拍手お礼ログ2

■ 拍手お礼 連載ミニ小説
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「今日から学校なんだよな?これ、弁当な?」

エプロンを身に着けたバッツは明るい笑顔でスコールに"弁当"を差し出した。
セリフだけ聞くと、まるで母親と子供がやるようなほのぼのとした朝のやり取りなのだが・・・。

「・・・花見にでも行くと思っているのか?あんた・・・。」

スコールの目の前差し出されたのは軽く五人前はあろうかと思われる3段重ねのおおきなお重だった。


いくら育ち盛りの高校生男子とはいえ、重箱を弁当箱にしている男にはお目にかかったことがない。
スコールは平均よりは体格はやや大きいものの、それでも食べる量はたかが知れている。
第一、それひとつだけで学生カバンがいっぱいになりそうなくらい大きい重箱なんて持って行こう物なら教科書、筆記用具はまずアウト。なんのために学校に行くのかわからないではないか。

しかめっ面のスコールにバッツは何がおかしいんだと首を傾げると、スコールは「弁当箱・・・。」とぼそりと呟いた。

「ん?これだけじゃ足りないか?」

スコールが不機嫌な理由は弁当の量が足りないのかと勘違いしたバッツにスコールは頭が痛くなりそうになった。

「違う。逆だ。その量はどう見ても多すぎだろう。あんた、冗談のつもりか?」

スコールのもっとな意見にバッツはますます首を傾げる。
彼の様子からこれは冗談ではなく、本気でスコールがこの量を食べると思って作ったようだった。

「え?本当はこれぐらい食べてしまわないか?来た時から思ってたけどさ、スコールは食べなさすぎだ。だめだぞー育ちざかりは沢山食べなきゃ。」
「俺はあんたとはちがってこんなに食べない。俺の食事量は一般男性の平均だ。そもそもあんた、それだけ痩せているのになぜ俺の倍も食べるんだ。」

先日バッツに朝食作りを任せたら、彼は食パン一斤、サラダやオムレツやスープは軽く二人前を平らげた。
その食事量は昼も夜も変わらず、今朝も旺盛な食欲を自分に見せつけてくれた。

「んー?天界だと普通だと思うんだけどなぁ。おれの食欲。」

・・・どうやら天界の神々の食事量は地上の住む人間よりも多いということをスコールは学んだ。
この弁当の量も天界の神々の食事量に合わせたものなのだろう。
一応、食費や生活費などバッツにかかる金銭は天界が保障してくれると言っていたのでエンゲル係数の急激な上昇は免れそうが、買い物に行く回数は増えそうなのでどのみち大変になりそうだ。

ただ、今の問題は明らかに作りすぎの弁当である。
バッツは重箱を抱えたまま、眉を下げてスコールを見つめている。

「どうしようか?この弁当。」

自分のことを考えて、作ってくれた弁当である。
流石にそれをそのままほったままで行くのは忍びないので、スコールは彼から重箱を受け取ると、ダイニングテーブルに置き、棚から普通サイズの弁当箱を取り出し、それにすぐに詰め直した。

「・・・昼はこのくらいでいい。余ったものは夜に食べるとしよう。次回からは気を付けてもらえると有難い。」

スコールはそういうと、バッツはみるみる内に笑顔になり「わかった!!」と元気よく答えた。
彼の様子にスコールはほっと息をつくと、時計を確認する。そろそろ学校へ行く時間だ。

「俺はそろそろ出る。夕方まで帰ってこないからアンタは適当に過ごしていてくれ。・・・ただし、服装に気をつけること、俺がいない時は電話や来客に出ないようにすること。大人しくしていてくれ。」
「おうっ!!大丈夫だ!!」

胸を張って元気よく答えるバッツにスコールは内心少々心配だったが、学校へ行く自分が始終面倒をみるわけにもいかないので、彼を信用しようと努めた。

「(言動は少しおかしく見えるかもしれないが、問題ないだろう。第一、何かあっても記憶を消すことができると言っていたんだ。・・・大丈夫だろう。)」

そう自分に言い聞かせ、詰め直した弁当箱をカバンに入れ、玄関に向かうと、バッツも後ろからついてきた。
玄関まで見送りをするらしい。

「別についてこなくていいのに。」
「ん?いいじゃないか。"行ってきます"、"行ってらっしゃい"、"ただいま"、"おかえり"。家族がいるみたいでさ。」

バッツの言葉にスコールはたかだか一ヶ月の同居ではないか・・・と少し冷めた意見を心の中で呟いたがそれをわざわざ言う必要もなかったので、黙っておくことにした。
スコールは靴を履くと、鞄を持ち「それじゃ・・・。」と小さく呟いて出発しようとすると、バッツは手を掴んで首を振った。

「だめだめ、"行ってきます"だろ?」
「・・・行ってきます。」
「おうっ!!行ってらっしゃい!!」

彼の性格上、強引に出てきた時は逆らっては時間も労力のロスが激しいので大人しく従うと、バッツは満足そうに笑い、スコールの手を離して大きく手を振った。
朝から元気な彼に、一日のエネルギーの半分以上を使った気になりながらスコールは学校へ向かうべく家を出たのだった。



スコールが家を出た後、バッツは朝食の片づけをするためにダイニングキッチンへと戻った。
ダイニングテーブルの皿をすべて回収しようとしたところで、今朝の重箱が目に入る。

張り切って作ったのだがスコールには多すぎたようで大部分は重箱に詰められたままであるが、バッツは小さく笑みをこぼした。

「あいつ、意外にいいやつだよな〜。」

全部は食べられないのに、自分用の弁当箱にわざわざ詰め直して持って行ってくれたし、余った分は夕飯にしてくれると言った。
自分の昼ごはんにしてもいいのだが、自分が食べるにしても"ちょっと"量は多いし何よりもスコールが食べてくれると言ったのでそのまま従うことにしたのだ。

