結局、任務はニカへと移行されたものの納得のいかない神田は無理矢理同行。 移動中の汽車内には重苦しい雰囲気が漂っていた。 椅子に深く腰を掛け、感情を映さない瞳で窓の外を眺めて口を閉ざしていたニカは己の荷物の中から一枚の紙を取り出して神田に渡した。 「何だ、これ。」 「俺と任務に行くんだろ?なら誓約書にサインしてくれ。」 ニカが神田に渡した紙は誓約書。 彼女と同じ任務を任された人間はこれにサインをしなければ同行出来ないのだ。 ニカは誓約書に書かれた文字にペンで下線を引きながら説明を始めた。 「『1、任務遂行中は必ず結城 ニカの主導の元動くこと。』簡単に言えば死にたく無けりゃ勝手な行動は慎め、って事だろうな。『2、任務遂行中は結城 ニカと片時も離れず常に側に居る事。』言いたい事は1と殆ど同じだろうが、宿では好きにしろ。そして、一番重要なのがこれ。『3、もしも結城 ニカの身に何かあった場合(暴走、発狂、沈黙等)病院では無く、速やかに教団へ連れ帰る事。』3を破ると異端審問に掛けられるからな、注意しろよ。」 異端審問とは、死刑確定の拷問裁判だ。 造られた時から遂行しなければならない重要任務が有る為、この位は当然なのかもしれ無いが。 それを聞いた神田は鋭い目付きでニカを見据え、薄く笑みを浮かべて言った。 「ハッ、随分重宝されているようだな。だが俺は勝手にやるぜ?こんな紙切れどうだって良い。自分の任務を遂行するまでだ。」 元々は俺一人で行くはずだった任務だ、こんな自惚れ野郎なんかに指図されて堪るか。 ニカは溜め息を吐くと誓約書が書かれた紙をぐしゃ、と丸めて再び鞄の中へ閉まった。 「・・残念だな。また一つ柩が増える、コムイが泣くぞ。」 「ふざけんな。」 運命だか宿命だか知らないが、其れは己が決める事だ。 俺は生きる。 ---------- 任務先に到着したニカと神田はアクマが集結しているであろう場所へと向かっていた。 渇いた土に、枯れた木。 民家の窓硝子は割れ人気は無い。 今は誰も住んで居ないようだが、つい最近まで誰かがそこで生活していたような痕跡が所々に見える。 街は既に全壊してしまったのだ。 冷たい空気が漂う中、ニカは神田をチラリと見て言った。 「おい、誓約書にサインしないのなら手分けしてアクマを探す方が早い。俺はここを右に曲がる、お前は左へ行け。」 しかし、それを聞いた神田はニカが曲がるはずだった道へ足を踏み入れた。 足を止める事無く背を向けたまま、振り返らずに神田は言った。 「フン、アクマは一ヶ所に溜まってやがるんだろ。どうせお前はアクマと俺を遭遇させ無ぇ考えだ。お前が行く道を俺が行く。」 自惚れ野郎の言うことなんか誰が聞くかよ。 ニカは去り行く神田の背中を見届けると、彼が行くはずだった道へと足を踏み入れた。 「ヒトは死ぬ。ヒトで有る限りな・・。」 己の力を過信し過ぎるな。 生きたいと思える理由があるのなら、すがり付けば良い。 無駄死にするな。 ニカは細い路地にも関わらず、まるでその道を知っているかのように足を進めた。 そして、ある場所で歩みを止め目を閉じる。 「・・・・来た。」 彼女が目を開くと、街に住んでいた人々を殺し、進化したアクマが周りを取り囲んでいた。 ×
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