07 [1/1]

気持ちの良い朝。
青く澄んだ空は晴れ渡り、心地良い風が吹く。
こんな日はスキップでもしたいけど周りの人の視線があるので衝動にブレーキをかけてゆっくりと歩く。
朝から冷たい視線を浴びたいなんて危ない性癖は持ってないからね!

あの角を曲がれば学校はすぐそこ。特に行事はないのだけれど、心なしか学校に着くのが楽しみになってきた。
意味もなくわくわくする時ってあると思うのね。今日の私はそんな日。
ふんふんと鼻歌を歌いだしそうな気分になりながら角を曲がる。

「うわ!ちょ、どけっ!」
「え?」

焦ったような怒声が飛んできと何事かと思って思わず振り向く。
―――――その瞬間

べちょ、
強い衝撃と共に胸元辺りに変な違和感。
痛い痛い痛い!!!!おでこと肩となんかあちこち痛い!
なに?もう…!

なんだか数日前にも同じようなことを体験した覚えがある。まあ今回は加害者ではなく被害者な上に随分と過激でプラスアルファがあるみたいだけども。
ぶつかった反動で尻餅をつきぼんやりとそんな事を思いながらふと違和感のある胸元を見る。
と、そこには鮮やかないちごジャムがべったりと…それはもう見事に制服についていた。

うわぁ…

「ってえな…!」

聞こえた怒ったような声に、私の方が痛いよっ!と思いながら胸元ではなくぶつかった相手を見ると、パンを咥えた少年が。
…お前はどこの少女漫画のヒロインだ。
ふわふわしてる頭の少年はいててと頭をさすっている。…ふわふわ?いやあれはどこかで見た。確か昨日の夕飯に……

「…ワカメだ」

「あ゛?」
「イエ、ナンデモ」

海藻の名前を口にした瞬間ギロリと睨まれて思わず目をそらす。
怖…何この少年怖い。何で最近の若い子はこうすぐキレるの?カルシウム不足?それとも海藻に何か恨みでもあるのだろうか…確かに消化は悪いけどあんなにミネラルたっぷりなのに。

「……」
「………」

そんなことを思いながらちらりと見るとまだ睨まれてて思わず目をそらす。
いやだから怖いって。睨むなって。

でも、これだけは言っておかねば…そう決心した私はごくりと生唾を飲み込んで未だ私のことを睨み続ける少年を見て口を開く。




「…あの、口の周りジャムついてますよ?」
「…っはぁ!?んな事はどうでもいいんだよ!お前ふざけんな!ちゃんと前見ろよ!」

せっかく親切心で言ってあげたのに凄い勢いで怒鳴られた。
えー。身だしなみは大事なんだぞ。
私が不服そうな顔をしていると、少し赤い顔でごしごしと口元を拭って(一応気にする辺り可愛い)まだ何か怒鳴っていた少年は腕時計を見てぎょっとした。
え、なに、まだ予鈴の時間に余裕はあるはず。だって私の家から学校まで30分くらいだけど今日家出たの7時前だし。

「やべぇ!こんなことしてる場合じゃねえ!副部長に怒られる!」

頭の上にはてなを飛ばし、首をひねって考えてると「俺まだ死にたくねえ!」とか物騒なことを叫びながら凄い勢いで走っていってしまう少年。何だったんだ。
台風のようなワカメ少年に呆気にとられて少年が駆けていった方をぼけっと見ていれば横からすっと手が差し出された。
不思議に思ってその方を向けば

天空の城ラ〇ュタで見た顔だ。
いつぞや私がネタを勝手に使ったから注意しにきたのだろうか。滅びの呪文を唱えたら退散してもらえるだろうか。
どうしようついに現実と二次元の区別がつかなくなってきた。

「大丈夫ですか?」
「喋った!あ、いや、はい!」

ぐるぐると思考を巡らせていれば声をかけられたのに驚き、思わず差し出された手を掴めばぐいっと意外と強い力で引っ張られて立ち上がる。

…どちら様で?最近こんなこと多いな。

「これを使ってください」
「は、」

名前を聞こうか、しかしまた幸村君や柳君の時のように余計なことを口走ってしまうかも…と悩んでいると、差し出される綺麗なハンカチ。

え?

「そのままでは支障が出るでしょう」
「いやいやいやでも汚れちゃうし!」
「いえ、このままでは私の気が済みません」

そういう問題じゃないと思う!
だってジャムなんて拭いたらそれこそハンカチに色移っちゃうかもだし所詮は着色料だから落とすの大変なんだよ!?
そんなことしたくない!

「や、受け取れませ」
「人の行為は素直に受け取るのが礼儀だと思いますよ。私、急いでますので早くしてください」
「……は、」

ぽかんと口を開けて思わず二度見する。え?あれ?さっきの紳士ぶりどこいった。
半強制的にハンカチを握らされると満足そうな顔でにっこり笑う似非紳士さん。笑顔なのに怖い…何この人…

「彼には私から言っておきますので。それではアデュー」
「は、あ…」

彼って誰。あ、さっきのワカメ少年か。知り合いなのか。
ハンカチを握ったまま呆然とする私の頭の中では、さっき似非紳士さんが発した言葉がぐるぐると回っている。インパクトありすぎでしょ。
アデューってなんだよ。










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