- ナノ -




第5章-1


それからも私の記憶と手掛かりを求めて、銀さんたちとかぶき町を巡る日々を過ごして。気がつけば秋の季節を越して、木枯らしの吹く寒さが肌を刺すように感じられるほど時を重ねていた。
では何か進歩があったかと言うと、これが全くと言って良いほど収穫無し。有力な情報だと思って辿っていっても、空振りだったり、途中でパッタリと途切れて追えなくなる。
元々、簡単にいくとは思っていなかったけれども、ココまで八方塞がりの日々を長く重ねると気落ちはする。
何より、ずっと私に付き合って探してくれている銀さんたちに申し訳無いのが大きい。
彼らは気にする必要は無いとか、逆に次は可能性があるはずなど、励ましてくれたりする。
私自身も彼らといられる事が自分を探すという点を除いても、とても嬉しいのだと思っているけれども。
けれど同時に、進展の無い現状のままではいけない事も自覚しているから。
そんな時だった…『スナックお登勢』に立ち寄った際に、たまさんが話を持ち掛けてくれたのは。

「見えてきました!あそこですよ」
「相変わらずガラクタに埋もれてるヨ」
「あそこが江戸一番のカラクリ師さんのお店…」
「違ェ違ェ、ただの機械オタクなジジイだよ。おーい、たま。おめー、ちゃんと話つけてんだろうな?」

かぶき町でも奥の目立たない路地に沿って、軒並みに溶け込むように営まれるお店。
『からくり堂』の看板の下では、半開きの戸から中の一部が見えている。
神楽ちゃんがガラクタと呆れたのは、扱っているカラクリや部品の一部かもしれない。
段々とよく見えてくる外観に興味をそそられていると、銀さんがたまさんと話している声も耳を通った。

「はい、お話は通してあります。源外様も準備を整えてお待ち下さっているでしょう」
「しっかし、ホントに信じられんのか?そのマッスィーンってのは」
「マッシーンですよ、マッシーン。銀さん、微妙に発音違ってますよ」
「マッスィーンの方が格好良いアル。マッスィーンヨ、マッスィーン」
「マッスィーンですね、了解しました、データ用語を更新しておきます」
「だから違うって言ってるのにィィ!たまさんまで僕はスルーですか!?」
「新八様は既読スルーなのですね、了解しました、紹介に追加しておきます」
「オイィィィ!?サラッと余計な部分付け足さないで下さいィィ!」

たまさんへツッコミを入れて弁解をしている新八くんだけど、たまさんは綺麗に流しているみたいだ。それにしても、マッシーンかマッスィーンなら、私もマッスィーンかなぁ…と思ってしまったのは話が逸れてしまうので心の中だけにしておく。
最初の銀さんの話へ話題を戻せば、たまさんが改めて肯定しつつ説明してくれた。

「真選組や見廻組の警察機関や役所を始めとした公的機関での記録確認…かぶき町内での地道な聞き取りや捜索、私やお登勢様の情報網をもってしても、手掛かりや足取りの一つも得られていない貴女についての事…単に外的要因から探し続けていても、進展する可能性は低いと思われます。ならば、逆の要因から攻めてゆけば良いでしょう」
「逆の要因というと、外部じゃなくて内部になるから…つまり、ナナシさん自身をって事なんですね」
「そうです。ナナシ様自身も思い出せない眠ったままの脳内伝達情報を、人為的に活性化させて記憶を再構築…つまり復活させるのです」
「それがジジイの発明マッスィーンで可能ってか。どーも胡散臭ェんだよなァ」

顎下を摩りながら言う銀さんの態度は言葉の通り、不信感を隠そうとしていない。
確かに、今の説明だけを聞けば論理的ではあるし、納得はできる。
記憶喪失をカラクリで治す事が本当に可能なのかどうか…その点を簡単に信じられないのも分かる。けれども、私はどちらであったとしても、たまさんと源外さんの提案は有り難いし受けるつもりは変わらない。
いくら手を伸ばしても進む先すら見えないような五里霧中の現状…それを打開できる可能性が欠片でもあるならば、喜んで賭ける価値があると思うからだった。
気を引き締めるために、歩む足に力を入れ直して入口へ近づく。
もう目前という距離で、半開きだった戸がゆっくりと最後まで引いて開かれた。
先に開けられるとは思っていなかったために驚きで瞬いたまま止まってしまっていると、中から開けたらしい人が私たちに向かって薄く笑っていた。金髪のサラサラなストレートが特徴的な男性で、白いジャージと黒い着流しもあって、パッと見の印象が銀さんと対極的だ。
この人は一体…と不思議に思ったのは、銀さんたちの反応で解決した。

