お返しもう一度キス?
「不意打ちファーストキス」後日のお話です。
(「不意打ち〜」のお話はこちら→
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近くに新しい断片が表れたとの報告があったため、スコールとバッツは二人で朝から探索に出ることになった。
新しい断片は草原のど真ん中に繋がっていたらしく、天気もよくて風も気持ちいい。
探索とはいうものの、ピクニックにでも来ているようだとバッツはうきうきしながら歩いていく。
イミテーションが表れる気配もなさそうで、このまま寝転がって昼寝でもするか、花を摘んで仲間達のお土産にしていくのもいいと考え、隣を歩いているスコールに提案しようと様子を伺ってみる。
隣を歩くスコールは知らない人が見たらお世辞にも楽しそうには見えない。
しかし、バッツをはじめ、他の仲間たちが見たら今日の彼はなかなか機嫌がいいことはすぐわかった。
時折空を仰ぎ、風が吹けば目を細めて心地よさを楽しんでいるようだ。
これなら提案を聞いてくれるかもしれない。
「なぁ、スコール。」
バッツが声をかけるとスコールがゆっくりと振り向いた。
「どうした?」
「朝から歩きっぱなしだしさ、ここいらで休憩にしないか?イミテーションもいないみたいだし、見晴らしもいいからさ、敵がきてもすぐにわかるだろ?」
そういってこちらの出方を伺うかのようにじっと見つめられる。
目の前の青年は年齢の割りには子供っぽい。
休憩と言っていたが、遊びも含んだ休憩をしたいと言っているのだと表情を見てすぐわかった。
普段なら却下をするところだが、バッツの言うとおり敵の気配は感じられないし、見晴らしのいい場所だから何かあってもすぐに対処できるだろう。
何よりこの場所は空気がよく、気持ちがいい。
「・・・そうだな、そろそろ休憩にするか。」
「やったっ!そうこなくっちゃ!」
スコールが頷きながら言うと、バッツは手を挙げて喜ぶ。
感情がわかりやすい彼のリアクションに内心面白いと思いながら、スコールは剣を置き、草原に腰を落ち着けた。
2人がいる場所は少し地面が盛り上がった小さな丘のようになっている場所で、休憩するのにちょうどいい木陰もある。
出発から水分補給以外の休憩をしていなかったことに今更気づき、バッツの提案に乗ってよかったとスコールは思った。
樹の幹に寄りかかって休憩しようとするスコールとは別に、バッツの方は持っていた荷物の中をごそごそと探っている。
何をしているのか気になり、スコールがそちらに視線を向けると、バッツは荷物の中から2つの包みを取り出し、一方をスコールに差し出した。
「小腹すいたからな、ほら。」
スコールは包みを受け取り、中を開くと握り飯が出てきた。
ご丁寧に、汚れた手でも食べられるように大ぶりの笹のような葉に巻かれている。
「いつのまに・・・。」
旅人である彼は荷物を纏めるのが上手いと思ってはいたが・・・。
今日の荷物は小さな包みを肩に斜め掛けしたものだけだったため、食料持参とは思ってはいなかった。
「朝の残りで作ったんだ。どのくらい探索するかわからなかったからな!スコール、好きなんだろ?」
゛好きなんだろ?゛の一言にスコールは一瞬どきっとする。
スコールはバッツに恋心を抱いている。
そのことを知っているのは今この場にいない盗賊の少年だけで他は誰にも気付かれていないはず。
今言われたのは握り飯のことだと心の中で自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせる。
確かにバッツの握り飯は美味いがスコールの場合は特別好物というのではなく、バッツが作るから好きなのだ。
ただ、そんなことはスコール自身口が裂けても言えないので黙って頷くとバッツは見る見るうちに輝かんばかりの笑顔になった。
「そっか!なんつーかさ、食べてる時、少し表情が柔らかいような気がしたから好きなのかと思ってさ。作ってきてよかったよ。」
まさかそんな風にバッツが思ってくれていたとは思わなかったスコールは心が少し暖かくなる。
仲間思いだからかもしれないが、自分のことを考えて作ってくれたのなら嬉しく思う。
「すまない・・・。」
「ははっ!こういう時は笑ってありがとうだぞ?ま、スコールの゛すまない゛は゛ありがとう゛の時もあるからな。よしとするか!」
バッツ笑いながらスコールの隣に座ると、間に水筒を置いて自分の分の握り飯を持ち「いただきます!」と大声で言うと、大口で握り飯にかぶりついた。
「うん、うまい!」
握り飯を美味しそうに頬張るバッツを見ていると、スコールの方も食欲が湧いてきた。
包みを開き、一口食べてみると、程よい塩気と米の旨味が口の中に広がる。
「流石だな。」
「だろー?」
前々からバッツの握り飯は旨いと思っていたが、こうして2人で青空の下で食べると一層美味く感じる。
スコールはそう思いながら包み紙代わりの葉にくっついた米粒も残さずに食べようとした時、以前握り飯を食べた時に、頬ついた米粒に気が付かずにバッツに直接食べて取ってもらったことを思い出した。
あの時は、キスに近い行為に自分はどぎまぎしたがバッツはあの後自分に普通に接してきていた・・・。
目の前の想い人はあの時のことを全く気にしていないどころか、寧ろ覚えていないかもしれないと思うとスコールは先程暖かくなった心が少し冷め、何だかしょっぱい気持ちになってしまい、紛らわせようと二口目を齧った。
バッツの方はスコールがそんなことを考えているとは当然欠けらも気付いておらず、いつの間にか一つ目の握り飯を間食しており、二つ目に手を付けている。
