side:hotaru

午後二時
いくらなんでもまだ学校だよね。

瑠衣は五時に家を出ようと決め、未だ未開封の段ボールがある自室へと引き上げた。

今日と土日のあいだに整理して、学校行ける準備しないと。

段ボールを見てため息をつきながらも、手を止めるわけわけにはいかず、ひとつひとつ開封していく。あまり荷物が多い方ではない瑠衣でも、本だけで3箱、服やその他諸々を積めると合計で6箱ほどになっていた。


『……これも入れてたんだっけ』

ガムテープを破いて、一番上にあったものに真っ先に目がいった。自分が入れたのに忘れてるなんてどうかしてると苦笑しながらも手にとる。
それはシンプルな水色の写真たてだった。超平和バスターズの7人で撮った記念写真。中央ではじんたんがピースサインをしていた。



「なぁなぁ、決まったぞっ!!」

じんたんが、秘密基地の入り口まで走り込んできた。

「なにがー?」

あなるが不思議そうに問いかける。他のメンバーもきょとんとして、手をとめ、じんたんをみた。

「オレたち超平和バスターズなっ」

じんたんが親指を自分に向け、自慢げにいった。それでも意味がわからずぽかんとしていると、抑えていたタイヤを手放したぽっぽが「うわぁあ、かっけぇー!!!!」とはしゃぎはじめた。

「バスターズって?」

つることほたるが顔を見合わせている横で、ゆきあつが首を傾げた。

「強い奴等ってことらしい。オレたちが平和を守るんだ!」

腕組みをしてから、腕を突き上げるじんたん。その言葉にますますぽっぽがヒートアップした。「しゅんげぇぇええ!!」と足を上げ下げしながら、身体全体で喜んでいる。

「どこの平和?」

つるこが不思議そうに問いかける。

「どこもかしこもいろんな平和っ!!」

じんたんが真上に伸ばした右手を引っ込め、今度は左手を高く突き上げた。

「わぁ〜!じゃあじんたんがリーダーだねっ!!」

基地の外、じんたんの後ろからバケツを持って現れためんまが目を輝かせ、嬉しそうにいった。

「おうっ!!」

めんまの方振り返って、自信満々にいったじんたん。

あの頃はじんたんがいつだって引っ張ってくれていた。



忘れもしないあの日だって。

きっかけは、あなるの一言だった。

「じんたんってさー……めんまのこと、好き、なんでしょ?」

階段に両手を握りしめ、 伺うようにじんたんをみたあなる。その言葉にじんたんが戸惑ったように「え?」と声をあげた。
もう一方のめんまはというと、顔を赤くし「えぇ?!」と照れている。

「「…………」」

思わず二人の目があって、不意をつかれたじんたんが「何言ってんだよっ!!」と赤面しながら反論した。

「正直にいえよ。超平和バスターズに隠しごとはなしだぞ」

壁に寄っかかるよう立ったゆきあつがあなるに便乗して、じんたんに問いかけた。真顔で声は真剣そのもの。帽子の下から睨んでいるようにもみえた。

「ゆきあつ!!」

照れ隠しするようにじんたんが叫ぶ。
ほたるが珍しく不安そうな表情で『よくないよ』と咎めたが、状況がわかっていないぽっぽの「いーえ、いーえ、いーえ!!」と楽しそうに囃したてる声にかき消された。「なっ!!」とじんたんがますます顔を赤らめる。
あなるの後ろ、入り口付近に立つつるこは、目を伏せ、「もう、やめなよ」と静かに注意した。

「だーれがこんなブスっ!!」

そんな空気に堪えられなかったのか、じんたんが立ち上がり叫んだ。そしてハッと我に帰り、バツが悪そうにめんまを伺う。
たいして当の本人は「へへっ…」と困ったようにふにゃりと笑うだけ。
めんまの曖昧な笑顔をみたじんたんはバッと顔を背けて、秘密基地から駆け出していった。めんまが「あっ」と声をあげた。

「待って、じんたんっ!…じんたんっ!」

めんまの制止の声も、振り払うようにしてじんたんは駆けていってしまった。めんまが、そしてゆきあつもそのあとを追っていく。



あれが、めんまを見た最後の日だった。走り去った後ろ姿だけが今でも目に焼き付いている。



瑠衣はしばらく昔のことを思い出したあと、机の一番見やすい場所に写真たてを置いた。それから宝物でも障るようにそっとなで、目を細める。

『……またみんなで集まりたい、な』

その呟きは、家の中にまで聞こえる蝉の声に埋もれるように沈んでいった。



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