淡々としていたが、スコールの小さな優しさに触れ、バッツはうれしく思った。

重箱を冷蔵庫にしまい、朝食の片付けと家の掃除を鼻歌交じりで行う。
元々この家自体スコールがまめに掃除をしていたためか、あまり時間がかからないうちに終わってしまい、暇になってしまった。

「これからどうするかなぁ。」

テレビを見るか、スコールに教えてもらったインターネットで情報収集を行うか。
それもいいのだが、実際に地上の世界を目で見て色々と学びたい。
そう考えたバッツは初日にスコールから見せてもらった雑誌を引っ張りだし、ぺらぺらとページをめくり始める。あるページで手を止めると、にっこりとほほ笑み立ち上がってくるりと回転する。

一回転すると、シンプルなセーターとジーンズ姿から、ダッフルコートとマフラーを巻いた姿に変わっていた。
ついでにその服に合わせたスニーカーも出すことを忘れず、手に持っている。

「これでよしっ、と。さて、散歩に行くとするかな。」

スコールに注意されたものの出歩くなとは言われていない。
それに昨日一度外出しているのでその時の経験から別に一人でも問題ないだろう。地上の人間に合わせた格好をして"力"を使わなければ普通の人間とほとんど変わりないので大丈夫だと判断した。

スコールの大人しくしていてくれの意味は家で待っていてくれの意味を込めていたのだが、バッツにはまったく伝わっていなかったようである。
靴を履き、玄関の扉を開けて外に出ると、家の鍵穴を指でちょいちょいつついて鍵を閉める。

「よーし!行くか!!」

大きく深呼吸をしてそういうとバッツは軽い足取りで歩き始めたのだった。




一方、学校で授業を受けていたスコールは嫌な予感を感じていた。

朝、バッツに注意したものの、彼に外出に関しては何も言わなかったことが気になっていたのだ。
”大人しくしていてくれ”と言ったものの、彼に1人で外出するなとははっきり言っていない。

好奇心旺盛なバッツの性格を考えればまず、間違いなく外に出たいと考えるだろう。
せめて外出時の注意くらいはしておけばよかったと後悔した。

「(きちんと言っておけばよかったかな・・・。まあ最悪記憶の修正とやらが使えるのなら大丈夫・・・か。)」

教科書を開き、内容をノートに取りながらスコールはため息を吐いたのだった。

しかし、彼の後悔は昼休みにも再来することになる。
普段学食か購買部のパンなどで昼食をとることが常のスコールが弁当を取り出した時、クラスの友人が騒ぎ出したのだ。

「スコール!!その弁当どうしたんだ!?」
「そうっす!!いつもは学食かパンなのに今日は手作り弁当!!まさか、彼女でもできたっすか!??」

弁当のおかずがなかなか手の込んだものだったため、それをみた友人がさらに大声で叫びだし、スコールは彼らを黙らせるのに昼休みの半分の時間を使ってしまうことになったのだ。

騒がしくなった教室では落ち着いて食べることができないため、頭にこぶができた友人と共に寒風吹きすさぶ屋上でもくもくと弁当を食べることになってしまった。

「(学生食堂で一人で食べればよかった・・・。)」

バッツ手作りの弁当は美味かったが、寒空の下と興味津々の友人にぴったりとついてこられて囲まれた状況では落ち着いて食べることができず十分に味わえなかった。
スコールは不用意に弁当を取り出すのではなかったと後悔しながら弁当を腹に納めたのだった。


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手作りのお弁当は嬉しいものですよね。
バッツさんは料理が上手そうです。

ちなみにスコさんの友人は名前は書いていませんがヴァンとティーダです。
この二人が大声で騒いでしまい、スコさん手作り弁当の噂はあっという間にひろまってしまったと思います。

さて、一人お外に出てしまったバッツさん。どこに行くのでしょうか?
次回に続きます。






■ 拍手お礼 連載ミニ小説


「天気がいいなぁ。」

マフラーをふわふわ揺らしながらしっかりした足取りでバッツは歩いていた。
目的は特にない散歩だったので、昨日スコールと共に出かけたショッピングモールへの道を歩いていく。

あそこなら人も物も沢山あるのできっと楽しめるだろうと単純にそう思ったからだ。
試験中とはいえ地上のものに色々触れられる機会は今までなかったので楽しくて仕方がなかった。
この前は食料品や生活雑貨を見たので今日は何を見に行こうかと考えながら歩いていくと、昨日スコールが立ち寄った花屋が見えてきた。
なんとなしに店の方へと目を向けると昨日の店員が店の軒先にたくさんの花が入った桶を一人で抱えて出していた。どうやら開店準備らしい。

細い腕の女性で大丈夫かと思ってバッツはみていると、やはり一人で持つには重かったのか、少しよろけている。
転倒しないか心配になってみていたがどうにも危なっかしかったため、店員の傍に駆け寄った。


「大丈夫か?」

声を掛けて桶を一緒に支えて店先に置いてやると、店員の女性は一瞬驚いたような顔をしたが、バッツを覚えていたのか丸くした目を細めて笑い、礼を言ってきた。

「あなたは昨日の・・・あ、ありがとうございます。今日はお一人なんですか?」
「ああ、スコールは学校なんだ!おれ、ひとりで暇だったから散歩中!大変そうだな、手伝うよ!!」

店内にまだ置かれている桶を見つつ、バッツはまかせろとばかりにとんっと拳で胸を叩くと店員の女性はあわててそれを制止した。

「いえ、お客様にそんな・・・。」
「いやいや、困った時はお互い様だろ?おれ、力は強いからさ、どうってことないさ。それにスコールと一緒の時は客だったけど、今のおれは客じゃないからさ。」

バッツは快活に笑うと、桶をもち、軒先に次々と出していく。
その勢いと手際の良さに押されたのか、店員は少し申し訳なさそうな様子で一緒になって桶を出し、花の種類に合わせて桶を置いていく。
数分後、店の前には沢山の色とりどりの花が並び、店先は一気に華やいだ。
花畑の中にいるようなそんな気分にさせてくれる外観にバッツは満足そうに笑うと、店員の女性は丁寧に頭を下げて礼を言ってきた。

