NO.TIE.TLE | ナノ


―・・黒の教団


「お帰り!」


迎えの馬車に乗って帰還したニカ達を、コムイ達科学班の人々が出迎える。


迎えの馬車の中で目を覚ましたニカが神田の腕から立ち上がり、支えられながら彼等の元へ歩み寄る。


眼鏡の奥の瞳を涙で光らせたコムイから差し出される手を、汚れた手でしっかりと握り返すニカ。


「頑張ってくれて・・ありがとう。お帰り。」


「・・ただいま。」


二人のやり取りを見ていた科学班達が一斉に彼女の元へ駆け寄り、頭をぐしゃぐしゃに撫でたり、抱き合ったり、泣いたりしていた。


釣られてミツキ、ラビ、リナリー、マリもその輪の中に入り、巻き添えになった神田も眉間に皺を寄せるも嫌な顔はしておらず、寧ろ少し嬉しそうな顔をしていた。


コムイとリーバーはその輪の中で驚きながらも皆と一緒になって笑うニカの姿を見て微笑んだ。





そんな騒ぎは、事を聞きつけて来た、背中に鬼を背負った婦長の一喝により、やっと終了したのだった。







第二十九夜 神様のレプリカ





最後の瞬間(トキ)を阻止する事が出来たからと言って、世界が平和になる訳ではない。


千年伯爵はこの世を終焉へと導く為に今までと変わらずアクマを製造し続けるだろう。


繰り返される歴史と日常・・再び慌ただしい毎日が始まる。





沢山の人々でごった返している朝の食堂。


数少ない空席に腰を掛け、注文した蕎麦を啜る神田。


「ユウーおはようさーん。」


「おはよう、神田。」


「御一緒しても宜しい?」


ミツキ、ラビ、リナリーに話しかけられ朝から面倒臭い、と悪態を付き、思わず舌打ちを漏らす。


ふと、神田の隣の空席を見つめたミツキは寂しそうな表情を浮かべ口を開いた。


「まだ・・ニカ、駄目なの?」


「ああ。」


「もう4日目かしら・・」


「・・そうだな。」





―・・あの後、久しぶりのメンテナンスで彼女の身体には沢山の障害がある事が解かった。


何でも、聞いた話しによればボロボロの身体でイノセンスを最大限解放したらしい。


メンテナンスでどうにか身体は安定し、起き上がる事が出来るようになったが、良い時で3日に一度・・長ければ5日に一度しか目を覚まさないのだ。


そんな生活をもう半年近く続けている。





・・本来なら5年前に朽ちていた身体。





きっと・・言わないだけで、誰もが考えているだうし、本人も自覚をしているんだと思う。





もう直ぐニカは・・





部屋の中からセツの嬉しそうな鳴き声が聞こえ、やっと目を覚ましたかと安堵の溜息を吐き扉を開ける。


膝の上にセツを乗せ、窓際で煙草を吹かしているニカ。


「また随分遅い起床だな。」


「おはよ。」


そう、ひらひらと手を振る彼女は普段よりも顔色が良いように見えた。


久しぶりに起きた彼女を抱きしめて、頬を撫で、更に唇を重ねる。


「・・ん・・っ」


咄嗟にセツの目を隠すニカ。


その行動が可笑しくて思わず吹き出せば、「もう嫌だ」と言いながら赤面を隠すように俺の胸に顔を埋めて来る。





先の事は解からない・・


「セツー散歩ー」


「キャン!」


「大丈夫か?」


「ああ・・今日は調子が良いんだ。」





でも・・好きな煙草を吸って、鮭を食って、魘される事無く穏やかに眠る彼女を見て、今が幸せだと・・確かに思った。





そしてそんな幸せがいつまでも続けばいい。


そう願っていた。






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