- ナノ -




2人で1人な温もり

※not長編夢主

「ねぇ新ちゃん。アレって銀さんよね」
「え?あ、銀さんですね。銀さーん!」

買い出しに出ていた新八とお妙は、見慣れた銀の天パを見かけて立ち止まる。
人通りもまばらで静かな公園通りでも、日の光を反射する髪はよく目立った。
名を呼んで手を振る新八の横で、お妙が驚いていたのはその横の人物。

「んだよ、誰かと思えばただのメガネか、ぱっつぁんかと思ったぜ」
「いや当たってますッ、間違いなく僕です、僕が本体です!」
「フフッ、2人ともそれくらいにしましょう?そちらの方も困ってらっしゃるわ」
「あ?いーんだよ、コイツぁ新八の姉ゴリ、」

歩いてきた新八たちと合流して、かったるそうに耳をほじっていた銀時。
言葉の続きは顔にめり込んだ買い物袋で強制中断されたが。
しゃがみ込んで痛みに耐える銀時を心配すると、お妙が素晴らしい笑みで話した。

「ごめんなさい、思わず袋が」
「どんな思わず!?いでて…くそ、コレ鼻血出てね?大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと紅くなってるけど傷にはなってませんから」

打撃などいつもの事だろうに、大袈裟に聞く銀時の様子にお妙は不思議に思う。
ご機嫌さが滲んでいる銀時も気持ち悪いが、その隣の美人は誰なのかと。
自然と視線が合えば、フワリと微笑み軽く頭を下げて挨拶があった。

「挨拶が遅れてごめんなさい、私、坂田 名前と申しますの。初めまして、お妙さん」
「!、あ、初めまして…あの、坂田、名前さんですか?坂田?」

驚きで聞き返したお妙に、代わりに答えたのはニコニコと微笑む名前でなく新八だ。
「名前さんは銀さんのお姉さんなんですよ」と、びっくり発言でフォローする。
えぇ!?と驚いたお妙は、銀時と名前を見比べた。

「確かに見た目は納得しますけど。いえ、やっぱり信じられないわ。こんな美人で品があって微笑みに花が見える人が、銀さんのお姉さんだなんて!新ちゃん!」
「ですよね、僕もそう思いましたよ!万年ぐーたらの駄目な大人筆頭の銀さんに、こんな素敵なお姉さんが!って」
「あぁ、俺もよぉーく分かった。おめーら外見中身も完璧な似た者姉弟だってな」

誰がニート侍だコノヤロー、と怒りマークを浮かべるだけで耐えているのも珍しい。
口元に手をあてて少し心配そうにしている名前を気にして、必死で怒気を紛らわせているようだ。
それに、新八が小声で補足した。

(姉上は初めてで驚くと思いますが、名前さんはそんなに身体が強くないんです。だから銀さんは超絶過保護なんですよ)

最近までも大江戸病院で療養していた。
そうやって入退院を繰り返すから、名前が万事屋メンバーだと中々知られにくい。
そのため、お妙のように初めて顔を合わせる人物も珍しくないのだ。

コホリと小さくむせた名前に、ピクリと肩を揺らせた銀時は光の速さで己の巻いていたマフラーを名前に巻いた。

「風邪か!?インフルか!?とりあえずコレ巻け、喉冷やすんじゃねェ!いや今すぐ病院に、」
「!、銀?あの、大丈…」
「いや、救急車がいいか!救急車ァァア」
「落ち着けヨ、近所迷惑」
「がばぁッ!?」
「あら、お帰りなさい神楽ちゃん、定春」

後ろから定春に頭を噛みつかれて顔が見えなくなる銀時に冷めた視線を向けるのは、定春を遊ばせてきた神楽だ。
名前が手を伸ばすと、ぱぁと顔を輝かせて「ただいまアル!」と軽く抱きついた。

「聞いてヨ、名前ちゃん。定春と一緒に遊んでいたら、チンピラに絡まれて最悪だったネっ私、怖かったアルー」
「まぁ大変っ、大丈夫だった?神楽ちゃんに怪我がなくて良かったわ」
「騙されないで下さい、名前さん!神楽ちゃんの手にかかればチンピラの方が可哀想ですよ。神楽ちゃんも名前さんに甘え過ぎ!」
「ふふーん、羨ましいって言えヨ新八」

名前に軽く抱きついている神楽が新八にドヤ笑みを見せたので、うっと悔しそうな顔で「羨ましいに決まってるじゃないか」と反論した。そのまま神楽と取り合いを始めそうな流れを制するのはやはり。

「コラッてめーら!名前から離れろ、甘えていいのは銀さんだけだっつーの」
「「シスコンも大概にして下さい(するアル)」」
「シスコン上等だ、コノヤロー」

復活したらしい銀時が神楽を引き剥がし、新八も含めて三つ巴に火花を散らす。
しっかり銀時の後ろに庇われながらも、定春を撫で撫でする名前にお妙が話しかけた。

「みんな、名前さんの事が大好きなんですね」
「私も皆さんが大好きですから嬉しいです」

クスクスと小さな笑いを伴う答えは、暖かく優しさを帯びたもので。
すんなりと落ち着く心地良い雰囲気が名前の魅力かもしれないとお妙でさえ納得した。
現に自身も非常に好感を持っているから。

