あれから数日。 変わりの無い生活と、何事もなかったかのように過ぎて行く時間。 しかし、パチリと箸を置き掌を眺めれば、未だに鮮明に甦るあの感触。 「チ・・・・ッ」 周りから非情な人間だと言われていたこの俺が何故、他人の為に胸を締め付けられるような感覚に陥らなければならないんだ。 本当に死んだ訳じゃ無い、寧ろ・・あれはアイツが生きる為の『手助け』だ。 それなのに、あの日から酷く息が苦しい。 両手を握り締め、瞳を閉じ心を落ち着かせた。 今朝、ニカが意識を取り戻したとコムイから連絡があった。 休息についた事により身体の問題点は殆んど改善されたらしいが、念の為暫くは研究室で過ごすらしい。 普段の俺なら真っ先にアイツの元へと向かうだろうが今回ばかりはそうは行かなかった。 『ごめん。』 あの時の声が、表情(カオ)が忘れられない。 アイツが見ている闇を知ったつもりでいた。 全てを理解していると、そう言い切れる自信さえあった。 なのに、何だアレ。 いつ死んでもおかしくないアイツを危険な任務に向かわせ、『世界の鍵』だとかほざきやがる。 挙げ句の果てには『人形』呼ばわりだ。 生まれてからずっと、その環境で過ごして来たのかと思うと鳥肌が立つ。 それと同時に俺じゃアイツを闇から救い出す事は不可能なのだと思い知らされたようで悔しかった。 護る、とか、俺がいる、とか。 己の中で誓いを立てたとしても所詮、安っぽい只の言葉だ。 ニカを少しも救えやしないのに届くはずがない。 アイツの瞳に映る現実を目の当たりにして絶望し、自分は無力なのだと自信をなくした。 何故だかニカの笑った顔が思い出せない。 どんなに綺麗事を並べようが、確かに俺はアイツを殺した。 「糞・・っ」 テーブルに肘を付き、前髪を鷲掴みにする神田。 そんな彼の背中を見つめていたラビは唇を噛み締めて、胸に込み上げて来た想いをぶつけるかの様に力強く壁を殴った。 ---------- 「それでね、コムイさんがドリルでガリガリ―!ってして・・」 顔を青くして話すミツキ。 ベッドに腰を掛けたニカは煙草をふかしながら微笑んだ。 「笑うなんて酷いじゃないのよう〜、寄生型みたいに直接身体を削られる訳じゃ無いけどおぞましかったの〜っ。」 「無理した罰だ。まあ、随分と時間は掛かったが直って良かったんじゃねぇか?再起不能だったら洒落にならなかったぞ。」 ミツキは頬を膨らませそうだけどう・・と呟きベッドに頬を付けた。 「でもあんなのトラウマになるわよー!!」 「ふっははっ。それが嫌なら次からは気を付けるんだな。」 泣きわめくミツキの頭を優しく撫でるニカ。 しかし、滅多に見せない彼女の微笑みは一瞬にして崩されてしまうのだった。 ギィ、と重たい音を立てて開かれた研究室の扉。 そこに目を向けると険しい表情をしたラビがこちらを見据えている。 彼の姿を見たニカは睨み付けるような鋭い視線を向けて口を開いた。 ・・・・・ 『黙れブックマンJr.。その件なら後にしろ、ミツキが居る。』 彼女から発せられた言語は普通の人間には伝わらない、彼等ブックマンが会話に使うモノだ。 訳が解らないものの、二人の表情からやんわりとだが、ただならぬ雰囲気を感じ取ったミツキは席を立った。 「そ・・それじゃあ、身体に気を付けるのよ?私、部屋に戻るね。」 「・・ああ。悪いなミツキ。」 ×
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