「よう、久しぶりだな。不完全体主人公、それにガキども」
「金さん(ちゃん)!?」
「てめェは!何でてめェが出てきやがる!?」

知り合いだけれど、親しい仲ではない。
銀さんが身構えたのは警戒からだと感じたので、過去に彼と一悶着あったんだろう。
すると、たまさんが前に出て間に入った。

「心配はありません、今の彼は源外様の助手です。以前のような事はできないように調整されていますし、銀時様たちに危害を与えるような真似は私が許しませんから」
「そーいうこった。俺としちゃ、お前らと関わっても何一つ得しねェが…今回は別だ。中途半端な銀色が果たせねェ依頼なら、完全である金色が果たしてやるべきだろう?アンタの記憶探し、俺なら力になれるぜ」

そう言って私に笑い掛けてくれる笑みは優雅さがあって、向けられる人はきっと大抵が赤面するんじゃないだろうか。様になっている格好良ささえ、銀さんと対のように真逆に思える。
どんな風であれ、力を貸してくれると言うならば有難い事に越した事は無いから、「ありがとうございます」と、きちんとお礼を返す。私の答えで決まったようで、金髪の男性が身を引いて通り道を開けてくれる。
お店の中へ入る時に、新八くんが彼の事について軽く教えてくれた。
彼、坂田金時さん…金さんは、銀さんが万事屋を長期不在だった時に、新八くんと神楽ちゃんが源外さんに頼んで作って貰った代理用万事屋リーダーのカラクリだというのだ。
どう見ても整った容姿の男性にしか見えないけれど、銀さんのあらゆる欠点を補う完璧な存在を想定して作られたからだと。その金さんが万事屋リーダーの完璧な代理という己の使命を果たそうと、かぶき町住民の記憶を書き換えるという行き過ぎた事件を起こしたらしい。
だから銀さんは警戒したのだなと納得しつつ、話を聞きながら見た時に、こちらへフッと笑みを向けてきた今の彼からは少なくとも不穏な感じはしないと思う。たまさんが大丈夫だと言うし、銀さんも不満そうではあるものの、一緒にいるから心配は無いと判断しているんだろう。
店内の奥へ進んで行くと、壁を後ろにして置かれている大きな機械装置の前にお爺さんが一人立って待っている。この人が天才カラクリ師の源外さんなんだと、皆の雰囲気で分かった。

「よく来たな、おめーら。その嬢ちゃんが噂の記憶喪失か」
「おう。アンタ、本当にコイツの記憶を戻せんのかよ」
「俺を誰だと思ってる?俺のカラクリにかかれば、人の記憶復旧なんざ朝飯前よ。ホレ…見てみろ」
「これが記憶復旧マッスィーンアルか!」
「普通の機械に見えるんですけど…どんな仕組みなんですか?」

「初めまして」と軽い自己紹介と今日のお願いをすれば、「畏まる必要は無ェ、困ってる時はお互い様だろ」と気さくに応じてくれた。自信満々に示してくれたのは背後にある大きな機械装置であり、これが記憶復旧マッスィーンなのだと教えてくれる。

「人の記憶ってのは、脳内にある神経細胞の巨大なネットワークだ。人は何かを覚えるにも考えるにも、テメーの神経細胞を繋ぎ合わせて情報を伝達させて形作る。昔、ある博士がやった人体実験でな、脳の一部に電気ショックを与えると、過去の記憶を思い出したって事例もあるとか無いとか…どっかで聞いた気がするが」
「いや、最初の方まともな説明だったのにサラッと恐ろしい単語が聞こえたような…人体実験って言いました?言いましたよね?」
「なるほどっ!つまり、どういう事アルか!」
「全然分かってねェ癖に堂々としてんじゃねーよ。馬鹿だなァ、お前は。要はアレだろ、叩けば直る的な」
「ソレ、アンタが記憶失った時にヤラれて駄目だった例です!!」

