- ナノ -




雪降る中で


シンシンと雪が降り注ぐ中、今日も依頼の無い万事屋で銀時を派手にぶっ飛ばした娘。
壁に激突してピクピクしている己の父親を気だるげな無表情で見下ろす。

「…娘ちゃんッこんな天気じゃ依頼も探しに行けねェからねッ…そんな怒らず!」
「おかーさんはお仕事してるよ」
「名前ちゃんは局長補佐だから仕方ねェの!銀さんだってちょォォォ不本意だけど仕方ねェの!」

復活した銀時は、自分の木刀を突き付けている娘の無表情が少しだけ揺らぐのを見る。
銀時譲りの死んだ魚の目のようでも綺麗と言われる蒼い輝きに見える陰り。

「ずっと、お仕事してる…ずっと」
「!…娘、お前」
「触んな天パ。もう知らない!」

手を伸ばしてきた銀時の手を振り払って、睨みつけるとバッと走り出して玄関を開けて行ってしまった。
後ろから何か叫んでいる銀時の声を無視して。

(おかーさんは凄い人、仕事もできて強くてかっこよくて…。おとーさんはマダオでプーでどーしょもないだけど、ホントは少しだけかっこいいのは知ってる)

雪が降り積もる通りを駆け抜け、娘は白い息を吐き出す。
見上げる空は曇り空で、噛みしめた唇の痛みがヒリヒリするも曲がった角で立ち止まる。
随分と走ってきてしまったらしい、そこには古びた祠と雪をすっかりかぶったお地蔵様がいた。

「…ホントは知ってるんだよ、あたし。2人が色々な人たちに必要とされてるコト。みんな2人が大好きなコト、2人もそんなみんなを助けようと頑張るコト」

お地蔵様の頭にかかる雪を払い落として、そっと手を置いて撫でる。

「きっとあたしよりもみんなを優先するコトも知ってる。命掛けて守るのも、きっとみんなの事だって」

(あたしのタメだけなんて、有り得ないコトだって)

俯く娘の表情は相変わらず無表情、ただお地蔵様を撫でる手が握られた。
すると、どこからか頭に響くような声がして雪音は驚いて顔を上げた。

―そんなことないよ
「…!だれ?」
―ワタシは知ってる、君のコト、その2人のコト、君が生まれた時から

パァアアと一瞬、娘の視界が真っ白に染まる、瞬けばそこもやはり白い世界。
変わらず雪が降り続ける中で、祠のお地蔵様の積もった雪を払う姿と寄り添うように隣で頭をガシガシかく姿。

「お前、ひょっとしてココ通る度にそれやってんの。律義なこって、それよか早く帰ってこいよ銀さんさみしィーの」
「アレ、銀さんだって私迎えに来てくれる時、雪払ってあげてるでしょ?知ってるよ」

何で知ってんのォ!?と叫んで顔を引きつらせる銀時に名前が笑って腕の中の赤子をあやす。

「娘ちゃんはご機嫌ですねェー。俺があやしたってこんな笑いませんけど」
「そんな事ないよ、娘はパパが大好きだから照れてるんだよ。ねぇー?娘」
「パパだってママも娘ちゃんも大好きですよコノヤロー!愛し過ぎてたまんねーんですよ俺のバカヤロー!!」

その光景に娘は目を細める。
知らなかった、自分が生まれたばかりの頃はこうして2人であやしていたのかと。
視界がもう1度光って景色がもとに戻る。
ただ、降り続く雪を見上げた空を静かに見上げた娘の瞳からは涙が溢れていた。
グスリと鼻をすすった瞬間、引き寄せられる身体。2つの暖かい温もり。

「「娘!!」」
「…!!ふえッ…おとー、おかーさん!もっとあたしを見てよォッ1人は寂しいよォッ」

糸が切れたように大泣きする娘を抱きしめる名前に、2人を抱きしめて苦い顔をする銀時。
名前は安心させるように娘の涙を拭いて柔らかく笑った。

「娘はパパに似て強くて優しい子。ずっと寂しかったの我慢してくれてたんだね、どうしようもないママでごめんね。でもこれだけは信じて、娘の事を世界中の誰より大切で愛しくてたまらないのはパパとママなんだよ?」
「(いやこの意地っ張りっぷりは名前譲りだろ)急に飛び出して心配でどーにかなると思ったんだからなバカヤローが!新八も神楽も大慌てで探してるし定春は俺に噛みつくしかしねェし!!あァ、くっそッッ」

そんな2人のやり取りを見ていた娘は瞬いた後で、小さくフフと笑う。温もりに包まれていると、あんなに悲しかったのが嘘のように消えてしまうから。

「うん、ごめんなさい。もうだいじょーぶ。おとーさん、おかーさん。大好きだよ!」

名前と銀時に抱き着く娘は花が咲くような綺麗な笑顔だった。
謎の声はもう聞こえなかった。

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