NO.TIE.TLE | ナノ


『ギャハハハ!!無駄だ無駄だ!どれだけ俺達を壊した所で“最後の瞬間(トキ)”は防げな・・』


グシャ


最後のアクマを破壊するニカ。


"最後の瞬間(トキ)"という単語を聞いた彼女は酷く冷たい目をしていた。


神田は生き残りがいないのを確認してニカの背に訊ねた。


「・・お前、わざと負けただろ?」


・・そう、ニカは負けたのだ。


それも、圧倒的な差で。


でも誰から見ても解る。


彼女は完全に手を抜いていた。


「何故そう思う。」


「何故って・・。」


この前と違うからだ。


団服のポケットに手を突っ込んだ彼女は煙草をくわえ、アクマを見下すだけ。


否定をしない。


約束は約束だ。


「お前は俺に何を望む?」


唐突に。


神田は眉間に何時もより深く皺を刻み込んだ。


握り締めた拳。


そうだ、彼女には全て視えている。


俺がお前を好きな事も。


知っていてわざと負けたのか?


・・違うだろ。


自分を責めて欲しいからだろ、責められたいんだろ。


俺がお前を好きな事を良いことに、俺を利用して。


身体を重ねろとでも言うのか?


見えたのは煙草の灰と煙。


彼女の表情は、少し伸びた髪が邪魔して確認出来なかった。





おい、視えてんだろ?


聞こえてんだろ?





・・何とか言えよ。





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任務を終えた事をコムイに連絡すると、教団に引きこもりがちなニカに少し気分転換をさせてあげて、と言われた。


だからと言って何処に行くという訳でも無く、向かった先は宿屋だった。


セツが心配なのか明日朝早くに発ちたいらしい。


宿屋に着いた瞬間に、団服すら脱がずに、いつものようにベッドの隅で小さくなるニカ。


「オイ、団服・・。」


肩を掴んで身体を起こそうとするが、既に寝ていた。


本当に良く解んねぇ奴。


つーか寝過ぎ。


そっと背中に手を置く。


少し前よりも透けた背骨が掌に刺さって一瞬鳥肌が立った。


それと同時に、彼女が背負ったモノの大きさを理解する。


・・これ以上、彼女の何処を責めろと言うのだろうか?


もう良いだろ。


ずっとずっと、たった一人で戦って来たんだろ。


辛いんだろ?苦しいんだろ?


ちゃんと解っているつもりだ、俺の知らない事があれば、理解したいとも思う。


だから、一度で良いから、俺に頼って欲しかった。





そうすればきっと、もっと笑ってくれると思った。





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パチン、と電気を消す。


暗闇の中では眩しいくらいの月明かりが俺達を照らす。


何も言わないニカ。


ただ、「初めてじゃ無ぇよな?」と訊ねると恥ずかしがる様子も無く「俺にだって死守して来たモノはある。」と言われた。


・・それだけ。


着ていたカッターシャツのボタンを外して行く。


次第に露になる彼女の身体は骨が透ける程に痩せていて、手が震えた。


細い首を持ち上げてキスを落とす。


忘れさせないように何度も何度も、唇だけじゃなく、身体にも落として行く。





彼女は暖かかった。





「んぁ・・っも、無理・・っ」


「・・はっ、まだ、足り無ぇ。」


だって、お前、一度も俺の顔を見ねぇじゃねぇか。


俺はここに居るのに・・お前は今何を考えてるんだ?


身体を重ねても尚、俺の事は心の片隅にすらないのか?


虚しいだろ、そんなの。


「神っ・・田・・ぁ、っ」


「『ユウ』。」


「・・ば、か・・っユ、んぁ、う・・っ」


「聞こえねぇ・・っ」





好きだと言った。


愛してるとも言った。


何度も名前を呼んだ。


けれど、彼女にとっては所詮、ただの『言葉』に過ぎないんだ。


ニカはカタチの無いモノを信用するような人間ではないから。


・・何も届かない。


それが酷くもどかしかった。







第九夜 刻まれない時間





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