ニカが眠っているこの一年間、周りで様々な変化があった。 彼女がもう目を覚まさないかもしれないと聞いた時、数日間ずっと泣きっぱなしだったミツキとリナリー。 二人は同じ任務から帰って来た時に、リボンがけされ包装紙に包まれた箱を持っていた。 聞いてみれば、ニカへの土産だと言う。 目が覚めた時に何もなかったら寂しいだろうし、任務遂行の度彼女に土産を買いそれを眺める事により自分達の支えにしたいらしく。 女って生き物は解からないと思ったが、それを始めてから確かに二人は徐々に元気を取り戻して行った。 一つの部屋じゃ納まりきらない程の土産を見て苦笑を浮かべるコムイを珍しく不憫だと感じたが・・二人には必要な事だったのだろう。 そして・・ 立ち直ってから暫くしてミツキがケビン・イエーガー元帥の元へ修行に旅立った。 硝子のケースの中で眠るニカを見上げながら、「ニカを見ていたらもっと自分も外の世界を知りたくなった。」と言っていた。 彼女が目覚めた時に、強い自分を見せたいらしい。 散々泣いていた頃とは打って変わって、凛とした強い瞳をしていた。 でも、やはり少し寂しいからセツを連れて行くと言う。 断る理由もなかったし、きっとニカなら快く連れて行けと言うだろうから、あの頃よりも大分大きくなったセツをミツキに託した。 きっと彼女達は今も世界の何処かで元気にやっている事だろう。 そして俺は・・ 任務が無ければ毎朝の鍛錬の前と寝る前に、任務が入れば発つ前に、そして、還って来た時に・・どんなに疲れていても彼女の元へと勝手に足が進む。 羊水に薄暗い部屋を照らすランプが反射してつくり出される、あの蒼い光を見ると不思議と安心し、癒され・・一度行けば1時間はその場に居座っている。 あれから一年・・彼女が救ったこの地球に咲くアネモネの花は季節が移り変わるにつれて次第に消えて行った。 でも、任務先でたまに目にすれば、思い出すのはいつもニカの事ばかり。 赤いアネモネの花言葉は・・ ―・・君を愛す ---------- 「医療室に傷の手当てに来てください。」 「・・これくらいどうってことない、もうふさがりかけている。」 ニカが眠ってから、初めての大怪我だった。 そして、同行した探索部隊のゴズが医療室へと向かわない神田を引き止めにやって来たのだ。 任務帰りに真っ先にニカの顔を見に行く事が日課な彼にとっては不機嫌になる原因でしかない。 もう良いだろ、とその場から去ろうとすれば、頭を下げられ更に時間を取られてしまう。 「言い忘れてました。助けてくれてありがとうございました。」 「チッ・・」 「あなたが本当に冷血なら、俺のことなんか見捨ててたはずです・・勝手なことを言ってすみませんでした。」 「・・くだらん。」 「実際に血を流し、アクマを倒したのはあなただ・・俺はただ見ていることしかできなかった。そんな俺に偉そうに情けを語る資格なんかなかったのに。」 「戦闘において、もとから探索部隊の人間に何も期待していない。謝るのは筋違いだろ。」 不機嫌な神田の冷たい台詞・・ゴズはまだ何か言いたげだったが、もう一度深く頭を下げると、無言で立ち去った。 早くニカに会いに行きたいと言うのにとんだ邪魔が入ったと、溜息を吐く神田。 しかし、確かに彼女にこの胸の傷を見せて心配させる訳には行かない・・そう結論づいた神田は、始めに医療室へと足を進る事にしたのだった。 自分を待ち構えていた医療班にベッドへ通され腰を掛ける。 刹那、外からけたたましい門番の叫び声が場内に響き渡った。 「こいつアウトォォオオ!!!」 叫び声を上げながらもモニターを確認する教団スタッフ達。 「ええっ!」 「アクマが来たってこと!?」 彼らの不安を更に煽るかのように、門番の悲鳴のような叫び声は続く。 「こいつバグだ!額のペンタクルに呪われてやがる!アウトだアウト!!」 咄嗟に、側に置いてある六幻を持ち窓から飛び降りる。 アクマの襲撃と聞いて大混乱を引き起こし、場内のエクソシスト収集のアナウンスを流す科学班を見て、モニターを確認したリナリーは心配ないわと微笑んで見せた。 「もう神田が行ったわ。」 ×
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