「すみません、手伝ってもらって。」
「いいや、いいってことさ!しかし、お店を一人でやってるのか?」

店はそれほど広くはないが、所狭しと花や小ぶりの観葉植物が並べられている。みたところ他に店員はいないのでなんとなしに聞くと、店員の女性は小さく笑って首を振った。

「いいえ、配達を中心にしている従業員がもう一人とアルバイトの子が二人います。」

つまり今は偶々一人だったと言うことか、とわかりバッツは「それならよかった!」と笑い返した。

「そっか。あ、そんな話し方しないでくれよ。さっきも言ったけどおれ、お客さんじゃないし。」
「・・・ふふ、おかしな方ですね。わかりました。そうします。」

人懐っこい笑顔を向けるバッツに店員の方も気が楽になったのか、先ほどの遠慮がちな様子が幾分か和らぎ頷いてきた。
地上に来て数日、試験相手のスコール以外の人間と初めて会話らしい会話をしたとバッツは楽しく思い、せっかくだから自己紹介をしておくことにした。

スコールがこだわって使っている花屋の人間ならなんとなくだがそうしても大丈夫な気がしたからだ。

「おれの名前はバッツ。スコールの・・・居候だ!!」

流石に天界から来たとは言えないので大まかに"居候"ということにしておいたが、店員はそれにさほど気にしていないのかくすくすと笑いながら自分も名乗ってきた。

「バッツさんね。わたし、エアリス。この花屋の店長です。よろしくね。」
「おうっ!!よろしく!!」

二人で笑い合いながらの自己紹介に和やかな空気が流れる。
柔らかな笑顔を浮かべるエアリスにどうやら目の前の人間は"いい"人間のようで知り合えてよかったと破顔した。

スコールと共にいる時間もいいが、もともと社交的で誰かと接するのが好きな方の自分としては誰かと触れ合えるのはとても嬉しい。
もし、トラブルをなるべく避けたいと考えているスコールに知られたら渋い顔をされそうだが、"神"だとばれなければセーフだろうとバッツは軽く考えた。

「それにしても沢山の花があるなぁ。スコールはここによく来るのか?」

店内の花をくるくると見回しながらバッツは質問すると、エアリスは「ええ。」と頷いた。

「一ヶ月に一回くらいかしら?花束をよく注文してくれるの。お花に詳しいみたいでいつも種類を指定してくれるの。」
「へぇ!そうなのか!」

優しいところはあるものの、愛想無しで無口な少年がかなり花に詳しいらしいことを知り、バッツは彼の意外な一面を知ることができて嬉しく思った。
大分慣れはしたものの、まだ仲が良いというわけではないので、彼が好きなもの、興味があることをネタにすれば少しは打ち解けてくれるかもしれない。
いいことを聞いたとバッツは満面の笑みを浮かべた。

不意に店の外に人影がちらついたのでエアリスとともに視線を向ける。
どうやら朝一番の客と思われる老婦人が店の前の花の入った桶を観察をしていた。

これ以上ここに居ては仕事の邪魔だと判断したバッツはそろそろ出発しようとマフラーを巻きなおした。

「おれ、そろそろ行くな!!仕事の邪魔になっちまうし!!」
「本当にさっきはありがとう。あ!そうだ。」

店に客と思われる人が来たのでエアリスの方も引き止めはしなかったが、何か思いついたのか、一度店の奥に引っ込み、戻ってきた時には小さな紙袋を下げてやってきた。
なんだろうとバッツが思っていると、紙袋を差し出された。

「これ、よかったら。」

中を覗き込むと、一輪の花と薄く切ったパンにハムやツナ、野菜に卵、フルーツと生クリームを乗せてくるくると巻かれたサンドイッチのようなものが入っていた。

「花と・・・なんだこれ?かわいいパンだなぁ!!」
「ラップサンドよ。簡単お弁当で申し訳ないんだけど、手伝ってくれたから。」
「へえ、こんな弁当もあるのか!!ありがとなー!!」

親切で手伝ったことにまさかこのような礼を貰えるとは思わなかったのでバッツは大きな声で礼を言って店を出ると、手を振るエアリスに自分も手を振り返して店を出た。


紙袋をゆらゆらとゆらしながら鼻歌交じりで道を歩いていく。
途中、もらったラップサンドの一つを開き、食べると素朴な味わいで美味く、バッツは顔を綻ばせた。

「(今日はついてるなー。知り合いもできたし、お土産ももらった。しかもスコールの貴重な情報まで聞けたし・・・花に詳しいなら花がきっと好きなんだろうな。覚えておこう。)」

朝からいい出会いと、同居人の知らない部分を垣間見えたことに上機嫌になりながら、バッツは道を歩いて行った




日がすっかり暮れた夜道をスコールは早足で歩いていた。
本当は授業が終わったらまっすぐ帰るつもりが、近くにある試験がやばいと友人に泣き疲れて一緒に勉強をする羽目になってしまった。

朝、注意をしておいたものの、自分がいない間にバッツが何かをやらかしていたら、巻き込まれていたと考えてしまうと、自然と歩く速度も速くなってしまう。
少々焦り気味で家に到着し玄関の扉を開けると、軽い足音共になんとも元気の良さそうな声が飛んできた。

「おかえりー!!」

満面の笑みでバッツはスコールの帰りを出迎えてくれた。
彼の様子から、彼自身が困ったと思えることはなかったのだろう。とりあえずだがほっとした。

「・・・ただいま・・・。」
「おうっ!!勉強お疲れさん!!」

労いの言葉をかけると、バッツはスコールに早く中に入って暖まれとばかりに居間へと導いた。

居間は掃除がされていてる上に朝にはなかった一輪挿しの花が飾られていた。
中は暖房が効いていてとても暖かく、急いで帰ってきたものの外の冷たい風の中を歩いていたため強張っていた体が氷が解けるかのようにじんわりと暖かくなっていく。