痩せ型の体型をしている割にはよく食べるバッツの食欲に感心していると、彼の顔をよくみれば米粒が付いていた。
「おい、バッツ。」
「ん?」
口をもぐもぐとさせながらこちらを振り向くバッツの顔は小動物が食料をほお袋にいれているようで少し可愛いくて一瞬そちらに気を取られそうになるが、すぐに我に返り、頬についている米粒を指差し、取るよう促した。
「頬に米粒がついている。」
「え?どこだよ。」
口の中にあったものを飲み込み、手でぬぐおうとしているが中々取れない。
「(前とは逆だな・・・。)」
取ろうと苦戦しているバッツを見ていると、以前自分の頬についた米粒が中々取れずに、彼に舐めとられたことをまた思い出してしまった。
ほとんどキスのようだったため、自分がどれだけドキドキしたかなんて目の前の想い人は思ってもいないだろう。
また少し意気消沈しかけてる間に、バッツは米粒を取ろうと奮闘しているが中々取れない。
握り飯を片手に「あ〜」とか「う〜」とか唸りながら何度も頬を手で拭っているためか、若干赤くなっている。
「・・・。」
スコールは目の前の青年の様子を見て、何やら少々思案した後、意を決したかのように頷くと声を掛ける。
「バッツ。」
米粒を取ることに気を取られていたバッツがスコールの方を振り向いたと同時に、スコールはバッツの肩に手を添えて頬に口元を付けるとそのまま米粒を舐めとった。
突然の出来事にバッツは握り飯を持ったまま、大きな瞳を瞬かせて、スコールを見つめてくる。
普段奥手なスコールからすれば中々勇気のいる行動だった。
内心ドキドキしながらバッツの様子を窺っていると、肝心のバッツは一瞬驚いた表情だったものの、すぐにいつもの笑顔でスコールに笑いかけてきた。
「あ、びっくりした。けど、ありがとな。」
空いた手で舐めとられた米粒がついていた頬を押さえて、にへらと笑いながらスコールに礼を言ってきた。
「指でとってくれてもよかったけど面倒だもんな!米粒一つでも貴重な食料!流石スコール!」
普段から食料を大事にすることは仲間内での暗黙のルールだ。
取って捨ててしまうのはもったいない上、面倒だから自分の頬の米粒を直接舐めとったのだろうとバッツは解釈しているようだ。
スコールの想いの一欠片も気づいていないのだろうその態度に、スコールは少々落胆した。
「(・・・やっぱり気にしないか・・・。)」
もう少し動揺するかと思ったのだが、さらりと礼を言われて褒められてしまった。
想定内のこととはいえ、想い人は頬を舐められても何とも思わないほど、自分のことを何とも思っていないのだと改めて思い知らされた。
もしかしたら・・・もしかしなくとも、犬や猫、チョコボなどの動物に舐められたのと同じように感じているかもしれない。
スコールが心の中で落胆しているとはつゆ知らず、バッツは再び握り飯に夢中になっており、あっという間に2個目を間食して、食べ終わった手と膝の上を払って立ち上がる。
「よし、腹が膨れたな。スコール、おれ、みんなの土産に花を摘んでいこうと思っているんだけど、いいか?」
包み紙代わりに使用していた葉っぱを土に埋めながらバッツがスコールに聞いてくる。
「(もう、どうにでもしてくれ・・・。)」
自由すぎる想い人にそう心の中で呟きながら頷くと、彼は「さんきゅーな!」と元気よく礼を言い、スコールの背後に咲いている花畑に軽快な足取りで向かっていった。
気持ちのいい風が吹く草原で、想い人と2人で同じ時を過ごしてはいるものの、自分ばかりが空回りしているようで、なぜかどっと疲れてしまった。
もそもそと握り飯を間食し、その場にごろりと横になる。
空は青く、ふかふかとした芝は葉のいい薫りがする。
風が心地よく頬を撫で、日差しも気持ちいいのだが、そんな場所にいるにもかかわらず、スコールの心はどんよりとした曇り空で晴れにはなりそうにもない。
これ以上考えるとさらに落ち込みそうなのでスコールは半分ふて寝に近い昼寝を開始することで気を紛らわせることにした。
「(さっきはびっくりしたなぁ・・・。)」
バッツは背後で眠っているスコールの姿を盗み見しながら花を摘む。
頬にスコールの舌が。
それに唇も当たっていた。
された瞬間、一瞬何が起こったのかまったく理解ができなかった。
「(前におれが似たようなことしたけど、するのとされるのじゃ違うのかな?)」
頬にまだ感触が残っているようで、空いている手でちょっと触れてみる。
ちょうどスコールが触れた部分が暖かく感じる。
少し胸の鼓動も早いような気がする。
なぜそうなるのか、バッツは首を傾げて考えてみたがすぐに答えは見つかりそうになかった。
「(・・・まぁ、いいか!!)」
まったくわからないなら、これ以上考えてもキリがない。
バッツはそう自分を納得させると、スコールに背を向けて鼻歌混じりで花束を作るための花摘みをはじめた。
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「不意打ちファーストキス」のその後のお話。
両想いか、片思いか散々迷ったのですが、片思いで行きました。
ただ、スコールの片思いですが、バッツに心の変化が現れはじめているところが伝わっていただければうれしいです。
このお話は実はあるお方に送ったメールのお返事が続編を書くきっかけになりました(嬉)。
しかもそれだけではなく、この小説をもらっていただけることに!(←押し付けたとも言いますが…;)
E様、ありがとうございました!!