銀さんへツッコミ入れる新八くんの対応の速さには毎回感服するけども、確かに人体実験という単語には私も一瞬、「ん…?」って自分の耳を疑ってしまった。
たまさんが横から、マッスィーンは最近完成させた試作品で初めて起動させるのだと補足してくれる。そうなると、確かに実験を兼ねる事になるから…人体実験と言っても間違いでは無いんだろうな。
新八くんと神楽ちゃんが心配そうにしてくれているし、怯まないと言えば嘘になる…でも、どんな状況であろうと私の覚悟は最初から変わらないものだから。自身でも分かっていて、銀さんが視線を投げてきたのに頷いて返してから、源外さんとマッスィーンに向き直った。

「そのマッスィーンなら、私に眠っている記憶を呼び覚ます事ができるんですよね。なら覚悟は決まっていますから、お願いできますか」
「少しはビビるもんだと思っていたが…断言たァ中々肝の据わった嬢ちゃんじゃねーか、気に入った!大丈夫、俺の腕を信じな」
「フッ…安心しな、今回は、この俺が力を貸すんだ。アンタに損はさせねェさ」
「その、金さんが力を貸すっていうのは…」

聞いてみると、金さんが笑みつつ機械装置から伸びている配線を自身へ繋ぐ。
複数の配線で接続を完了した金さんが再びこちらを向いて、機械装置を指で示した。

「俺は人の脳内へ特殊な催眠波を与えられる機能を持っていたんだが…あぁ今は無ェぜ?理由はソイツらから聞いただろう。俺が言いたいのは、その機能のために俺が特殊な設計をされているって事だよ」
「金時は、初期の段階で人体へ影響を及ぼさない微弱な電気刺激をコントロールするプログラミングもされていたんです。ですから、今回、マッスィーンを起動させるのに彼が中枢の出力制御を担います」
「要は、金の字が変圧器の役割だ。コイツは、たまよりも金の字が向いてんだよ」
「金さんにそんな事ができただなんて…!」
「ケッ…傍迷惑な機能にも少しは使い様があったってトコだろ」
「銀ちゃん、自分が役立たずで面白くないアルか」
「そんなんじゃねェしィィ!俺は役立たずじゃねェ!無いよねッ!?」

役立たずなんかじゃないとフォローを入れるのだ、私が。
何故に私へ必死に言うのか分からないけれど、銀さんは意外と打たれ弱い所があるから…あんまりイジメないでねと、神楽ちゃんへ笑いながら耳打ちを入れておく。
そうしたら、何故か神楽ちゃんにまでニヤリとされてしまった…頷いてはくれたんだけどね。
気を取り直して、お願いしますと再び言葉にしてから、源外さんからマッスィーンに繋がっているヘッドホンを渡された。ヘッドホン?と首を傾げてしまったのが伝わったんだろう。
たまさんが「それが貴女の脳内へ電気刺激を送る装置になります」と教えてくれる。
頭から付けたり取り外しやすいようにヘッドホン型にしたらしい。
なるほどと思いつつ、装置を身につけて耳を覆う部分へ両手をあてた。

「他の皆さんは刺激の影響を受けないように、あちらまで下がってください。では、貴女の取り戻したい記憶への想いを強く頭の中で念じて下さい」
「強ェ想いってのが神経細胞を刺激して強ェ反応になる。コイツがソレを拾って、おめーの脳内へ適したショックを送り込む仕組みだ。ちっと衝撃がキツイかもしれねェが、大丈夫か」
「問題ありません、お願いします」
「良い返事だ」

少し離れた位置で心配してくれる三人と、こちらを見てくれる源外さんとたまさん。
出た答えと浮かべている顔は、強がりじゃないと自分でも分かっているから。
真剣な笑みで一言答えると、源外さんが笑ってマッスィーンのボタンを押した。
青いランプが点灯して細かく震え出すマッスィーンの起動に、配線を通して金さんが何か信号を送っているみたいだ。静電気の光が見えたと思ったら、私の頭へもピリピリとした刺激が徐々に伝わってくる。
最初は小さく響くだけだった感覚が、段々と頭へビリビリとくる強い衝撃になっていく。
「ッ」と、口元を曲げつつ…確かにコレは慣れないとキツイなと感じたけど…!耐えられないほどじゃない。
瞳を閉じて何も見えない視界の中で、思い描く一つの想いだけにひたすら意識を傾けた。

(私は、一体、誰!)