暖かく、落ち着ける空間にほっと息を吐くスコールにバッツはにっこりと笑うと、「お茶でもいれようか?」と勧めてきた。
バッツの勧めにスコールはいただこうと素直に頷こうとしたところで、鞄の中の空になった弁当箱の存在を思い出し、鞄から取り出してバッツに差し出した。

「・・・そうだ、これ。」
「お?」

バッツはスコールから弁当を受け取ると、すぐに笑みを零した。
受け取った弁当箱の軽さから、開かずとも空であることがわかったので、バッツは完食してくれたことを嬉しく思い、明るく笑って礼を言った。

「全部食べてくれたんだな!!ありがとな。」
「いや、礼を言うのはこっちた。・・・ありがとう。」
「・・・へへっ!!」

顔を逸らされながらだが、礼をいうスコールの素直さにさらに嬉しさが増し、明日も弁当を作ろうと心に決めてバッツはキッチンの流しへ空になった弁当箱を水が入った洗い桶へと浸けた。

「さて、夕飯の前にちょっとお茶でも飲むかな。少しまってろよ。」
「すまないな。・・・そういえば今日は何をしていたんだ?」

薬缶に水を入れて火にかけながら茶の準備を始めるバッツにスコールはバッツが今日一日何をしていたかを一応聞いておいた方がいいだろうと声をかけた。

一輪挿しが飾られていたので恐らく外出したのだろう。
彼自身は何事もなかったようだが、少々・・・かなり地上の人間とは考え方も常識もずれているので何かをしでかしていないか気になったのだ。
そんなスコールの心配をよそにバッツは茶の準備をしながら、楽しそうに答えてきた。

「家事とちょっと散歩に行ってきたよ。天気が良くて気持ちよかったなぁ。あ、特にトラブルとかなかったから大丈夫だぞ!!」

心配するなとばかりに笑うバッツ。
トラブルがないとは言われたものの、この能天気な神が、本人が自覚していないところで何かしでかしていないかわからないので安心はできなかった。
しかし、聞いた本人が問題がないと言ってきた以上はそれ以外は何もわからないので色々と最悪な事態を考えても仕方がないので、「多分大丈夫だろう。」と自分に言い聞かせることにした。

今日一日、授業中も休み時間も放課後も1人にしていたバッツのことを気にして過ごしていたのでいつも以上に神経を使ってしまって疲れてしまった。
疲れた体を癒すために、夕飯の前にさっさと風呂の準備でもしようとスコールは立ち上がって浴室へ向かおうとした。
そこを目ざとく見つけたバッツが声を掛ける。

「風呂の準備か?」
「ああ。少し早いがな。夕飯前に体を流してくる・・・。」
「入るならさ、この前買ってくれた入浴剤使って一緒に・・・。」
「結構だ!!」

またしても一緒に風呂に入ろうとするバッツを全力で拒否をすると、彼は口を尖らせ、ぶうぶうと文句を言ってきた。

「なんだよーそんな風にいわなくてもいいだろー?背中流してもらうの気持ちいいだろう?」
「・・・何度も言うが普通は男同士で家の風呂には入らないんだ。疲れているし、一人で入らせてくれ。」

心底疲れた様子で訴えるスコールに、バッツもあまり強く言っては悪いと思ったのか渋々といった表情で頷いた。

「ちえっ、わかったよ。けど、家事とか弁当作りとかはさせてくれよ?スコールの世話になってるし、今日いいこと知ったからさ。」

”いいこと”の内容が一瞬気になったが、今日作ってもらった弁当は美味かったし、部屋も問題なく綺麗に掃除してくれる。

一人暮らしの学生の身に色々と世話を焼いてくれるのはとてもありがたいとはスコール自身も感じている。
期間限定とはいえ、帰ってきて家事をする必要がない有難さは父子家庭で尚且つ父親が単身赴任中のスコールにとっては身に染みた。
・・・初日にされた一緒に風呂で背中の流し合いや壮絶なまくら投げは勘弁してほしいとは思っているが。

「・・・まぁ、それくらいなら。」
「やった!!おしっ!!じゃあ明日の弁当はきちんとスコールの胃袋に合わせて、今日の弁当箱に納まる量で作るからな。」
「そうしてもらえると助かる・・・。」

今朝出された弁当箱が最初は重箱だったことを思い出し、スコールは笑顔で張り切るバッツにため息交じりで頷いたのだった。




翌日、バッツから手渡されたのは普通サイズの弁当箱だった。
そこに油断したスコールは何の疑いもなく素直に弁当箱を受け取り、昼休みにそれを開いて中を見たとたん、瞬時に蓋を閉めてだらだらと冷や汗をかいた。

弁当箱には人参やキュウリで作った花が乗ったサラダやタコさんウィンナー、ご丁寧に星形にされたポテトに可愛くラッピングされたラップサンドが入っていたからだ。

昨日とは打って変わってかなり可愛らしくなった弁当に昨日と同じくスコールにくっついてきた友人たちにやっぱり彼女ができたのだなとはやし立てられ、スコールは頭を抱えたのだった。


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拍手ミニ小説にしては今回少し長くなってしまいました。

お花屋さんの店員はフリオかエアリスかで悩んでましたが今回は彼女を出してみました。
シアトリズム枠ということで。

ラップサンド、簡単可愛くておいしいので好きです♪
最初はキャラ弁を持たせるつもりでしたが、高校生の男子にはかなり拷問だろうと、上記のメニューになりました。
・・・どっちにしてもスコさんにとっては拷問ですね;;






■拍手お礼連載ミニ小説



「いってらっしゃい!!」
「行ってきます・・・。」

学生服に身を包み、鞄を抱えたスコールをバッツは笑顔で手を振って見送ったのだった。


地上での試験開始から早数日。

今朝も二人で朝食を摂り、スコールに弁当を持たせて学校へと行く彼を見送る。昼間に家事や情報収集、散歩、天界への定期報告などをして過ごし、スコールが帰ってくれば食事や風呂、雑談などをして眠る。
たったの数日だがバッツ自身元々順応性が高いのもあってかこの生活にも大分慣れた。

