あれから暫く歩き、やっとの思いで見付けた宿に二人は足を踏み入れた。 「夜分遅くに済まない。部屋に空きはあるか?」 奥の方から出てきた和服姿の女性に神田が訊ねる。 「1室だけなら空いておりますが・・。」 神田は不満そうに舌打ちを漏らしながらも其れを受け入れた。 一方、ニカは既に視ていたらしく部屋へと向かう神田の後を何も言わずに追った。 襖を開け、部屋へと入る。 ベッドが二つ並んだだけの殺風景な部屋だが一日過ごすだけの為、問題は無い。 ニカは団服を脱ぎ、ベッドに腰を掛けると己の荷物の中から何かの装置を取り出した。 「?、何だそれ。」 神田が珍しそうに訊ねると、ニカは装置の隅から伸びるチューブに繋がれた注射器を己の腕に射して言った。 「これで任務中に身体の状態を調べろと教団に渡された。簡易型な為信用性に欠けるが。」 彼女の血液がチューブを通って装置の中へと吸い込まれて行く。 刹那、装置のメモリを指した針が大きく跳ねた。 「・・危険域?」 そう、針が射したのは危険域。 神田だけでは無く、ニカまでもが目を見開いた。 否、何かの間違いだ、そう思い再び血液の採取を試みるニカ。 自分の"心理"は見透かせるものの身体の中までは届かないが、流石に身体にまで影響が出るのは早過ぎる。 簡易型、だからだろうか? しかし、再び針が指すのはやはり危険域。 顔色を変えたニカは己の腕から注射器を抜き取り颯爽と部屋を後にした。 事の重大さが解らない神田は大袈裟だ、と溜め息を吐きながらも彼女に着いて行った。 「コムイか?」 どうやら、廊下にあった公衆電話をコムイに繋いでいるらしい。 「ああ、任務は終わった。神田も生きてる。」 『そうかいそうかい!良かった、問題なさそうだね!』 受話器からだだ漏れのコムイの声に下らねぇ、と眉間を寄せた神田はその場を後にしようとニカに背を向けたのだが、 ガシャン! 突然背後から聞こえた、何かが倒れる様な鈍い音に反射的に振り返る。 そこには床に両膝をつき頭を抱えたニカの姿が在った。 受話器は虚しくコードが伸びて地面に転がっている。 「おい、どうした!?」 神田は慌てて彼女の元へと駆け寄った。 ニカはコムイの叫び声が聞こえる受話器を震える手で耳元まで持って行き、苦しそうに絞り出す様な声で言った。 「今・・視えた・・っ。今か・・ら、5秒後・・完全に、沈黙・・っ明日、の朝までは持た・・な・・・・っ」 刹那、力が抜けたかのようにグラリと揺れたニカの身体。 神田はニカの身体を己の胸で受け止め、彼女の手から受話器を取った。 『神田君かい!?どうしたの!?』 「俺も知らねぇ・・ただ、よく解んねぇが装置に血液流した時に針が危険域を指していて…っ」 『それは本当かい!?』 「ああ・・二回採取していたのだが・・二回とも・・」 チラリとニカに視線を移す。 顔色が悪い・・真っ白だ。 それに身体が酷く冷たい。 「オイ!どうしたら良い!」 『今から馬車を向かわせるから、彼女の身体を冷やさないように安静にさせておいて!それと、荷物の中にカプセルが入ってると思うから飲ませて置いて!』 「チッ」 ×
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