「あ、こいつら俺の部活仲間なんだけどさ、何かお前に用があるらしくって!……椿、お前何やったかは知らないけど、真田怒らすとこえーぞ」
いやいやいやいや私も知らないけど何したの私!
小声でとても物騒なことを教えてくれた結城君は頑張れよ!と謎の応援をして去っていった。
私が何をしたっていうんだ!心当たりがちょっとあるから困る!
「……」
「……」
「…………」
扉のところに立っている背高い帽子の風格ある人といつぞやの海藻少年。めっちゃこっち見てくるうわこっち見ないで!ガン見されんのつらい!
とにかく、よくわからないけど、結城君が一緒に居てくれるわけじゃないらしい。え、こんな空気の中置いてかれたの?!
どっちが何て名前かもわからない。ひたすら心の中の結城君に、怖い真田君ってどっち?わかめ?帽子?と問いかけるけど答えなんて返ってくるはずもなく。
てか帽子君の方どっかで見たことあるわ…あ、あれだ。風紀委員の人だ。えっと、そうだ、こっちがきっと真田君だ。
うん朝校門の前で立ってるのよく見るし、いつもちょっと着崩してる人も「やべー真田の日だ!」とか言ってぴっしり制服着てたりするから覚えてるよ。
えー私なにかやらかした?うっそ。いや確かにこの間ガラス割れた時近くに居たけどあれは私じゃないよ決して。チキンハートだからそんなことできないよ。よしNOと言える勇気だ違う私じゃない私じゃない私じゃ
「椿、だったか」
「違います!!」
「は?」
「…え?」
「……お前は椿ではないのか?」
いや椿は私だけどって、え?あれ?ガラスの犯人探しじゃないの?
え?何で二人してそんなびっくりした顔してるの?
どうやら私の勘違いだったらしい。
話を聞けば朝ぶつかったのを謝りにきたという。確かにびっくりはしたけどもう過ぎたことだしそんなに気にしてないのになあ。
あの時は急いでただけで、ほんとはいい子なのかも。
「別にそんなに気にしてな、」
「俺、あんたに謝る気ねぇっスから」
「………………ん?」
「赤也!!!」
「いってぇー!!」
言葉を遮られ、少年の発した言葉に思わず間抜けな声を出しぽかんとすれば突如聞こえた怒鳴り声と鈍い音、それから悲痛な悲鳴。
すごく、いたそうです…
思わずこちらがくしゃりと顔をしかめてしまいそうなくらい痛そう。いやびっくりだけど、なに、昨今の上下関係厳しすぎない?
「本当に赤也が申し訳ない!!」
「っえ!いいよいいよ真田君、頭あげてください!」
さっきまでは自分より高かった頭が、がばりと勢いよくさげられて焦る。実質、真田君には何もされてないし。
でも、いくら後輩だろうと友達だろうと人の為にこんなに真摯に頭を下げられる人なんて早々居ないと思う。
渋々頭を上げる真田君を見ながらすごいなあ、なんて感心していると横から声がとんできた。
「…こんな女に真田副部長が頭下げることないっスよ!」
んんっ…
今のはちょっと傷ついたよー?何故にほぼ初対面の子にこんな女呼ばわりされてんの私。
いやまあでもこの少年にも色々あるのかもね。副部長って言ってたから真田君は部活の先輩だろうし、尊敬してる先輩があんまり第一印象がよくない人に頭下げるのは嫌なんだろう。わからなくもない気はする。
うんうん、と一人で頷いてると視界の端で真田君が拳をぐっと握るのが見えてしまった。
え、ちょ、いや、ま、どうしよう…!
「赤也……!」
名前を低い声で呼ばれ少年がびくりと身体を跳ねさせる。このままじゃ少年が殴られる、と直感的に判断した私は反射的にとめようとした。
が、
「ちょっとまっ、ふぎゃ!」
転んだ。
「なっ……大丈夫か椿!」
「あ、はは…まぁ、転ぶの慣れてるから」
嫌な慣れだ。
でも転んだ私の方へ真田君が居て、あの痛そうな音も悲鳴も聞こえてないのを見れば阻止するのは成功したのだろう。
人が痛い思いをするのを見るのは、あまり気持ちの良いものではないからな…
「まぁ、赤也?君も、急いでたと思うし悪気もなかっただろうし、私は気にしてないから」
「本当にすまない、ほら赤也も頭を下げろ」
「……………名前、軽々しく呼ばないでもらっていいスか」
「あ、はい、ごめんなさい」
「赤也ぁあ!!」
私の努力空しく、本日二度目の悲鳴が屋上に響き渡った。