地上での生活が合わずにストレスを感じて勤務を嫌がる神もいると聞いたことがあるが、逆にバッツの方は慣れてしまって試験中であることを暫し忘れてしまうくらいだった。
それはそれで問題なので、気を引き締めて朝食の片づけをしようと見送った玄関から台所へと戻る。

食器や調理器具を洗い、部屋の掃除や庭仕事をした後、昼食をとりながらテレビを見て、その後はインターネットから情報を得る。

政治、経済、芸能などのニュースから巨大掲示板の書き込み、どこかの大学教授が書いた論文など沢山の情報を吸収していく。
沢山のことを知るのは好きだが、なによりも最近は料理サイトがバッツのお気に入りだった。
今日もお気に入りの料理サイトを見て、冷蔵庫に残っている食材で何か作れそうなものはないかと探していく。

先日、気合を入れて喜ぶと思われる弁当(ラップサンドとたこさんウィンナーなどなど)を作ったつもりだったが、スコールから「男子高校生には合わない、やめろ。」と言われてしまった。
なにがダメなのかわからなかったので聞き返すと、とりあえず可愛らしい感じのものは駄目だと言われたので、リンゴのうさぎや花型や星型、ハート型の野菜やカマボコなどは却下ということはわかった。

「おかしいよなぁ・・・子供はあんな弁当が好きってネットで書いていたのになぁ・・・。」

主婦の料理ブログに投稿されていた自作弁当写真を参考にしたらこれだとぼやく。

たまたま見た投稿写真の弁当は子供に作って喜ばれたと書かれていたのでそれを参考にしたのだが、ブログの本文に書かれていた「5歳の幼い息子に作った弁当」という一文をバッツは見ていなかった。
スコールが聞いたら驚くくらいの年齢のバッツからすれば17歳は"子供"の年齢のため彼も喜ぶかと思いきや逆に文句を言われてしまった。

もし、その時に"子供"、"5歳"という単語を出していたら微妙なお年頃の少年はまず間違いなく怒っていたと思われるのでその事態を回避できただけでも幸いだということにバッツは気づいていない。
不機嫌そうなスコールの顔を思い出しながら、彼に作っても大丈夫そうな料理レシピ確認していたらいつの間にかだいぶ時間が経ってしまった。

「やべ・・・散歩の時間過ぎてる・・・。」

時計を見ると時刻は15時半。いつも散歩に出るのは昼ご飯を食べて少ししてからなので、だいぶ時間は過ぎているのでどうしようかと考える。
いつもスコールが帰ってくるのは夕方。
今日は散歩はやめておくかとも思ったが、ほんの少しだが時間はある。

もし帰ってきたとしても、置手紙を残しておけば多分大丈夫だろうと思い、出ていくことにした。

「今日はどのあたりに行くとするかな?」

置手紙を書く前にどこに行くかを考える。

近くの河川敷をのんびりと歩くのもいい。
公園でのんびりと日向ぼっこも今日の天気なら気持ちがいいと思う。
ショッピングモールをぶらぶらと歩くのも面白い。
近くに大きなグラウンドもあったので子供たちと交じってちょっと遊ぶのも捨てがたい。

「(・・・今日はショッピングモールにするかな?牛乳を切らしちまったし。)」

迷った結果、今日はショッピングモールにすることにした。
近くのスーパーでも牛乳は買うことはできるのだが、たまには別の場所で買い物もいいだろう。

それにショッピングモールへの道ならエアリスの花屋もある。
卓上花を買っていくか、仕事の状況によりけりだが、彼女と少し世間話をしてみるのもいいだろう。

決まったら即行動あるのみとばかりにバッツはすぐに置手紙を書き、外出用の服装に着替えて鼻歌交じりで外に出た。


あてもなく歩くのが大好きだが、数日も経つと近所に何があるのか大体わかってしまった。
探検や遠い場所にはもっと時間がある時かスコールが休みの時に彼に頼んで連れて行ってもらおう。
見かけは不愛想だが意外に優しいところがあるスコールなら大丈夫だろう。嫌そうな顔はされそうだがそうしよう。
そう決めて慣れた道をどんどん歩いていくとすぐに目的地近くまでやってきた。

「(もうすぐショッピングモールだな。その前に花屋に・・・お?)」

花屋の前にはスコールと店長のエアリスが立っていた。
エアリスはバッツの知らない赤い花の花束をもっており、それをスコールに手渡している。
スコールの方はそれを受け取ると、礼を言っているのか少し頭を下げている。

「(あいつ、今日はもう学校終わったんだな。そういや、花束を注文していたんだっけ?受け取る日、今日だったんだ。)」

日曜日にスコールが花束を注文していたことをすっかり忘れていた。

二人の様子を窺うと、二人は二言三言会話を交わし、やがてスコールは手を振るエアリスに見送られながら花束を持って店を後にした。
歩いている方向は家とは逆方向だったので、花束を家に持ち帰るようではなさそうだ。

「(花束を持って何処に行く気だろう?)」

バッツは迷うことなく花屋とショッピングモールに行くことをやめてスコールの背中を慌てて追った。

なんとなくだが、ここで声を掛けてはいけないような気がしたので、バッツはスコールに気付かれないようにある程度離れて歩いた

勝手に尾行してもいいのかという思いが頭をかすめたが、スコールが花束を渡す相手が気になってしまいそちらの好奇心の方が勝ってしまった。
心の中でスコールに軽く詫びつつ、バッツはまるで犯人を尾行する刑事か、調査を行う探偵のようにこそこそとスコールの後を追った。

スコールの方はそんなバッツには気が付かずに花束を持って大通りをどんどんと歩いていく。

「(やっぱり、誰かに贈る花束なんだろうな。誰に渡すんだろ?公園に待ち合わせてとか?それとも相手の家に直接か?どっちにしてもいいよな〜うん。)」

花束の相手が誰か、どんなシチュエーションで渡されるのか、自分が渡すわけでもないのに少し胸の鼓動を速くさせながら後を追ったが、スコールはバッツが想像にしていなかった場所に足を止めた。

