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放課後。
教室には数人まだ人が残っていて話し声があちこちから聞こえる。

この立海大附属校ではちょっと面倒なことに文武両道を掲げている為、委員会か部活どちらかに所属しなければいけないという決まりがある。
あ、でも今まで転校続きでろくに部活動なんてできなかったからちょっと、いや大分楽しみかも。
きっと、今教室に居残って話してる人たちはそんなに時間に厳しくない文化部か、帰宅部で委員会のみに所属している人たちなんだろう。

かくいう私もどちらかに入らなければいけないわけだけど、初夏という微妙な季節に転入してきた為、委員会決めなんてとっくに終わっているわけでして。
転校したてということで時間は与えられているけれど部活を絶対に決めなければいけないらしい。
さらにその期限も今月末には切れてしまう。早く決めないとなぁ。
でも至って普通の私は当たり前だけど運動が得意なわけじゃない(逃げ足は速いけど)、かといって楽器が出来るわけでもない。ちょっと人より転校しててお人好しで逃げ足速いくらい。うわ、ろくな特技じゃないなあ

………うん、無難にクッキング部にでも見学に行って決めちゃおうかな。みやびちゃんにあげるお菓子のレパートリーが増えると思えば…よし、そうしよう。
ちなみにみやびちゃんは女子バスケ部。私はバスケのルールはよくわからないけど、真剣な表情でボールを追いかけシュートを打つ姿はそれはもうめちゃくちゃ格好良かった。惚れなおした。
そう思うのは私だけじゃないらしく、女バスコート周りにはいつも1クラスつくれそうなくらいの人が居る。部活に所属してる人も居るだろうに、そこまでして見に来るなんてすごい。

そういや体育館に行く途中の何かの周りも相当な人混みだったけど…あそこは何の部活だったんだろうか。


あ、そうそう。部活といえばちょい前にみやびちゃんとの帰り道で部活中らしき結城君を見かけたけど、お寿司のたまごみたいな芥子色ジャージ着てたんだよね…
そんな事を考えていたらお腹が空いてきた。ほんと単純だなとは私も思う。
…よし今日はオムライスにしよう。


帰りに玉ねぎ買いたいし、お腹鳴ったら恥ずかしいしそろそろ帰ろうかな。
読みもしないで広げていた小説を鞄に閉まって、よっこらせと立ち上がりかけたとき勢いよく教室の扉が開いた。
ちらりとそちらを見ると少し息を乱したたまごジャージの結城君が。何事。

「たま、結城君。忘れ物?」
「え?たま?」
「え?あ、いや何でもないの何も言ってないの気にしないで。忘れ物?」
「うん…?で、忘れ物ではないな。俺置き勉派だし!やー、でも…まだ居て良かったー」

居なかったら俺走り損だしなーだとかなんとか言いながらめちゃくちゃ嬉しそうな結城君を見ながら、私の考えはまったく別のところにあった。
なるほど。だから結城君の鞄いつも軽そうなのか。
あとたまごジャージ間近で見るとやばい。中々ないセンス。これはどこ居ても超目立つわ。警告色だし。
てか、置き勉なのに頭いいのか。勉強も出来て運動も出来るとか。要領いいからなぁ結城君……………だからモテるのか。さすが出来が違うわ。

「お前人気者なんだな!」
「へ?」

別のことを考えていたら思ったより間抜けな声が出てしまった。いや人気者なのは結城君だろう。
冗談は授業中寝てるのに成績が良い結城君の頭だけに欲しい。
それに私が人気者なわけがないし。せいぜい私の認知度なんて「あ、転校生だ」とか「あ、頼まれたら結構何でもやってくれる人だ」とかでしょ。だって私目立たないし。というかみやびちゃんや結城君や幸村君や柳君、えーっと…
とにかく私の友人や知人がきらきらした人が多いだけで私もそうだとは限らない。人生とはそういうものなんだよ結城君。

「おーい、黙ってどうした?まさか怒った?気分悪くしたなら謝るからそんな怒るなって〜」
「いや、あー…本題はな、に、」

そもそも怒ってないけど。
けらけら笑う結城君の笑顔を見ていたらどうでも良くなってしまった。
ふぅ、と心の中で息をついて改めて何の用かを聞こうとすればいつぞや見た髪型が教室の扉の向こうに見えた。
何だか、嫌な予感がする…







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