暑い夏の日差しが照りつける川沿いの土手。
瞬いて開いた瞳から、そこから全てが始まって、今日まで私という『色』になっている。
けれども、そうじゃない…もっと!もっと前の、『私』を取り戻すために。
探すために…知りたいから…!思い出したいから…!!
だから…!、耳にあてている手にも力を込めてヘッドホンを押さえる。
ビリッ!!と、今までで一番大きな刺激が私を襲って、頭の中に何かが過った気がした。

―…なって……ッ、こ……は俺が……と…で……やる!…前を…たり…ざしねー…ッ、だか…くな!

(!!)

ノイズが反響して、聞こえたような、そんな衝撃。
いや、ノイズじゃない…アレは確かに私へ向けられた声なんだと、分かる自分がいるから。
コレが探しているモノ…!!と思った瞬間、傍から異様な振動が伝わって目を開けてしまう。
「これは…ヤバイ!」の短い焦りは源外さんで…。
「ナナシ!!」と叫んだのは銀さんだと、開いた瞳にこちらへ迫る手が私を包んだかと思ったら、頭から強い刺激が離れる。視界を覆う黒いジャージしか見えないけれど、頭にあったヘッドホンの感触が消えて宙を切る音と共に、何かが異様な騒音を立てて震えているんだと察して、辛うじて首だけを向けられた。
抱き込まれて脇の方へ追いやられる刹那、「ヤベッ」と配線を千切るように自身から外して退避する金さんが見えて。瞬間、大きく不規則に振動していたマッスィーンがドォオン!と音を立てて煙を出した。
部屋に充満した煙にむせながら、まだ刺激で朦朧としている頭に力が入らず、ただ私をしっかりと守ってくれている胸板へと額を触れさせるしか無かった。



「完全に故障だな、こりゃ」
「あんだけ自信満々に大丈夫だって言ってたのに故障!?思いっきり失敗してんじゃないですかァア!」
「もう少しで爆発するかと思ったネ…!ごっさ危なかったアル!」
「不発だったから良かったものの、爆発してたら、とんでもない事なってましたよ!?ナナシさんは大丈夫ですか…!?」

出入口を開いて煙を逃がし終えた店内の空気が入れ替えられ、呼吸がしやすくなっているから。
何度か深呼吸を繰り返して、朦朧としていた意識が戻ったと思いながら「大丈夫だよ」と返事をした。
額に手をあてても、頭を刺激する衝撃は何もない。

「あの…本当にもう大丈夫ですから。銀さん…?」
「…そうかよ」

すっかり煙が晴れても、ずっと庇ってくれて近い距離が今は気恥ずかしいと暗に伝えて。
少しだけ間があってから離れた銀さんの表情は、無に近くて何を思っているのか読み取れなかった。こちらを見ている新八君と神楽ちゃんはヒソヒソと話している…のは、多分、私が情けないからだろうな。
銀さんにも守って貰って、本当に申し訳ないと眉を下げてしまった。

「途中までは正常に動いていたはずだぜ、ジーさん」
「そうだと俺も思うんだがな」

すっかり動かなくなってしまったマッスィーンの前で話す源外さんと金さんの会話が聞こえてハッとなる。急いで立ち上がった事で、たまさんが「どうしたんですか?」と振り向いてきたので慌てて言葉にした。

「上手くいっていたと思います…!」
「本当ですか!?何か思い出せたんですかッ!?」
「何を思い出したアルか!?」

新八くんと神楽ちゃんが身を乗り出して聞いてくれるのに押される。
期待を込められた目で見つめられて、ウッ…となりつつ、その先は首を横に振るので示した。

「!…思い出せなかった?」
「ううん…思い出したような、出せなかったような…どう言ったら良いかは分からないんだけど…でも、確かに忘れている何かだと思える誰かの声が…ノイズみたいに聞こえたんだ…」
「それじゃ、思い出し掛けてるんですよ!じゃあ、あのままマッスィーンが正常に動いていれば、本当に記憶を思い出せていたんじゃないですか!?」
「おおッ!やったアル!」
「源外様の発明理論は正しいとデータがとれましたね。…源外様」

