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依然として固まったままの私の後ろからすいっと手が伸びてきたと思うと私が必死で取ろうとしていた本をいとも簡単に取る後ろに居る誰か。さっきの私の努力は何だったんだ。
というか、誰だ。ぎぎぎと若干ぎこちない動きで後ろを振り向くと……誰。

「誰だ、と椿が思っている確率99%」
「!?」

いきなり確率とか言って私の思っていることを当てた和風美人さんを思わず二度見する。
確率って何!というかこの人超能力者か。何で私の名前知っているんだ。やっぱり超能力者か。

「椿初流。3年E組。2月10日生まれ水瓶座O型。今年の春に父親の転勤で立海に転校。引っ越した数は10回にも及び各県を転々としているが今は神奈川県に落ち着いている。身長は157p。体重は……フッ、伏せておこう」




な に こ の 人

つらつらと並べられる個人情報は一寸の間違いなく私のもの。
やっぱり超能力者なの!?いや落ち着け私。超能力者なんて居るわけ、

「超能力者など存在しない」
「ですよねーあっはっは……」

!?
私今声に出してな…!
ガタンッと本棚にぶつかり思い切り狼狽える私を面白がるように和風美人さんが薄く笑う。

「ふっ…少しからかいすぎたようだな。お前は表情に出やすい」

この和風美人さん性格悪い…!
イケメンだからって背高いからって許されると思うなよ!いや私は別に低いわけじゃないけど!平均的だけど!

その前に、

「………どちら様ですか」

そして冒頭に戻る。
私が叫びだしたい衝動を抑えそう言うと軽く目を見開いた和風美人さんは先程とった本をすっと差し出す。

「…これが取りたかったんだろう?」
「…………。」
「どうした?違ったか?」
「や、ちち違くないです!ありがとうございます」

元の棚に戻されそうになって慌ててお礼を言い本を受け取る。
…人見知り故だよ決して、やっぱり目閉じてたのかとかびっくりしたとか思ってないよ。

「それと、先程の問いだが。俺の名前は柳蓮二だ。目は開いている」
「はあ…ええ!」
「何だ」
「イエ、ナンデモ…」
「…お前の事を知っていたのは簡単だ。この前椿は生徒手帳を落としただろう?」
「…は、何でそれを」

私は落としたのさえ幸村君に渡されるまで気付かなかったのに。少し驚いて柳君を見上げればすんなり答えが返ってきた。

「答えは簡単だ。あれを拾ったのは俺だからだ。その時に時期外れな最近転校してきた生徒の名前と顔が一致した」
「へぇ、それで…」

納得したように頷けばそうだと薄く笑う柳君。美人だなぁ。
単純に凄い記憶力だと思った。
よく憶えてられるよね。私だったらすぐ忘れる自信がある。

「って事は柳君は幸村君のことを知ってたり…」
「ああ。精市とは友人であり仲間だからな」
「へぇ…や、でも何でわざわざ幸村君に渡すよう頼んだんですか?」

類は友を呼ぶ。やはり幸村君と柳君はお友達だったらしい。
というか確か幸村君は拾ったのは俺じゃないと言っていたから、柳君が拾ってわざわざ幸村君に私に返すように言ったというのは本当なんだろう、けど。
人づてにだなんてそんなめんどくさい…

「この間お前と精市が廊下で何やら話していたのを見かけたからな。面識がある奴から受け取った方がいいだろう」

今、すごく彼がキラキラと菩薩のように輝いてみえる。柳君って実はいい人なの!?凄い常識人みたい!

って廊下………え、まさか、

「ああああああああああ!」
「どうした」
「あああの幸村君の注意をそらしてくれた和風美人さん!」
「別に注意をそらした気はないんだが…そうか、俺は和風美人か」

通りで見たことあると思った!なんで気付かなかったよ私!
はぁー世界って案外狭いんだな…
1人でもやもやがとけて満足してふと前を見ると柳君が肩を震わせていた。これ絶対笑ってるだろ。

「、すまない……それよりあの課題をやるならこっちの本の方がいいぞ」

ツボにハマったのか笑いの沸点が低いのか暫く肩を震わせて静かに笑っていた柳君だが(怖かった)、笑いを噛み殺しながらそう言うとまたなと行って立ち去っていった。
幸村君と言い柳君と言い笑い上戸なの?やっぱり類は友を呼ぶんだな…

さっき柳君が指していた本を手にとりぱらぱらと読むと、確かに柳君が代わりにとってくれた本より詳しい内容が書いてあった。
柳君ってやっぱりいい人…!



しかし私は気付いた。
知人から渡して貰った方がいいという配慮や、より良い本を教えてくれたのはとても嬉しいし、いい人だと思う。けど、よく考えてみて下さい。
と誰に言ってるんだかよくわからない事を考えながら私は立ち尽くす。私の手には最初にとってもらった本。

………これ、どうやって戻すの?








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