沢山の車と人が行きかう交差点。

少し騒がしい場所で歩みを止めたスコールにバッツは目を丸くした。
こんなムードも何もない場所で待ち合わせなのだろうか?と疑問に思ったのだ。

首を傾げつつ見守るバッツに気が付かないスコールは交差点の信号機の柱のところに迷わず手に持っていた花束をそっと置いた。



誰かのために手渡されると思っていた赤い花束は無機質な柱の傍に寄り添ったのだった。




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花束の行方でした。
バッツさん、尾行はいけないと思うよ・・・と思いつつ。






■ 拍手お礼 連載ミニ小説


スコールが道端に供えた花束の意味を察せれないほどバッツは地上の事情には疎くはない。
死者への弔いなのだろうかとバッツは予想し、少し離れた物陰からそっとスコールの様子を窺った。

スコールは供えた花束を見つめ、ゆっくりと瞳を閉じて暫しその場に佇む。
黙祷なのだろうか瞳を閉じたまま声を出さず、微動だにしていない。慰霊と思わしき行為からやはり死者への献花のようだ。

「(てっきり人に贈るかと思ったら・・・。)」

もう会うことができない者に対してだったのか。そう思うと心なしかスコールにどこか哀愁が漂っているようにも見える。
そんな彼の様子を窺っていると先程までスコールを追っていた好奇心と花束の相手がどのような人物かと想像し愉快に思っていた気持ちがどんどん萎み、やがて消えてしまった。

スコールはやがて瞳を開くと、もう一度花束を一瞥し、やがて元来た道へと歩き出した。
歩き出したスコールにバッツは気づかれるとまずいと思い、物陰に身を縮こませてやり過ごした。

スコールはバッツに気づくことなく、そのままバッツを通り過ぎていく。
ある程度スコールと離れてからバッツは物陰からそっと抜け出し、遠ざかっていく少年の背を消えるまで眺めていたのだった。




日が暮れスコールが帰宅し玄関のドアを開くといつも奥からやってくる同居人は今日はやってこなかった。
いつもはすぐにやってくるのに珍しいこともあるものだとスコールは靴を脱ぎ、そのまま居間へと移動する。

居間にはソファーに膝を抱えて座っているバッツがいた。どうやら自分の帰宅に気がついていないようだったのでスコールは彼の背に向かって帰宅の挨拶を投げかけた。

「ただいま。」

スコールからの「ただいま。」にバッツは驚き、弾かれたように後ろを振り向いた。
バッツの様子に少々面喰ったスコールだったが、バッツの方はすぐさま笑顔になり、「おかえり。」と挨拶しかえしてきた。

笑顔はいつもとは変わらないのだが、どうも様子が気になる。
いつも元気な彼とはどうも違うと不審に思ったスコールは自分の傍に軽い足取りでやってきたバッツに疑問を投げかけた。

「・・・なにかあったのか?」

スコールがそう聞くと、バッツは数回瞬きをした後、なぜそんなことを聞くんだとばかりに小首を傾げてきた。

「なにが?」
「あんた、いつもなら玄関まで迎えに来るから。」
「あ、ああ。少しぼーっとしちまっててさ。」

そう答えた彼の様子はいつもと変わりはない。
自分の思い違いだろうか?とスコールは一瞬そう思ったがどこか彼の表情、受け答えがぎこちなく感じる。

そんなスコールにバッツはいつもの調子で、彼が持っていた本屋の袋に目をやると、「どこかに寄ってきたのか?」と聞き返してきた。

「本屋に。参考書と問題集をな。」
「そっか。勉強熱心なんだな。腹減っただろ?すぐに夕飯にするな。」

受け答えに何もおかしな点や様子はない。ただ、なんとなく誤魔化されたような感じになり、スコールは台所へ向かうバッツの背をじっと眺めた。

バッツの方はまだ訝しげな表情をするスコールの視線から逃れるかのようにそそくさと台所へと引っ込んだ。
冷蔵庫を開き食材を取り出して、調理を開始しながら今日のことをぼんやりと思い出す。

スコールはあまり表情を変えていなかったが、手向けられた花束と祈りをささげるかのようにしていた黙祷から余程大切な相手なのだろう。

推測であるがまず間違いなくこの世にはいないものへ贈られた花束。

想い人か大切な人に渡すと思われていた花束の行方がまさか死者へ贈られたものだとは思わなかった。
花屋のエアリスの話から定期的に花束を購入しているとのことなので、そのたびにあの場所に献花しているのだろうか。

受け取り相手は空の彼方へと消えた者。そう思うと少し切なくなってしまった。

「よし・・・完成っと。」

調理が終わり、バッツは小さなため息を吐きながら炒め物を皿へと移すと、大きな声でスコールを呼び食事を運んでもらうように頼んだ。
やってきたスコールは大皿に山盛りに盛られた炒め物と昔話の絵本のように盛られた白米にもう見慣れたのか、何も言わずにダイニングテーブルへと運んでいく。

二人で手を合わせて食事を摂ったが、どちらも話すことなく黙々と腹に納めていく。食事は美味いのだが会話がないためどうも味気ない。
スコールは箸を止めずに目の前に座るバッツの様子を密かに窺う。

いつもならスコール本人が話さずとも、彼が勝手に話をするかスコールの今日一日の出来事を聞いてきてそれをスコールが話すかなどの会話をしながら食事をするのだがそれがない。

どうも今日の彼はおかしい。

しかし、その理由が思い当たらない。
朝、自分が出ていくまではいつもの彼だったが、自分が帰ってくるまでなにかあったのだろうか。


「おい。」
「へ?」

食事の手を止めて視線を自分に向けるバッツ。
スコールは彼の瞳を真っ直ぐ見つめながら、もう一度疑問を投げかけた。

「あんた、やっぱりおかしいぞ。・・・昼間、なにかあったのか?」

スコールにそう聞かれ、バッツはもう一度聞かれるとは思わなかったのか目を大きく見開く。

彼の表情からやはり何かあったのかとスコールが視線を外さずに詰め寄るかのように身を乗り出す。
バッツは少し瞳を逸らし、何か迷ったかのような表情をした後にやがてぼそりと小さな声で話し始めた。

