「へえ。ミツキとニカにんな事があったんか。」 「……。」 教団内の森の中。 神田は先日の出来事を芝生の上で仰向けになるラビに一通り話した。 眉間に皺を寄せ六幻を素振りする神田にラビは言った。 「ミツキは只ニカが憎くてあんな事をしてたのかと思っていたさ。勿論、本庁の奴等もきっと知らないと思うさ。」 彼女逹の世界にヒトは要らない、理解してもらおうだなんて思わない、故に誰にも知らされる事のなかった事実・・か。 神田は溜め息を吐いて六幻の刃先を地面に下ろす。 ニカの夢は死ぬ事。 だから自分の部屋から落下した時も、怯える様子も、慌てる様子も無かったのか。 「なあ、あれからニカはどうしてるんさ?」 「ずっとあの女の所だ。」 唯一、部屋に戻って来るのは寝る時だけ・・それ以外の時間は全てあの女に費やしてやがる。 ・・なんだか―・・・・ 「おい馬鹿兎、ニカの好きな食い物知ってるか?」 「へ?」 「焼き鮭だ。」 まだ何も伝えていないのに、フラれた気分だ。 あの女は俺の知らないニカを知っていた。 長い間一緒に居たらしいので当たり前なのかも知れないが、それが酷く悔しくもあり悲しくもあった。 「チ・・ッ」 同時に護りたいと言う思いが胸をキツく締め付ける。 「なあ・・、」 そんな彼の想いを悟ったのか、ラビは芝生に肘を付き上体だけを起こし神田を見上げた。 「あ?」 もしかして、ユウって・・ 「ニカの事が好きなん?」 少し冷えて来た秋の風。 生まれ変わる為に渇いた葉を落とし始める木々逹。 今年も世界から見離された二人が置き去りにされながらも、哀しく時は刻まれる。 希望を求めて見上げた空には紅い月が浮かんでいた。 ---------- ニカとミツキはセツの散歩の為に教団内の森を歩いていた。 そこに少し前まで呼ばれていた彼の姿は無い。 ニカは誰にも見せた事の無い微笑みを零しミツキの手を取る。 ミツキも満面の笑みを浮かべてそれに答えた。 無言でも、幸せな時間。 2年前と同じだわ。 特に会話なんてしないのに、酷く心地良いのよ。 ニカの冷えた手を私が暖める。誰にも譲れないこの席。 私の居場所は変わらず此処に在ったのね・・。 「ふふっ。」 「?、どうした?」 「何でも無いわ。ただ・・幸せだと思ったのよ。」 約束を交わし合ったあの日から・・ニカの見透かす力や予知は私に効かなくなった。 こうして気を使う事無く一緒に居れるのは、私だけの特権なのよ。 でも―・・ 「そうか、良かった。」 違うのよ・・欲しい言葉はそれじゃないの・・ ミツキが幸せなら、俺も幸せだよって微笑みながら私の頭を撫でて欲しいのよ。 その答えじゃニカは幸せじゃ無いみたいじゃない・・。 「ね、ニカ。」 「ん?」 「今日、一緒に寝ましょう・・。」 遠い距離を縮めたくて少し焦っていたのかもしれない。 この時二人を繋いだ手が少し緩くなった事に私は気付かなかった。 私は夜のニカを知らない。 何度か一緒に寝ようと誘った事はあるのだけれど、その度優しく断られた。 でも、今日は・・今日だけは少し遠い貴方と一緒にいたい。 じゃないと不安で心が張り裂けそうになるの。 何時か消えて無くなってしまうんじゃないかって―・・・・ ×
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