【番外編・ミスタ】引き金の重さ



※ベンチに座る少し前の2人の話。銃については公式設定では無いので注




ガンスミスにたっぷりと前金の支払いを済ませた後、2人は出口に向かう。
色々な武器が揃う中、ヴィスカはショーケースに並んでいる銃の部品に目を惹かれて立ち止まった。
それは直径5センチほどの硬質な素材でできた細長い塊。

「ねえミスタ。ミスタの銃には付いてるけど、これって何?」
「あ?これはハンマーシュラウドだな」
「ハンマー…?」
「ああ。俺の銃はハンマーを引くのを省けるんだ。で、いちいち服に引っかかるのが嫌だから、カスタムしてつけてる」
「ーー???」

目をパチクリさせるヴィスカに対し、ミスタも同じように目をパチクリとさせた。

「お前さ、ひょっとして何も分かんない感じ?」
「ーー…そうですけど」

小声で答えると、ミスタは何度か頷いてから小さく咳払いをする。
そしてすぐ近くにあった拳銃を手に取ると、滑らかな手つきで説明を始めた。

「普通よォ、リボルバーっつーのは、一発撃つ度にハンマーを引かなきゃならねぇ。よくテレビドラマや映画で見るだろ?この後ろを"カチッ"とするやつな。今のお前みたいな銃だ。それが"シングルアクション"。俺の銃はその手間を省いて、トリガーを引けばいつでもすぐに撃てる状態なワケ。これが"ダブルアクション"」

掌に収まった銃は、まるでミスタの一部のように、正確にしなやかに、決まった動作で動いた。
バレリーナは生まれる前からダンスを踊るのだと決まっていたのかと思える程、美しく踊る。
ミスタの長い手足は、獲物に一番近い距離でその一発を打ち込めるように神から設計されていたかと思えるほどだ。

思い返せばミスタに惹き込まれるのはいつだって、彼が獲物を仕留めようと息を殺したその一秒だった。
同じ銃を手に取ったのは、自分も彼のように強く美しくありたいと思ったから、というのも理由の1つなのかもしれない。ただーー…

「元々俺たちの銃はダブルでもシングルでもーー…って聞いてる?」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「おい。ーー…まぁその潔さに免じてもう一回説明してやる」

ジロリと睨みつつも同じことを説明するミスタにヴィスカは耳を傾ける。
複雑で知らない言葉が何個か出てきたが、要は簡単だった。

ミスタの銃は続けざまに何発も撃つことができる。それが彼の言う"ダブルアクション"。
反面、今自分が使っているように、後ろのハンマー(撃鉄)と呼ばれる部分を起こして撃つのを"シングルアクション"と呼ぶらしい。
幸い自分たちが使うこのタイプの型はシングルもダブルも兼用なため、カスタム次第でどちらでも使えるとのことだった。

「銃って簡単そうに見えて、結構複雑な武器なのね。引き金を引けば良いってものじゃない。知らない事だらけだわ」
「俺と同じリボルバーを選んだッつー事は、手取り足取り俺に教えて欲しいって事だろ?」
「……そうやってすぐ調子に乗る」
「に、睨むなって…‥‥。つーかお前もこれ付けるか?メンテと一緒にガンスミスに頼むぜ。どうする?」

ヴィスカはまた、ショーケースの小さな塊を見つめた。
これを付けてしまうと時間のロスは大幅に防ぐことができる。しかし今の自分には必要が無い気がするのだ。

「ーー…ううん。私はいい。それがついちゃうと、引き金を引いたらすぐに発砲しちゃうって事でしょ」
「まぁ、それが利点なんだけどなァ」
「暴発も怖いしーーそれに、撃つ前に私は心の準備をしたいから、このままでいいわ」
「そうだな。初心者にはそれが良いかもしれねぇ。だが、必要になればすぐ俺に言えよ。ネアポリスで腕の良いガンスミスを紹介するぜ」
「うん、ありがとう」
「あぁ」

2人はショーケースから離れ、出口に一歩、また一歩向かう。
自分より先を行くミスタの歩幅は、何かふくみのあるようにゆっくりとしていて。やがて扉の前ではたと止まった。

「なァ。お前、なんでわざわざ銃なんか使おうと思った?」
「えーー」
「ーー列車の中で、プロシュートが言ってたよな。"銃なんて人殺しの道具、使わないんじゃあなかったのか、"ってよ」
「ーー…それは」

ーー銃なら守れると思ったからだ。
自分のスタンドや誰かを傷つけるためのナイフじゃなく。
現にあの時、銃を手にしていたからミスタはプロシュートに殺されずに済んだのだ。
プロシュートと対峙した時、全身で感じた。銃と銃の膠着状態ほど気持ちが折れそうになる事は無いと。
でも、ただそれが、人の命を奪うだけにとどまらずーーその向こうに誰かを守るという意味があるから、どんなに重い引き金にだって、手をかける勇気が持てる。

この金属の塊は、殺しの道具なんかじゃない。

ヴィスカは、自分の手のひらを見つめた。


「ブチャラティがどうしてパッショーネにミスタを勧誘したのか…少し前にリーダーから聞いたわ。刑務所に入れられた理由も」

言うと、ミスタは少し目を丸くした後、都合が悪そうに「あぁ、そうかい」とモゴモゴと答えた。

「ミスタは人を殺したかったんじゃない。その銃で、守ろうとしたんでしょ。私もーー…同じ理由よ。私のカミカゼは人を殺してしまうけれど、銃は守れるもの」


私も、貴方たちのように、大切な何かを守れるくらいの力が欲しい。


「ーー……」

彼女の心の中に自分が思っていた以上の理由がある事に、ミスタは驚きを隠せなかった。
決してヴィスカを軽んじていた訳じゃあ無い。彼女はいつも、1つ先を見て物事を考えている。手段として片付けずに目的を見出す。そして行動をする。

何が彼女をここまで強くさせるのだろう。

いづれヴィスカはーー…、ガンオイルや、火薬の匂いが似合うようになるのだろうか。逆巻く砂塵の中で、ただ一点の獲物を見分けられるようになるのだろうか。
指に傷を作って、何枚も絆創膏を巻いて、関節が少しずつ、強くなっていくように。

彼女の心も自分のように冷徹になっていくのだろうか?


「頑張るのは良いけどよォ〜〜、あんまり張り切りすぎんなよ。何かあったら俺が助けてやっから」
「だから、それじゃあ駄目なんだってば」
「別にそれで良いだろ。お前は強くならなくていいの。次期幹部の右腕になるのは俺だからな。お前はオマケ」
「何よ、オマケって」

今は重いと感じられる引き金も、そのうち驚くほどに軽くなる。
命の重さが軽くなってゆくなんて悲しい事をーーこれ以上、ヴィスカには味わわせたくない。

だからミスタは、出来るだけヴィスカの傍で、彼女を脅かすもの全てから守ってやりたいと思った。
自分の命が尽きる時ーー多分それは、彼女の隣にいる時なのだろう。




番外編 - 引き金の重さ end




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