「えーあーなんだ、少し失敗をしちまって。」
「失敗?」

まさか、ほかの人間に"神"だとばれるようなことでもしでかしたのか?
それなら彼の様子がおかしいのも納得がいく。
一体何をやらかしたのか少し聞くのも怖い気がするが・・・。

ごくりと唾を飲み込み、スコールがバッツに先を言うよう促すと、バッツの方はちらちらとスコールの様子を窺いながらぽつぽつと話し始めた。

「ショッピングモールの道にあるドーナツ屋でドーナツ30個買っておやつに食べちまったんだよ。そしたら思いのほか腹に残ってて・・・。お前が呆れるかもしれないと思うと中々言いだせなくて。」
「・・・そんな買い食いをしていたのか。」

朝昼晩自分の倍以上は余裕で食べている上にドーナツ30個。
想像しただけで腹が膨れる上に胸やけがしそうだとスコールは顔を顰める。
大食らいの彼からすれば普通の量なのかもしれないが、普通の人間のスコールからすると異常である。

「(それで元気がないのか。)」

元気がないのはただの食べすぎか、とスコールは納得するとあとで胃薬を飲むように勧めて食事を再開する。

バッツの方はスコールがこれ以上何も聞いてこないことに内心安堵していた。
様子がおかしいことに勘付かれたのはびっくりしたがなんとか誤魔化せたようだ。

ドーナツの買い食いはもちろん嘘。

嘘を吐くのは少々気が引けるがこの際仕方がない。
まさか後をつけて花束を捧げていたところを自分が見ていたということはスコールに知られない方がいいだろう。

心ので嘘を吐いたことをスコールに詫び、バッツの方も食事を再開した。


スコールを風呂へと見送った後、バッツは自分用に宛がわれた寝室に戻った。風呂の番が来るまで調べ物をしようと借りたPCを起動し、インターネットでスコールが献花していた花の種類を調べた。
花の種類を調べるのにさほど時間はかからず、すぐに種類が分かった。

「・・・リコリスっていうのか。」

赤い花の正体はリコリスと呼ばれる花だった。
検索した時にヒットした画像から確認もしたがまず間違いなかった。

「えーっと開花時期が9月から11月の花で・・・ユリ科の花と。」

開花時期が少しずれているが、それを贈ったということはなにかスコールのこだわりでもあるのだろうか?とバッツは考える。

リコリスの花束の相手。
花を捧げたスコールの心情。

勘なのだがなんとなくこの出来事を無視してはいけない気がした。
スコールにとっては余計なお世話なのかもしれないが。

「うーん、花はわかったとして、どうするかな・・・お?」

窓辺に置いていた砂時計が光る。
数少ない天界からの持ち物の傍にはいつの間にか手紙が置かれていた。
近付いて手に取り、中を開いて文面を読むと試験の報告のため一度天界へ戻るようにと書かれていた。

「(そういえば、定期的に報告しに行かなきゃいけないんだっけな。こっちの生活費の精算もしなきゃだし、明日スコールが学校に行っている間に行ってくるか。)」

自分の食費がそこそこかかっているので、清算してしまってスコールに返した方がいいだろうと思い、手紙に同封されていた返信用の便せんに返事を書く
”明日の午前中に一度戻る。”とだけ書くと、それを封筒に入れて息を吹きかけると手紙がひらひらと上へと舞い上がり、小さく発光して消えた。
これでよしと頷くと、扉をノックする音が聞こえた。

「風呂が開いたから入れ。」
「お、おお。ありがとう。」

風呂上がりのスコールから自分の番を告げられ、バッツは見られているわけでもないのに慌ててPCの電源を落としたのだった。


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バッツさん考えるの巻き。
神様バッツさんは神様なのに普通に主夫ですね;
まだまだ続きます。






■ 拍手お礼 連載ミニ小説


「以上が報告だ。」

並べて設置された玉座に座る二人の神の前でバッツは地上試験での現時点の報告を終えた。



翌日、バッツはスコールを送り出した後、報告のために天界へと戻った。
バッツ達神々が住まう天界、人間たちが暮らす地上、死者やその者達を管理する神が住まう冥界。
この3つの世界の頂点に君臨するのが目の前の2人の神。

女神コスモスと男神カオス。

この2柱の神は天界、地上、冥界の3層の世界を構成する"柱"そのものであり、世界中の生物を生み出した創造神でもある。

言うなればバッツにとっては"神"という職業の一番上の上司であり、"親"でもある。
バッツには自分を生み、育ててくれた両親がいたが、その親の親をずっとたどっていけばこの2人に行きつくので敬うべき対象ではあるが”親”としての親しみを持っているのでわざわざ敬語を話すこともないし、気軽に話すこともある。

しかし、現在は試験の真っただ中。
自分の試験の合否を判定するのはこの2人であるのでバッツは普段よりも慎重に、言葉を選んで報告を行った。
先程の報告に何も問題はなかったはずだと緊張しながら2人の言葉を待っていると、コスモスは柔らかく微笑み、カオスは腕を組んでバッツを見下ろした。

「地上での生活はとても充実しているようですね。良いことです。」
「少々、羽目を外しているとも思えるがな。」

コスモスは至って優しく、カオスの方は呆れ交じりで感想を述べた。コスモスはともかく、カオスはどんなに優秀な神であっても皮肉や文句を必ず一言は言うのが当たり前なので今のは"良"といったところだろう。
余談ではあるがこの二人の直属の部下であるウォーリアと言う名の生真面目な神とライトニングと言う名の気の強い女神とカオスは毎日口論をしていると噂が流れている。

「試験相手との共同生活が試験課題ではあるが、こちらで少し様子を見させてもらった。ふらふらと勝手に出かけて試験相手とは別の人間と無駄話をし、わざわざ人間式の家事を行っているみたいだな。」

