不意打ちファーストキス


「人は見かけによらないよなぁ。」

ジタンが座っている前のテーブルには様々種類の握り飯が乗っていた。


秩序の女神の計らいで、コスモスの戦士たちは少し小さめの古城を拠点に行動をしている。
クリスタルを手に入れたものの、時間が許す限り鍛錬を積んでから戦いに挑んだ方がいいという光の戦士の判断によるものだ。

古城の中は個室にキッチン、ダイニングに浴室と生活に必要な設備が整っていたため、日々戦っている戦士たちを心身ともに休息を与えてくれる場所だった。

キッチンがあるため、野営では作るのが難しい料理を作ることができることはありがたい。

特に主食になる米、パンの原材料の小麦やバター等は旅生活では持ち運ぶ量に限界があるため、日々の量を気にせずに料理をできることがうれしかった。

大量にあるのは仲間の本日の朝食用に作ったものだ。
夜間の見張りに付いていたものはすこし遅めでも取れるように、食器をできるだけ少なくすることで水の節約にもなるし、あまったら偵察時の軽食用にもできる。
そのためか手持ちで食べられる食事が採用されることは多い。それを作っているのは目の前にいる2人の男。

大量の炊き立ての飯の前に立ち、スコールとバッツは次々と握り飯を作っていっている。
さまざまな世界から集まった仲間たちの中では米を炊いて握って食べる文化を知らないものもいたが、片手でも食べられ、腹にたまりやすいので仲間たちには喜ばれていた。
そして、なによりも作りやすいので今日の朝食はおにぎりと決めたのは彼らだった。

「なんだよー見かけによらないって。」

飯を握りながらバッツがジタンに問う。

「いやーバッツっておおざっぱそうなのに意外に飯はうまいし、さっきから見てたけど、おにぎりの形も大きさも全部同じだしさ。すげーなって思って。オレ、そんなに均一ににぎれないんだよなー。」

バッツの前に並んでいる握り飯は大きさも形も均一にそろえられている。
スコールも下手ではないのだが、バッツのものと比べるとややいびつで大きさもよく見れば少し違っていた。

「スコールがへたってわけじゃないけど、バッツと比べるとなぁ。」


「まぁ、こういう単純な料理は意外に大きさ合わせるのは慣れが必要だからなぁ。おれ、旅生活が長かったし。けど、当番でもないのにスコールが手伝ってくれたから助かったぜ!!ありがとな!!」

満面の笑みでバッツはスコールに微笑んだ。
そんな彼に礼を言われた当の本人は「別に…。」とつぶやきながら握り飯つくりを続けていた。


視線は手の中にある飯だったが、握る速度が少し速くなったようにジタンには見えた。


「へへっ!!あとはスープの確認だな!!確認が終わったら他の奴らを起こさないとな。」

バッツはそういうと、握っていたおにぎりを皿に置くと、少し離れた場所にあった火にかけた鍋の確認をはじめた。

バッツが離れたことを確認すると、ジタンはスコールの横に立ち、握り飯の数を仲間の人数分に分けはじめた。
スコールはスコールで黙々と握り飯を作り続けている。

無言の空間を切り裂いたのはジタンの次の一言だった。

「好きな奴が料理上手だとぐっとくるだろ?」
「!?」

スコールははじかれたようにジタンの方をみると、彼は面白そうに尻尾をゆらしながら、スコールの方をみつめていた。

「図星か。」
「なっ!?」

驚いて握っていた握り飯を取り落したのをジタンはキャッチして、にやにやした笑みを浮かべた。

「バッツ本人は気づいてないだろうから安心しろよ。やっぱりなー。最近のスコール、少しまるーくなったのと、食事当番でもないのに手伝ってたからさ。」

スコールの横にいる少年は年齢の割には落ち着いていて、なかなか洞察力に優れている。
話によるとさまざまな種族、年齢も違う仲間と共に生活をしていたらしいためか、コスモスのメンバーの行動をよく観察し、気遣うのが上手い。

仲間の中ではよくチームを組んでいたのもあってか、自分をよく知ってくれて、比較的接しやすいと思ってはいたが、まさか自分の想いを見抜かれているとは思っていなかった。

「・・・あいつには・・・。」
「わーってるよ、そんなに野暮じゃないさ。しっかし、お前、そんだけ容姿が整っていて、強けりゃ女の子がほっとかないのにもったいないなー。」
「・・・わるかったな。」

眉間に皺を寄せるスコールにジタンは苦笑した。
自分の前でこのような表情をしてくれるのは少しは打ち解けてくれているのかもしれない。
そう思うと嬉しいものだが、ただでさえ繊細で神経質な部類に入る彼の機嫌を朝から損ねさせるのはよくないだろう。

「わりぃわりぃ。んな顔するなって。せっかくのいい男が台無しだぞ。…まぁあいつ性格がおおらかだし、けっこう話題も豊富だからな。お前がおとなしい分、あいつの騒がしさがちょうどいいのかもなー。」


