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ここ一週間、掃除当番になってからわかったことがある。

「このくらいでいいかな」

「いいんじゃない?」

「じゃあもう終わりでいっか」

「やったー!そうしよ!」

「あれ、秋瀬さんもうおしまいにしよー」

「…ああ、私またてきとーに片すから、いいよ置いといて」

「そう?じゃあおねがーい」

「ありがとー」

何か知らんが女の子達が早く帰りたがるのだ。箒をロッカーに立てかけて、行こ行こきゃっきゃとパタパタ教室を出ていった子らの背中を見つめて、ため息を一つ。ポケットから携帯を出して癖のように指を動かしTwitterを開くとヒュッポンという音と賑やかなフォロワーさんたちの呟きが私を迎えてくれる。はぁ、やっぱりTwitter落ち着くわ。マジバ寄ってアップルパイ買わねばと呟き、携帯を閉じる。
改めてぐるりと周りを見渡すと…まぁ掃除の雑なこと。

机は揃ってない
黒板はチョークの粉残ってるし
黒板消しはまだ白い
教室角には砂埃
クリーナーは最早手をつけてない

なぁーにが大丈夫ーうふふ!おっけーだ。全然おっけーじゃねぇわ。主にお前らの頭が。なんかよくわからんが浮かれるのはいい。早く帰りたい気持ちも私も激しく同意する。でも掃除くらいはしっかりやってけよ。お前らが使って汚してる教室だろ。
椅子をまた全部机の上にあげて、黒板消しをクリーナーである程度粉を落としてから窓の外で徹底的に叩く。げほげほとむせる声が聞こえた気がするけどスルーで。窓の下から睨んでくる金髪とは会ったこともないし関係もございませんし私掃除してるんで。だから睨まないでくれますかね睨むなっておい黒板消し落としてやろうか。

「あら、あなた1人でなにしてるの?」

突然聞こえた声に窓から視線を外し、扉の方を向くと、誰だ。
黒髪の多分先輩がこちらを覗くように扉のところに立っていて首を傾げる。誰に言ってんの?わたし?私か。というか、今オネエ言葉が聞こえたんだけどこの人が喋ったの?このでかい人が?いや確かに綺麗かもしれないけど。
そうじ、ですけど
私が戸惑っているのが伝わったのかいきなりごめんなさいねと綺麗に微笑んだ先輩は断りもなく教室に入ってくる。でかいでかいと思っていたが近づくとひしひしとそれが伝わってくる。一気に私のパーソナルスペースは侵されてしまった。なんてことだ。

「近道しようと思ったら、あなたが見えたものだから」

ほら、3年の教室って3階でしょう?そのうえ洛皇なんて一番遠いから、と続ける声はどこまでも穏やかだ。へえそうなんですかと興味なさげに呟いてあらかじめ濡らしてきた雑巾で黒板を拭いていく。その間もじいっと観察するように見られていて、別にどうということではないけれど、居心地が良い訳はない。というか部活はいいんかと聴きたくなったけど私がお節介することでもないと思い、たまに窓の外を見たりしながらもくもくと掃除をする。
教壇の上には黒板を綺麗にする用に絞った雑巾がずらりと鎮座しているはずだが振り向いた時にいつの間にかオネエ先輩が教壇に肘をついてこちらを見ていたから思わず雑巾を投げそうになった。なんなんだこの人。不審感たっぷりの視線で見ているとねえ?と声をかけられて肩がびくつく。いきなり喋らないで頂きたい。

「あなた、掃除の仕方きれいね」

「はあ、」

「アタシちゃんとモノを大事にできる子って好きよ、その調子で頑張ってね」

あ、そっすか。という前に教室を出ていってしまったオネエ先輩のインパクトが強すぎて、誰もいないのをいいことに吹き出して大声で笑う。いや、むり、すごいなあの人。意味わからん。すっごい肌キレイだし一々動きしなやかだし最後なんて、ぶふっ、ウインクっ…!思春期の男の人のウインクなんて初めてみたけど思わずぽかーんだ。
はぁー、と目尻に溜まった涙を拭って雑巾をもう1枚手に取る。ちゃんとモノを大事にできる子って好き、ねえ。でも当たり前のことだしな。しかも他の子を追い返してまで掃除してるんだから責められこそすれ褒められるようなことではない。
あ、そういえばオネエ先輩はどうして1人で掃除してるのかとか他の子はどうしたのかとか聞いてこなかったな。まあ、聞かれても普通に答えるまでだけど。変な人。あ、この学校変な人ばっかだった。



中途半端は許せません
(Twitterでオネエさんに好きって言われたと呟いたら大変な数のお気に入りとリプライが来て大変でした)

 

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