カオスには他意はないのだが言い方がいちいち気に障る。
よくコスモスは"これ"と今までずっと一緒にいられたよなぁとバッツは失礼な感心しつつ、カオスに言い返した。

「地上での生活はこことは違う。羽目を外しているんじゃなくて色々と"探究"をしているんだ。おれは地上で仕事がしたい。だったら試験中でも学べるところは学んで当たり前だろ?」

下手な世辞や同意はこの2人には無用であるため、バッツは遠慮なく自分の意見を述べるとカオスが鼻で笑い、隣のコスモスはそれをやんわりと窘めた。

「ごめんなさい、バッツ。カオスはここ最近冥界の方の仕事が忙しかったため少々機嫌が悪いのです。私は沢山のものに触れようとするあなたの"探究心"はとても素晴らしいことだと思います。」

コスモスは立ち上がるとバッツに近づき、白く、柔らかい手で頭を撫でた。

「人と共に生活をするという機会は中々ありません。試験中ではありますが、後の糧となるよう、しっかりと学べるところは学んでください。」
「ああ!ありがとな、コスモス。」

母親のような慈愛に満ちた微笑みで励ますコスモスにバッツは元気よく礼を言い、一礼すると部屋を後にした。
その後姿を2人の神は消えるまで見つめる。

「・・・我には礼を言わずに去りおって。」
「あなたがあのような態度だからですよ。」

不満げに呟くカオスにコスモスは困ったように小さく笑った。




最初の報告に特に問題はなかったため、バッツはほっと胸を撫で下ろしながら道を歩いていた。
あまりにもあっけなかったため、本当に試験中なのかと首を傾げる。

一か月間人間と共に助け合いながら暮らしていく。

余りにもシンプルな試験内容だが、この試験のどこに合否の判定基準があるのだろうか?
コスモスとカオス。
2人の神は自分の何を見て判断するのだろうか。

「さっぱりわからないなぁ・・。」
「なにがだよ?」

自分の呟きに誰かが突っ込みを入れた。
声のした方を向くと、小柄な少年がいつの間にか自分の隣に立っていた。

「ジタン!!」
「ひさしぶりだな。バッツ。」

ジタンと呼ばれた少年はにっ、と笑った。

「仕事中か?」
「ああ。クジャ・・・兄貴から頼まれごとでさ、AからE全地区の死者リスト20年分のデータが欲しいって言われてさ。AとCが、最近死者がやたら多くてよ。ほかの地区から"転生"の数を増やして釣り合いをとった方がいいんじゃないかって喚いてて。」
「そういやおまえ、クジャと魂の管理をしているんだったよな。」
「そうだよ。これからその兄貴と誰を転生させるか決めるところ・・・。」

ジタンはそういうとげんなりと腕の中にある沢山の書物を掲げた。
一冊にどれだけの人数が記録されているかはわからないが、相当な数なんだろう。確認をするだけでも骨が折れそうだと思った。

「大変だなぁ。」
「まあな。お前は今地上Dで勤務への試験中なんだろ?いいのかよ?こんなところで油売ってて。」
「今日は報告日。それに、試験相手の同居人が帰ってくるまで時間に余裕はあるから大丈夫だよ。」
「そっか。」

途中の道まで一緒に行こうと二人で歩きながら世間話をしていく。
その途中でバッツはあることを思い出し、ジタンに話しかけた。

「そうだ、ジタン。」
「なんだよ?」
「D850地区の死者のリストってすぐ見ることができるか?」

D850地区はスコールが献花を行っていた場所。
もしかしたらこの場所で亡くなった人がスコールと関係しているのではないかとなんとなしに思ったからだ。

「D850地区・・・なんでだよ?」
「少し気になることがあってさ。」
「ふぅん。死者のリストを知ったところで何の得にもならないのに。ちょっと待ってろ・・・ほれ、このリストだよ。」
「さんきゅ。」
「すぐ返してくれよな。兄貴に渡さないといけないから。」
「ああ、今必要な分だけ見させてもらうよ。」

バッツは受け取ったリストの表紙をひと撫でし、瞳を閉じる。
風が吹いていないはずなのにひとりでにリストが開き、バッツが目的としている地区のページが開き、書かれていた膨大な名前から一つだけが金色に点滅した。

「・・・このひとか。えーっと・・・エルオーネ・・・3年前にあの地区で亡くなっているのか。」
「その子がどうしたんだい。」
「え、ああ、ちょっとな。」

自分の試験相手に関係するかもしれないことなので言葉を濁したが、ジタンはさほど気にせずリストをまじまじと見つめている。

「エルオーネ・・・どこかで聞いたな。」
「知り合いなのか?」
「いや・・・知り合いではないけど・・・おかしいな、どこかで名前を聞いたと思ったんだけど。」

どうやら忘れてしまったようだとジタンは肩を竦めた。
バッツは名前と横に書かれていた簡易経歴を覚えるとリストをジタンに返した。

「ありがとな。このリストは過去20年分なんだよな?」
「ああそのはずだよ。もっと見たいのか?」

スコールの年齢は17歳。
彼が生まれる前の死者のリストを探しても彼と知り合いである可能性は格段に低くなるだろう。

「いや、いいよ。ただの興味本位だからさ、気にしないでくれ。」
「そうか。お、そろそろ戻らないと兄貴が文句をいうと思うからオレ、行くわ。試験、がんばれよー。」
「ははっありがとな。クジャにもよろしくな。」

小走りで戻っていくジタンにバッツは手を振ると、自分もそろそろ帰るかと大きく伸びをした。

試験の報告に来たが、スコールの花束の相手への手がかりと思える人物の名前を知ることができた。
試験中のも関わらず、自分は一体何がしたんだと思ったが、花束を捧げていたスコールの姿がちらつくと知らずにはいられなかった。

スコール。
リコリスの花束。
エルオーネ。

地上に帰るまでこの三つが頭から離れることはなかった。

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少しずつ、スコールさんのことを知っていくバッツさんでした。




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