ただ―・・ バリィン! 「ニカ!落ちつけ!」 「あ、ぁ・・、止め、まだ何も、起こって無・・、嫌だ!違う・・っ」 今日、3枚目の窓硝子が割れた。 その症状は毎晩訪れるようで、ここで生活を始めてからも何度かコムイの元へ運んだ。 その度に自分を傷付けては再び死んだ様に眠りにつき、朝にはケロッとしてるんだ。 入り込めそうで入り込め無い彼女の心を覗きたいと、何度も願った。 その結果、許された事が一つだけ。 「何だ、もうバテたのか。」 「・・チッ!」 始めは嫌がられていたが、彼女の日課である散歩に呼ばれるようになった。 散歩と言っても、セツとひたすら走ってるだけだが・・ 「舐めるな!くすぐったい!」 他人には見せないような笑顔で笑う彼女を見れるので悪くないと思った。 普段は成り立ちの良い男のような顔をしている癖に、笑うと女なんだ。 それも、酷く綺麗な。 「・・また笑った。」 「笑ってねぇ。」 「あ゙ぁ?」 お前は俺の冷え切った胸を熱く焦がすんだ。 ---------- 「おい、ニカ起きろ。もう直ぐ着く。」 「・・・・もう少「脱がすぞ。」起きりゃ良いんだろ。」 久しぶりに通達された任務へ向かう最中、汽車の中で眠るニカを叩き起こす神田。 神田は舌打ちを漏らしながら、コムイから受け取った地図を開いた。 今回の任務は少し厄介らしく、数ヶ所を転々としなければならないらしい。 ニカは地図を睨む神田を無視しただ一人歩き始めた。 任務先はインド。 ここには会っておきたい人間が一人いる。 辺りを確認する彼女の背中に、神田は訊ねた。 「ここ知ってんのか?」 「否、知らない。でも視えるから問題は無いんだ。」 何処に何が在るかなんて少し街並みを見ただけで手にとるように解る。 ニカは任務の核となるであろう場所に足を進めた。 辿り着いた先は・・ 「墓地?」 「黙れ、もう直ぐ来る。」 十字架が立てられたその墓地の真ん中で、静かに瞳を閉じる彼女。 神田も殺気を感じたのか六幻に手を掛けた。 「・・来た。」 刹那、蒼く澄んでいた空に飛び交う無数のアクマ。 あまりの多さに目を見開く神田に、ニカは言った。 「回るはずだった箇所のアクマ達はここで情報交換をするんだ。一気に片付ければ手間が省けるだろ。」 ―・・それにしちゃ多過ぎだろ。 神田はニヤ、と笑みを浮かべながら六幻の刃をアクマに向けた。 「オイ、どっちが多く倒せるか勝負しよーぜ。」 「阿呆。俺が勝つに決まってんだろ。」 『ゴチャゴチャ煩ぇんだよ!』 その瞬間に、空を覆ったアクマ達が一斉に二人を目掛けて襲い掛かる。 「自惚れてられんのは今の内だぜ。」 「じゃあお前が勝ったら何でも言うこと聞いてやるよ。」 「・・ぜってー勝つから見てろよ。」 二人の力は光となり、暗い空を天まで照らした。 →第九夜に続く ×
|