EGOIST | ナノ





突然の呼び出しに、まだ半分は残っているであろう大好物の蕎麦を急いでかき込み返却棚に突っ返す。


まだ大人になりきれていない彼の体には少し重たそうに見える愛刀を両手でしっかりと抱えて薄暗い廊下を駆け抜ける。


口の中にぎゅうぎゅうに詰め込んだ蕎麦を喉を鳴らして無理に飲み込み目的の部屋である『司令室』の扉を開けば、資料が散らかった床にポツリと置かれたソファ―・・まだ少し見慣れない光景と、


「あっ神田君、食事中にごめんね〜。」


黒の教団、室長‥コムイ・リーが出迎えた。


「・・別にいい、急ぎなんだろ。」


はぁ、と一息着きソファに目をやる。


今回共に行動する事になるであろう、背もたれから見える暗い灰色の頭はこちらを気に留める様子もなく、ただじっと簾のように壁に掛けられた世界地図を見ているようで。


「チッ」


俗に言う『シカト』をこかれていると確信し、自然と舌打ちが漏れた。


苦笑するコムイを他所に、既に『気に食わない奴リスト』入りを果たした『灰色の頭』の横にドカッと腰を掛ける。


その時、己の真横から聞き捨てならない言葉が嫌でも耳に入って来た。





「・・沈みが浅いと思えば、子供か。」





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それは、幾度となくエクソシストと出会って来た中でも最悪な出会いだった。


汽車での異動中、彫刻のような顔は一度も無駄な動きをせず、髪と同じ色の瞳は常に曇っていて、下を向き、無言だった。


その内何かを思い出したかのようにこちらを見たかと思えば、「名前、"柳"。」とだけ名乗りまた目を伏せた。


白い肌と虚ろな瞳はまるで『病人』のようで、現段階ではどのような使い勝手があるのか解からない背中に背負ったデカいイノセンスとは酷く不釣合いだった。


兎にも角にも全てが気に入らず、睨みをきかせながら荒探しをしている内に今回の任務先である廃墟に辿り付いていた。


入り口を目の前に、柳が口を開いた。


「別行動にするかい、『神田くん』。」


「チッ」


「あ、待って。」


その言種についにイライラが限界を迎え一人廃墟の中へと足を進めようとするが、呼び止められ嫌々ながらも振り向く。


柳は相変わらず死んだ魚のような目をしていたが、微かに口角が上がっていた。


「助けが必要なら、直ぐに呼んで。」







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第一夜 報復の悲剣








『助けが必要なら、直ぐに呼んで。』


そう言いながら、微かに笑った。


資料によると、今回の任務は廃墟に群がったレベル1のアクマの殲滅・・まだ入団して間もないとは言え修行の旅は終えているし、助けが必要な事などあるはずがなかった。


「災厄招来―・・」


ましてや、あのひ弱そうな柳に助けられる事自体想像がつかない。


「界蟲一幻!」


地面に着地し、六幻を鞘に納める。


レベル1のアクマの爆発、そして残骸が地面に叩きつけられる様を確認し足早に奥へと進む。


錆びれた廊下を全力で掛け抜けて、別のフロアに飛び込んだ。


「・・っ!!」


刹那、腹に衝撃が走り体勢を崩し、勢い良く壁に打ちつけられた。


『子供がこんな所に来ちゃあいけないよ。んん?』


壁に凭れ掛かりながら目を開くと先程までとはまるで違う装甲を持つアクマが、こちらを見て不気味な笑みを浮かべていた。





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