喜んでくれる二人と、微笑んでくれるたまさんが源外さんと金さんへ向く。
自分で口にしてから、実際に喜んで貰えて実感できるものがある。

「…私、思い出せる…?」

今まで全く足掛かりすら得られなかった自分の事を、思い出せる…記憶を取り戻せるかもしれないと。気持ちのまま銀さんを見たら、こちらを見ている眼差しと合った。

「…銀さん」

言葉は無かったけれど、一度だけ小さな笑いがあってから、源外さんたちの方へ向いた。

「オイ、ジーさん。このポンコツを今度こそ上手く動かす事ァできねーのか」
「…上手くいくかは保障でき無ェが、もう一度だけ…あと一度だけなら、試せる可能性はある」
「ホントか」
「ああ。あと一回やりゃ、中途半端でも嬢ちゃんの記憶が戻るかもしれねェな」

マッスィーンを確認していた源外さんが振り返って、スパナを小さく振りながら今までで一番真面目に答えてくれる。それに銀さんも真面目に接して聞き返してくれていた。
けれど、次に源外さんが浮かべた厳しい顔と低い声が、店内の空気を張り詰めさせた。

「だが、そのためには下手すりゃさっきより身を張る事になる。嬢ちゃんだけじゃねェ、てめーらの力も必要になる」
「「!」」
「俺たちもか」
「あァ、そうだ。一度ぶっ壊れたコイツの大元を修理するには俺だけじゃ無理だ。それなりの人数、それも命懸けの大仕事…この嬢ちゃんのためにやろうって覚悟はあるか?」

命懸け…それは。
声を発しようとしたけれど、私の言葉を遮るように先に銀さんと…新八くんと神楽ちゃんが間に立つ。私を背にして、源外さんへはっきりと言い切ってしまった。

「言われるまでもねーよ。俺たちが誰だか知ってんだろ、クソジジイ。なァ?」
「銀さん…」
「一度受けた依頼は必ず果たすのがモットーですから。と言っても、それ以前に、貴女のためなら依頼でなくても喜んで力を貸しますよ」
「新八くん…」
「私たち万事屋にできない事なんて無いネ!だから、言う言葉は決まってるアルな?」
「神楽ちゃん…」

それぞれ源外さんへ肯定した言葉が、振り向く事で私を見ながら紡いでくれる。
あぁ…と緊張していた身が自然と緩んでしまう自覚があった。
言い切ってしまったんじゃない…彼らは、言い切ってくれたんだ…。
歩んでから三人と並んで立って、源外さんと金さん、そして、たまさんへ私も答えた。

「私たちの力が修理に役に立つなら、その大仕事、喜んで引き受けます」
「…そうか。言うと思ってたがよ」
「ハッ…やっぱりどこまでお人好しで馬鹿な連中だぜ」
「そこが人間の特性であり、無限の可能性というものです…源外様、よろしいでしょうか」
「コイツらの覚悟は受けた。遠慮はいらねェ、やっちまいな」
「畏まりました」

頷いたたまさんへ向けられた、源外さんの言葉にある違和感に気づいて「?」となる。

「あの…やっちまうって…何を…」
「受けんだろ?頑張って達成してくれよ、クエスト」
「「「「クエスト??」」」」

一斉に首を傾げて聞き返してしまった動作すらシンクロしたんじゃないだろうか。
理解できないでいる隙が致命的だった。
後ろから差した黒い影に、気がついたのが遅過ぎたのだと「!!」と、見上げてから戦慄してしまう。

「んなァ!?コイツは!!まさかッ」
「アレ…待って下さい…え?嘘ですよね?コレ、どっかで…え、嘘ですよねェェ!?」
「やッ止めロー!!罪を重ねるなァア!」
「大きな…金槌?」

いつの間に忍び寄っていたのか…間近で逃げられない距離にいる大きなカラクリが一機…。
大きく振りかぶっているのは、とっても大きな金槌で。
何をするのかと過る嫌な未来から逃れられないと、状況で察せられる自分を呪いながら、引きつり顔のまま硬直。銀さんたちの叫びも虚しく、容赦無くカラクリが巨大な金槌を振り下した。

「「「ギャァアアア!!」」」
「ッ」

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