和やかな会話を続けていると、後ろから「楽しそうですねィ」と声を掛けられる。
2人して振り返れば、沖田と土方が後ろ近くにいた。

「はい、お妙さんのお話が楽しくて。こんにちは、総悟くん、十四郎さん」
「こんにちは。名前さんもお元気そうで何よりです」
「(総悟キャラ違ェ!?)お、おうッ…」

名前の視線が合うや否や、普段のドSは!?と聞きたいくらい爽やか少年なスマイルで挨拶する沖田に土方がドン引く。
しかし、驚かずに「総悟くんはいつも素敵ですね」と対応するあたり名前にとっては当たり前らしい。

「名前さんが退院されたって聞いて僕嬉しくて。あ、コレ良かったら、少しですけど」
「まぁ、チョコ!甘いもの好きなのっ、ありがとうございます」
(サラッとGODIVA出しやがったよ!何でもねェように出すとかどんだけスキル高いんだコイツ!)
「最近は外も物騒ですから気をつけて下さい、僕らも見回り頑張らないといけないです。ね、副長?」
「(誰ェェ?!俺を副長と微笑むコイツは誰だァァ!!)お、お、おう、そうだな…頑張らないとな、ハッハッハ」

震える手でタバコを咥える土方だったが、3本は咥えすぎて口からポロリと落ちる。
それは、沖田の有り得ない猫かぶりか、微笑む名前に見惚れて動揺しているせいか。
かくも、2人の様子を伺っていたお妙も近づきすぎな名前の間にガードとして入ろうとした。
結果としては、3つ巴で火花散らしていた万事屋トリオが乱入する事になったが。

「人がちょっと目を離した隙に、なに名前に近づいてやがるッ!離れろ見るな近寄るな!」
「何だ、その語呂の良い三段活用!?ふざけんな、名前と話すのにてめェの許可なんざいるか」
「あるに決まってんだろ、俺の片割れですからぁー?全部銀さん通す必要があんだよ!」

名前と土方の距離が近くなっていた間に割って入り、青筋と殺気飛ばしな笑いで牽制する銀時。
「そんなに強調しなくても大丈夫ですよ?」と宥める名前とドヤ顔でこちらを見ている銀時を見比べて土方は納得いかない。
確かに、名前と銀時の容姿は同じ銀色の天然パーマと紅い瞳であり、パッと見ても血縁がすぐに推測できる。
ただ、どうしたって納得が出来ない…否、したくない。

「俺は未だに名前さんが旦那と双子とか信じられねーや」
「良い事言うアル。それは私も同じネ」
「あ、僕もです」

いつになく結託する十代トリオの回答は一貫していて、名前は小さく笑いながら返した。

「よく言われます、でも私は、」

少し言いかけてゆっくりと続きを紡ごうとした時、ワッハッハ!という高笑いで視線が逸れる。
「名前ではないか!」と呼ぶ声に反応して振り返れば、ちょうど木陰から名前だけを目に止めたらしい桂だった。
ちょうど木々の死角になっているため、真選組2人に気がつかず歩いてきてしまう。
あ、と何となく次を予想した新八が汗を垂らして、神楽が冷めた目を向けた。

「久しぶりだな!元気そうで安心したぞ」
「私も会えて嬉しいわ、小太。でも今はちょっと…」
「何、ついに俺と添う気になってくれたか」
「いえ、お話は嬉しいけれど…あのね、今は危ないと思うの」
「む?」

顎に手をあてて首を傾げた桂だったが、名前の後ろから目をギラリとさせた2人が目に入る。
あ、と呟くも遅し…バズーカ―を取り出した沖田と抜刀した土方が同時に叫んだ。

「「桂ァァァ!!」」
「いかん!ココは逃げるぞ!リーダー、新八くん!」
「ちょっとォォ?!何で僕らも巻き込むんですかッ」
「離すアル!1人で逝って来いヨッ」
「あ、新ちゃん!」

何を思ったか、両手で神楽と新八の片手を掴んで逃亡を図った。
そんな桂を追いかけて、煙を上げてギャーギャーと小さくなっていく面々を見送り名前は静かに瞬く。
後ろで頭をガシガシとかいて、普段の気だるい雰囲気になっている銀時に振り返った。

「銀はみんなを追いかけなくても良いんですか?」
「なぁーに言ってんだ、俺がおめーを置いてくわけねーだろ。むしろ、独占できて最高みたいな?」
「いつまで経っても甘えたなんですから」
「俺だけの特権だしィ?」

伸ばされた手へ手を重ね、ゆっくりと引かれながら歩き出す。
何気なく、「ところで、さっき何言いかけてた?」という問いにもう片手の指を口にあてて笑んだ。

「うふふ、それは秘密です」
「そーかよ…ま、おめーが楽しいなら何だって良いけどな」
「…でしたら、銀。コレは教えちゃいます」
「ん?」

少し前を歩く背と横顔に、秘密事を話すように伝えた。

「私は、銀と一緒に過ごす時が一番楽しいですよ?」
「俺だって同じだ、コノヤロー」

ニカッと笑み返す銀時と頷いた名前の互いに繋ぐ手が強まった。

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