そういって笑うジタンに、スコールは眉間のしわを少しゆるめ、口を開いた。


「・・・へんだとは思わないのか?」
「は?」

スコールの問いかけにジタンは首を傾げた。

「その・・俺は同性に・・・。」

「・・・あー。」

スコールの言いたいことを察した。

彼の想い人、…バッツはスコールと同じ男だ。
自然の摂理にさからったこの恋愛感情は、人によっては異常と思っても不思議ではない。
ジタン自身も自分が恋をするなら女性とだと思っているし、今まで同性そのような感情をもったことはない。

しかし、それはあくまで自分の考えであってすべての人が同様とも限らないとも思っている。

種族も年齢もちがう集団の中で育ったものとしては、人間一人一人がそれぞれの考え方や価値観があるということをよく理解していたためか、同性同士の恋愛に関する偏見はあまりない。

「まぁ、好きになっちまったんならしかたないんじゃねぇの?いつ命を落としてもおかしくない状況にいるんだ。後悔しないようしたらいいんじゃね?まぁ、あいつ自身がどう思うかまではわかんねーけどな。」

ジタンはそういうとにやりとスコールに笑った。


彼なりにスコールを応援してるつもりなのだろう。
自分より年下のはずの少年がスコールにはひどく大人に見えたような気がした。


「ま、がんばれよ。っと、そろそろ、みんな起こしにいくとするかな。あとは二人でも大丈夫だろ?」

ジタンはおにぎりのきれいに並べ終えるとタオルで手をふき、大きく伸びをした。

「あとはまかせたぜ。・・・少しの間ふたりっきりの時間すごせよ。」
「っ!」

スコールが何か言う前にジタンは笑いながら走り去っていった。
そんな二人のやりとりがあったことはスープに気をとられていたバッツ自身の耳には当然入っておらず、ジタンの走り去る音ではじめてスコールの方を振り向いた。

「なんだぁ?ジタンのやつ、みんなを起こしに行ったのかぁ?」
「・・・ああ。」

どうやらジタンとの会話は聞こえていなかったらしくのんきにタオルで手をふきながら近づいてきた。

「ん、準備もできたしちょうどいいな。よし、ダイニングに運ぶか!!っとその前に。」

バッツはスコールの目の前に、にぎったものよりやや小ぶりの握り飯を差しだした。

「手伝ってくれたからな!!みんなには内緒な!!」

そういうとスコールの手に握り飯を押し付けた。

「・・・内緒ということはここで食べた方がいいのか?」
「んーティーダやジタンあたりから文句がでるかもだからなぁ。」

育ちざかりの二人ならいいかねないと思いスコールは握り飯を一口食べた。

塩味がほんのりきいて、米がふっくらとしていてお世辞抜きに美味い。
自分だけに作られた小さなそれに心が満たされていく。

「・・・うまいな。」
「だろーっ!!あーでもよかったよ。やっぱりうまいって言ってもらえるとうれしいな!!」

バッツは屈託なく笑うと、くるりと背を向けてスープの入った鍋を運ぶ準備をしはじめた。
想い人の笑顔のまぶしさに少し鼓動がはやくなるのを感じながら握り飯を完食した。

ダイニングの方から話し声が聞こえてくる。
全員ではなさそうだが、何人か席について食事をまっているのだろう。

スコールは手早く手を洗うと、握り飯の大皿を手に持つ。

「俺はこっちを運ぼう。スープの方は任せた。」

声を掛けると、彼がくるりと振り向いた。

「おーよろしくっ。・・・って、スコールご飯粒ほっぺたについてるぞ。」

鍋をもって歩み寄りながらこちらに近づいてくる。

先ほどの握り飯のものだろう。
このままダイニングまで行けば朝食前に食べたことがばれてしまう。

握り飯の大皿をテーブルに置き、手でほほをぬぐうが米粒が取れない。

「どこだ?」
「そっちそっち。あーちがうって。」

バッツの方も両手がふさがっているので、首で位置を指示しているのだが、なかなかとれない。
洗面台に言った方がよさそうだとスコールが思っているといきなりバッツが至近距離まで近づいてきた。


「あーめんどくさいなぁ。」


しびれを切らしたのか、そういうとぺろりと舌をだして、スコールのほほについている米粒をなめとった。


スコールは一瞬何をされたのか判断するのに数秒かかった。

固まっている彼をよそに、のんきな想い人は米粒が取れたことに満足したらしく、スープの鍋を運ぶべくさっさとダイニングの方へ向かっていった。



至近距離の想い人の香りに顔と感触。
大きな瞳を閉じて自分の頬に唇と舌を・・・



「・・・・!!」

理解した瞬間一気に頬が熱くなるのを感じた。

彼には他意はないのだろうがあまりにも突然すぎて平静を保てそうにない。

「(・・・皿をもっていなくてよかった。)」

手に持っていたら落としていたかもしれないから。

そんな彼に余韻を浸る暇など当然なく、キッチンの突然のキスまがいの行為など知らない仲間たちの朝食の催促の声が飛んできた。
その声の中にはバッツの声も交じっている。

どうやらしばらくはまともに想い人の顔をみれそうにない。
スコールはため息をつきつつ、朝食の握り飯の大皿を手に持ちキッチンを後にした。



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58くさいですが、85です。
こういう行為はバッツは何とも思わなさそう・・・・。



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