side:tsuruko

『随分とキツい口振りだね、つるちゃん』

懐かしいあだなに、知利子はゆっくりと顔をあげた。電信柱に寄りかかるように立つ人物に、目が徐々に見開いていく。

「……瑠衣」

ぽつりと呟かれた単語に反応して、瑠衣は微笑んだ。

『五年ぶりだね』

そういって近づいてきた瑠衣は、知利子の真正面に立った。驚いて声も出ない知利子を一瞥し、瑠衣は呑気に『身長、つるちゃんのが高いんだね』と、肩を落としている。

「………会いたくないんじゃなかったの?」

久々に再会に喜ぶ気持ちとは裏腹に口から出たのは、先程と同様の厳しい一言だった。そんな彼女に瑠衣は肩をすくめ、『ちょっと違うかな』と、苦笑いする。

『でもまぁ…その通りなんだけど』

「どういう意味…」

『みんなには会いたいんだ。ただ、少し後遺症が残ってるというか…。』

と、瑠衣は曖昧に誤魔化した。そんな瑠衣に眉を顰めながら、「そう」と適当に相槌を打つ。

「それでさっきのは、聞耳でも立ててたのかしら?」

『偶然とおりかかって。ごめん、そんなつもりはなかったんだけど』

「別に構わないわ。…本音だし」

『…本当の気持ちは問題じゃない。…あれは卑怯だよ、つるちゃん』

「……責めるためにわざわざ追いかけてきたの?」

怒気を孕んだような口調に、瑠衣は小さく息を吐いて知利子の目をみた。

『違う。…僕はただ君と話したかった、それだけ。……こんな話、したかったわけじゃないよ』

「瑠衣……」

『それに推察だけど』と前置きしたわりには、はっきりした口調で瑠衣は言い切る。

『あれは、買い言葉でしょ?』

「さぁどうかしら?」

『本当は優しいんだ、つるちゃんは』

確信じみた言い方に苦笑しながら、知利子は瑠衣をみた。華奢な体つきは以前にも増して細くなったようで、折れてしまうんじゃないかと錯覚させる程だ。相変わらず乏しい表情も彼らしい。



「……おかえり、瑠衣」

何だか急にホッとして、気づけば知利子は思わず呟いていた。一瞬きょとんと目を丸くした瑠衣。それからふんわり笑って、

『うん、ただいま』

といった。その顔はいつかの笑顔を彷彿させるようで。知利子は懐かしさを感じた。

「絵本ようやく返せそうね。ごめんなさいね、借りっぱなしで」

『いいんだよ。つるちゃん。あれはいつでも』

『僕がつるちゃんを避けてたんだから。だから謝らないで』と笑った瑠衣に、知利子は変わらないなと呟いた。先に前を向いて歩き出したため、瑠衣の反応はわからない。だけどきっと優しげに微笑んでいるような気がして、知利子も頬が緩んだ。




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