの黒子君か!」

ぽんと手のひらをうった女性は、「どうぞ、中入って!」とドアを大きく開いた。

「失礼します」

目隠しのために設置されていたしきりを越えて室内に入れば、テーブルを挟んで置かれたソファーのしきり側に理緒が座っていた。

その瞳は伏せられている。

「理緒ちょっと寝ちゃってるのよね。 二時間目から行くそうだから、キミもそうする?なら電話しておくけど」

壁に掛けられた時計に目をやると、あと数秒でチャイムのなる時刻だった。

「……お願いします」

「はーい!」

入り口付近の内線へと向かった女性から、視線をずらしてソファーの理緒を見た。寝息をたてて、首がこくこく揺れている。

理緒君のお姉さんにあたるこの人に聞けば、理緒君の事を少しは聞けるんでしょうか。そもそもなんで彼女がこの部屋に?もしかして………

「私は月見里望美、学校カウンセラーなの」

聞かずにかえってきた返答に肩を揺らすと、くすっと笑い声が聞こえ、「座って、座って!紅茶でいいかしら?」と声がした。

「はい、ありがとうございます」

「礼儀正しいのね、黒子君は」

「普通…だと思います」

「えー?そうかなぁ」

理緒の隣にある一人用に座ると、ずしっと身体が沈んだ。ふかふかで柔らかいソファーに感動していると、「はいどーぞ」と目の前にカップが置かれた。湯気の立ち上るそれはまだだいぶ熱そうだ。お礼だけのべて、正面に座った彼女をみた。

「もしかして黒子君、こないだ会った?」

「一昨日ですよね?はい、理緒君とは同じクラスなので」

「だよねぇ。じゃあ今日のことも詳しくわかる?」

「はい」

理緒のことだとすぐに察した黒子は軽く頷いた。「話して」といった彼女の表情は真剣そのもの。カウンセラーというより、家族の心配をしているように見えた。




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