「ニカ!!」 「・・大丈・・夫・・。」 自分へ駆け寄ろうとする皆を見て、身体に二本の剣を刺したニカが首を振り、止める。 壁が崩れたとは言え、此処はまだ時空の狭間・・一歩でも入れば身体を裂かれ、死んでしまうだろう。 イノセンスを最大限解放させてから己の身体を包んでいた蒼い光が徐々に薄れて行き、もうあまり時間がない事を知る。 「は、は・・負けた・・よ・・」 自分の心臓(ダークマター)を貫いたニカの腕を掴み、微笑む心理のレプリカ。 僕はもう駄目だろう。 アクマの脆い骨組みがギシギシと鳴り、組織が破壊されて行くのが解かる。 身体の中を『ニカ』の意志(イノセンス)で満たされて行く感覚・・自分に対する優しい気持ちが流れて来る。 暖かい・・ 「ニカ・・」 最後の最後までこんな風になってしまった僕を自分の兄として見てくれて、救ってくれて・・ 「ありがとう・・」 第二十八夜 最後の瞬間 last 心臓(ダークマター)を破壊され、砂になった心理のレプリカを両手で掬い上げるニカ。 「今度はちゃんと、天国に行きなよ・・兄さん。」 ―・・また会おう。 刹那、ニカの身体を纏う蒼い光が天に向かって伸びた。 その光は空を・・そして大地を、地球をすっぽりと包んで行く。 「何だ・・?」 「解からない・・でも・・暖かい。」 神田、ミツキ、リナリー、ラビ、マリは自分を包む蒼い光を見て驚愕する。 「地球の均衡を、元に戻そうとしてんだ。」 バランスが崩れてしまった為に、自ら滅亡への道を歩み出した地球の修復―・・。 7年前の光の謎が解けた瞬間だった。 「まさかあいつの能力だったなんてな・・。」 何処まで驚愕させるつもりなんだ、と煙草を吹かすクロスは優しく微笑んだ。 そして、地球を包み込んだ蒼い光はまるで波が引くかのように消えて行き、その眩しさ故に一瞬閉じた瞳をゆっくりと開けば・・ 「何さ・・これ・・」 「凄く綺麗・・」 乾ききり、裂けた大地は一面アネモネの花畑に変化し、枯れた木々は生を取り戻し緑の葉を付け揺れ、黒く淀んでいた空は、透き通るように青く・・久しぶりに、この世界に太陽の日差しを届けていた。 「ニカ?」 しかし、ニカの異変を感じ取る。 座って、俯いたまま、動かない。 だらん、と地面に落ちた手から見て取れるのは、彼女の身体には力が入っていないと言う事。 「ニカ!」 急いで駆け寄るが、つい先程まで其処に無かった『見えない壁』に阻まれて先へと進めない。 この能力を知っていた神田はまさか、と目を見開いた。 傷口がじくじくと痛み・・とても寒い・・ イノセンスを使い過ぎた身体にはもう立ち上がる力さえも残っていないようだ。 自分が最後の力を振り絞って作った『心の壁』から先は、時空の狭間・・仲間が助けにでも来れば死んでしまうだろう。 心理を失くした此処は、もう時期崩れて消滅する。 生きて・・約束、果たしたかったなぁ・・ でも・・もう眠たいんだ・・ 「・・ごめ・・さよならだ・・。」 耳に付く不吉な音と共に、既に殆ど色を移さない瞳に映るアネモネの花がぐにゃりと歪んだ。 ×
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