ロマンチックをはじめましょう


静かな教室にパチン、パチンと二人分のホチキスを止める音が響く。窓からはまだ青い空が覗き、その青さにハァとため息をひとつついた。
なんで僕がこんな雑用なんてやらなきゃいけないワケ?あの新米の教師ほんとなんなの?
部活に行けないことによる若干の苛々をぶつけるようにホチキスで紙を止めていく。しかも袋とじとか、殿じゃあるまいし。
何故こんなに苛つくのか。ため息をついてまたひとつ、バチンと強めにホチキスを鳴らせばホチキスの音がひとつに減って、目の前で一緒に作業をしていた少女が口を開いた。

「もしよければ、だけど。私がやっておくから常陸院君は部活行って大丈夫ですわよ?」
「え?あー…いいよ。てかなんで如月サンそんな喋り方してんの?似合わないし。いーよ。普通に喋って」

早く終わらせれば済む話しだし と、また紙の束を留めてあと半分くらい。
前の僕なら確実に帰ってた、けど。こんなんで部活行ったら確実に馨とハルヒになんか言われそうだし殿とか絶対五月蝿いに決まってる。だったらこのままさっさと終わらすのが一番だ。
…それにこのままで一人だけ先に部活行くなんて後味悪いし。
何がおかしいのかわからないけどくすくす、と笑う気配にお嬢様言葉似合わないって自分で言うのもなんだけど随分な言い草だと思うけどそんなんで笑うなんて変なの、と思いながら意識を手元に戻す。

「最近常陸院君丸くなったよね」
「ハァ?」

唐突な言葉に思わず顔を上げると真っ直ぐな目と一瞬目が合った。しかしそれはすぐに逸らされ彼女の目は手元の束ねられたプリントに向けられた。
ナニ?また取り入ってお家共々仲良くしましょう系?
そう思ってしまう自分が少し嫌になりながらも探るように見てみるが、眼鏡をかけているせいかその表情はイマイチ読み取れず何を考えているか全くわからなかった。

「中等部の頃は話しかけても基本無視とかだったのに最近は何か前みたいな近寄るなオーラ?があまりない気がする」
「いや、まぁ…あの頃は僕らも子供だったというか世界が狭かったんだよネ」
「そっか、これも藤岡さんのお陰かな?」
「………は!?いやいやいや!なんでそこでハルヒが出てくるわけ!?」

なんだお決まりの感じかツマンナイとホチキスとプリントを放り投げ机に頬杖をつくと思ってもいなかった言葉にガタタッと体勢が崩れた。
いや、確かにハルヒのお陰っていったらそうだし、そうなんだけど何ていうか。

「え?だって常陸院君が変わったのって高等部上がって藤岡さんと仲良くし出してからだし…あと部活始めてからかな?」
「ちが、くないこともないケド…」
「でも前に比べて凄く楽しそうだしいいね、凄くいいことだと思う」

ホスト部さんに感謝だねと笑う如月サンに引っかかるものを覚えて動きを止める。
パチ、パチ、と如月サンがホチキスを止める音が響いていたがそれも止まり、どうしたの?と顔を覗き込んできたけど。
どうして気がつかなかったんだろう。

「如月サン、ってさ。僕のこと何て呼んでる?」
「常陸院君」
「馨は?」
「常陸院君、だね」
「…何で僕と馨で呼び方一緒なのさ」
「あっ、ごめんなさい、名前でなんて馴れ馴れしいかと思って…」

想像してた答えと少し違ってぱちぱちと数回瞬きをする。
なんだてっきり見分けつかないとか言うと思ったのに。ま、ほんとにそうでも馬鹿正直にそんなこと言わないか。

「ま、今はいいや。じゃあハルヒは?」
「藤岡さん」
「なんでハルヒは さん なの?」
「え?だって藤岡さんって女の子じゃ、ない…?あれ?でもそう言えば男子生徒用の制服着てる…。なんで?前に生徒手帳を拾った時は女の子だった気がするんだけど…
え、私今まですごく失礼なことしてた、どうしよう、謝らなきゃ…」

わかってたんだ、ハルヒが女って。
そう言えば彼女はハルヒがホスト部に入る前から仲良さそうに話してたりしてたっけ。物好きだなあとは思ってたけど、ふーん面白いじゃん。
その間にもおろおろしながら、ホスト部に入ってるんだから当たり前かと呟いてる目の前の少女にバレないようににやりと口角を持ち上げる。

「それならさ、謝りに行こうヨ」
「え、でももう帰っちゃったかも」
「まだ居るよ。きっとね」





「ねえここ音楽室だけど…」
「知ってるよ?」

知らないってことは来たことないのか。ま、そういうの好きそうな感じじゃないし珍しくもないか。
心なしか逃げ腰の如月サンの手を掴み、ガチャリと重さのある扉を開く。
ここでいいに決まってるじゃん。だってここは、

「「「いらっしゃいませ」」」
「え…」
「僕らの部室だモン」





ロマンチックをはじめましょう
(きっと面白いことが始まる)(そんな気がするんだ)







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うわあ続きそう。原作は終わってしまいましたが、常陸院ブラザーズが好きすぎて爆発しそうです。ばーん。


 

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