攻撃の術を無くしたアクマ達は半ばヤケになりニカから距離を置いた。 「俺達はいくらでも居る!負けるなんて事は、有りはしない!死ねぇ、エクソシストォオオ!!」 そして、叫びにも似た声を上げた後にニカに向かって火柱を吐いた。 彼女を取り囲む全てのアクマが遠距離型の攻撃を仕掛けた為に、火柱は爆発とも似た渦となりニカだけではなく周りの建物全てを飲み込んで行く。 爆炎に包まれた彼女の姿は確認出来ない。 視界が悪い事を良い事に、彼女に向かって再び距離を縮めて行くアクマ。 「―・・!オイ!この壁を解け!」 流石にマズいと思った神田は壁越しに火に包まれた彼女へ叫んだ。 しかし、爆炎の最中に見えたのは高温に包まれているにも関わらず傷一つ付いていない彼女の顔。 視線が合い肩を震わせた神田にニカは言った。 「今のでお前は二度死んだ。」 恐怖とも似た感情を抱いた神田は揺れる炎へと姿を消して行く彼女に言葉すら発する事が出来ないまま、ただその光景を見ていた。 完全に姿を消してしまったニカが居るであろう所に大量のアクマが襲い掛かる。 その刹那に紅く色付いた炎が黒く変色して行き、再び大爆発を引き起こした。 「ニカ!!」 彼女の姿は勿論、アクマの姿すら確認出来ない。 神田は壁の中で起こる惨劇に思わず息を飲んだ。 暫くして、爆炎が引くと彼女が造り上げた壁が消えた。 砂埃が酷く、未だに彼女の安否は確認出来ない。 先程の爆発の所為で綺麗に吹き飛んでしまった、足場の悪い地へと神田は足を踏み入れた。 しかし倒壊した建物とアクマの残骸が邪魔して中々思うように足を進められない。 そんな事をしている内に砂埃が晴れ、彼の瞳に辺りが鮮明に映し出された。 そして、抉れた地面に様々な残骸が溢れ返る、世界の終焉にも似たその中でうつ伏せで倒れているニカの姿を見付けた。 片腕は無く、背中には鉄骨が突き刺さっている。 原形を留めているのが奇跡だと言えるのだろうが、神田の脳裏には"死"が過ぎった。 恐る恐る彼女の元へ歩み寄り、腰を下ろした神田は彼女の肩にそっと手を置き訊ねた。 「・・おい、死んだか?」 「勝手に殺すな。」 しっかりした声と、瞳。 常人であれば死んでしまうような傷を負っているにも関わらず彼女の瞳に恐怖は無く、いつもと変わらない無表情。 ほっと胸を撫で下ろす神田にニカは言った。 「悪いがこの鉄骨、抜いてくれないか?身体どころか地面にも貫通しているらしく身動きが取れない。」 それを聞いた神田は、彼女の身体に突き刺さる鉄骨をぐっと掴み、渋々引き抜いて行く。 狭い肉の間を這い出るような鈍い感触が、己の掌を支配する。 彼女の身体からは大量の血液が流れ出し、あっと言う間に地面を染め上げた。 ニカは身体を起こすと神田を見上げて言った。 「因みにこの鉄骨や腕はお前の死に全く関係していないからな。これは世界の摂理を変えてしまった俺の"罪"だ。」 今日、ここで死ぬはずだった神田の運命を変えてしまったニカの"罪"。 神田は眉間に皺を寄せて彼女を見据えた。 「別に、頼んで無ェ。」 コイツが勝手にした事だ。 俺は関係無い。 「ああ、そうだな。」 ニカは貫通している腹部の傷口を指先でなぞった。 それだけで消えて行く傷口を唖然と見据える神田を他所に、千切れた腕を拾いに行くニカ。 切断部を密着させると、まるで何も無かったかのように再び彼女の身体の一部となった。 「何してる。任務は終わった、今日はもう遅い為汽車は無いだろう。宿を探すぞ。」 そう言って神田に背中を向けて、ただ一人歩き出す。 次第に小さくなって行く彼女の背中を見据えた神田は何も出来なかった自分に対し怒りを覚え、拳を握り締めた。 アイツは、ニカは・・"強い"だなんてレベルではなかった。 あれは・・ 糞、見合う言葉が見付からねぇ。 →第五夜に続く ×
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