NO.TIE.TLE | ナノ


ベッドに寝かされているニカ。


彼女を部屋まで運んだ神田にミツキは言った。


「この子は私の居場所なのよ。」


全てを失った私。


唯一、一緒に居てくれたのがニカだった。


「居場所なら、何故殺そうとするんだ?」


・・私が、殺そうと・・?


そんな事してないわ。


「驚いた、貴方は何も知らないのね。」


良くそれでニカの事を好きだと言えるわ。


何も知らない癖に。


「どういう事だ?」


「・・確かに、私は一度ニカを殺したわ。」


全てを奪って行ったニカが憎くて、嫉妬して。


「でも、気づいたのよ。悪いのはニカじゃない・・私逹を造った人間なんだって。直ぐに解ったわ。だって、ニカにもちゃんと心はあるのに、無いって言うのよ。」


本当に勝手で残酷よ。


ヒトなんて・・


「生まれて来た事で余計なモノを背負わされたニカと比べれば私はまだ幸せだわ。」


私はヒトとしてすら生きられないけれど、余計なモノは見えない。


でも・・ニカは・・


「ニカはね、生まれ持った力の所為で異端者に異端者扱いされヒトとして生きる事も許されず、挙げ句の果てには化け物と呼ばれるようになった。捨てられたのは彼女も同じだったのよ…。」


誰一人としてニカを見つけられない。


心が無いなんて嘘、壊れてしまったんだわ。


「貴方は、ニカの『夢』を知っている?」


「・・夢?」


「死ぬこと、よ。」


目を見開く神田。


貴方は何を見て来たの?


「死、ぬこと?」


「そう。ある日、ニカは自分で自分の身体をナイフで刺したの。自殺しようとしたのよ・・。でもね、治癒力が邪魔して何度刺しても其れは叶わなくて。それで、思い出したのね。」


私がニカを殺した日の事を・・


「どんなに深くても傷は癒えて行く、でも、首を締められれば何れかは目を覚ますけれど確実に死ねるって。その間は余計な物は何も見え無いし、感じる事も無い。」


死んでいられる事が、唯一の安らぎだった。


「私に泣いて懇願しに来たわ。殺してくれって。死から遠い身体のニカにとってはそれが一番の幸せだと思ったのよ。」


私は殺しているんじゃない、眠らせてあげてるの。


「それで・・二年前・・。」


「そうよ。あの日は再び起こるであろう"最期の瞬間(トキ)"の為に、延命が伝えられた日だった・・。それを聞かされたニカは直ぐに私の所へ来て『生きたくなんかない、殺してくれ』って泣きながら言いに来たわ。」


勝手なヒトの為に、何故生かされなくちゃいけないのかって・・。


「私はニカがより長く眠っていられるように、首を締め続けた・・。何時間も、何時間も、治癒力が追い付かないくらいにね。」


解っていた、ニカの気持ちはずっとずっと。


生きているだけで心の闇は深まるばかり。


生きる事より死ぬ事の方が簡単だと気付いたニカはそれにすがり付くしかなかった。


「私は勿論、教団に今までの事も全て知られて長期任務と称した『ニカから離れる』という最大の罰を受ける事になったわ。この子が目を覚ました時、私はもういなかった・・。」


辛かった、とても・・。


二年間どんな景色を見ても思い出すのは彼女の事だけ。


「貴方には絶対に解らないと思うわ。私はニカに安らぎを与えて、ニカは私に居場所を与えてくれる。これは私逹が産み出した愛の形よ。」


どんなに歪んでいたって、構わない。


私逹はお互いがいなければ生きていけないのよ。


「でも、今回の事は私も反省しているわ・・。2年ぶりに逢えたのに、ニカの願いとは言え眠らせてしまった。貴方の名前を聞いて嫉妬したのよ・・ニカの為じゃ無く私の感情に任せて首を絞めてしまったようなものだわ。」


そっとニカの前髪を払う。


私が居ない間にこんなに痩せてしまって・・


きっと目が覚めたらお腹が空いているだろうから、厨房へ行っての好きなものがあるかどうか確認して来ないといけないわね。


ニカの額にキスを落として、椅子から立ち上がる。


相変わらず眉間に皺は寄せているけれど、先程よりも視線が柔らかくなった彼に静かに訊ねた。


「・・貴方、ニカの好きな食べ物をご存知?」


「・・あ?」


「焼き鮭よ。」





ニカは私を護ると云った。


代わりに私はニカに安らぎを与える。


『罪』は分け合わなかった。


全てをニカが背負った。


分けてしまったらあの時言った『護る』は嘘になってしまうと言われたから。


そして、沢山の罪を背負ったニカは何時しか『わたし』から『俺』に変わった。


聞いたことがあるのは『何故俺は女に生まれて来たのだろうか。』・・でも、その言葉は私を護る為じゃ無い。


まるで己を卑下するような・・そんな言い方だった。


ねえ、ニカ。


あの時貴方はどんな気持ちでこう言ったのか、何時か私に教えてくれる?広がってしまった闇が深すぎて私にも見えないの。


自分を護ることを知らない貴方を今度は私が護るから、私と一緒に少しだけ時間を進めましょう。


今も、昔も・・きっとこの先も貴方を護れるのは私だけだから。


私はそう信じてる。







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