09 [1/1]

「じゃあ今日の授業はここまで」

先生が出ていけばすぐにがやがやと沸き上がる教室。

はら、へった…
ぱたんと突っ伏してもそもそと教科書をしまう。今のが時間ぴったりに終わらせる先生ではなかったらきっと私はもう駄目だった。餓死していた。
くそー朝もっと余裕持っておけばよかったな。そうすれば朝ごはんだって…ああ、おなかすいた…
春の朝らしからぬオーラを一人で放っていると、頭の上に手が乗せられて一緒に爽やかな声がふってきた。

「なーに突っ伏してんの」

「出たなイケメン高尾君」

私を気にかける人なんて居ない。未だに女子グループに入っていけないから友達なんていないし。居たとしたら先日知り合った意外とお節介の彼くらいだろう。
そうこの高尾君は意外とお節介で、後ろの席の私が度々忘れ物したりしているのを知ってからは移動教室の時わざわざ教えてくれたり課題見せて〜なんて言ってはさり気なく忘れ物チェックしたりする。おかんかよ。ありがとう。
一度断ったりしたこともあるけど俺がやりたいの!と言われてしまっては何も言えない。私は嫌なんだけどって言ったけど。だって、ねえ?面倒でしょ、他人の忘れ物だとかそんなん。私だったら嫌だわ。
イケメンとか照れるとケラケラ笑う彼の手を退け顔を上げる。はいはい、イケメンは心の中もイケメン、と。
と、こんなことしてる場合じゃない。お腹空いてたんだった。
本当は動きたくもないのだけれど。よっこいせと腰を上げて立ち上がれば不思議そうな目と視線が合う。

「どっか行くの?」

「んー、ご飯」

鞄をごそごそと漁って弁当箱と途中で買ってきたいちごみるくを手にすれば簡潔に言葉を残す。
特に止めるでもなく追い払うでもなくいってらーとひらひらと手を振って笑顔で送り出す高尾君との距離はとても心地良い。
なんて気軽なんだ。素敵。
いやあいい人と出会えたなんてことをしみじみと思っていたら屋上に着いた。がちゃりと扉を開ければ爽やかな風が吹き少し目を細める。
漫画や小説では屋上はお昼ご飯の人気スポットみたいだけど、私の学校は解放こそしてるものの屋上に人は滅多に来ない。超風強いからだとか。ぼっち飯には最適だよほんと。

誰か入ってきたら気まずいし何より私チキンなのでタンクの上に上がる。ここ割りと見つからないんだよねー。やっぱ王道は最強ってことか。
たんたん、と梯子を上りひょいと顔だけ覗かせる。


………………ん?
私の目がタンクの上に居る何かを捉えた瞬間、反射的に頭を下げる。見間違いだろうか?何か、人が居たんだけど。
もう一度そろりと顔を覗かせる。すると視界の大半を占める健康的すぎと言える肌の色、濃い青。

「なんだおめー」

「ひぎゃあああああ!」

半眼で面倒そうに口を開いた目の前のガングロに悲鳴を上げたのは仕方ないと思う。



「お、これうめぇな」

「ふざけんな死ねください」

何故、何故私が先程会ったばかりの、この一昔前のギャルみたいな肌の日サロ野郎と昼を共にせにゃならんのだ。
今日二度目の、ひょいと目の前のお弁当から消える卵焼き(タラコ入り)を見送りながらそんなことを考えていた。
それは私の好物なのに。うっめぇーじゃねぇよ当たり前だろ殺すぞ。

でも何故私が違う場所へ行かないかと言うと昼休みの鐘が鳴り時間が経った今、既にトイレは女子のアジトになっているし。中庭はリア充の巣窟。校舎裏は上の階の窓から丸見え。
ここくらいしかないんだよ…私の安らぎの場は…

なのにこの男と来たら自分が教室に弁当を忘れてきたからと言って人のおかずをさも当たり前かのように摘まみ食いしてるのだ。死ねばいいと思う。
実力行使をしないのか?だってこいつ外見不良なんだよ?なんなの?DQNなの?こわ。もうやだはよ昼休み終われ。



時代遅れの最先端
(あ?もう卵焼きねーのか)
(全部お前の腹ん中だよ日サロ)

 

[back]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -