おわりとはじまり -1-
いつからだろうか。
あいつの姿をつい目で追うようになったのは…。
「(なんか気になるんだよなぁ・・・。)」
バッツの視線の先には武器の手入れをしているスコールとジタンがいる。
バッツにとってあの2人はクリスタルを共に探してきた仲間だからか、他の仲間に比べて同じ時間を過ごすことが多い。
しかし、最近になってどうもあの2人・・・特にスコールをよく目で追ってしまう。
最初は年少組・・・ティーダ、ティナ、ジタン、オニオン達の中で一番落ち着いていると思っていたら一人で何かと行動したがったりするので自然と気にかけるようになった。
しかし、ここ最近は自分とジタンの3人で行動しているし、仲間達から孤立することも少なくなってきたのでその必要もなくなりつつあるのだが、以前以上に気になってしまって仕方がない。
「(最近は一人でいるところが少なくなってきたから特に気にかけなくていいと思うんだけどなぁ・・・。)」
そうぼんやり考えていると、突然スコールが立ち上がり、ジタンを殴るかのような構えを見せた。
バッツは一瞬びっくりしたが、相手のジタンがそれを防御するような構えのまま、げらげらと笑っていたのでただじゃれあっているだけとすぐにわかりほっとした。
「(そういやあの2人も仲良くなったよなぁ。)」
2人、主にジタンが何かをしゃべっており、スコールがそれを聞きながら武器の手入れをしている。
ここからではよく聞こえないが、ジタンの明るい表情をみるときっと楽しい話に違いない。
そのままスコールに視線を移したが相変わらずの仏頂面で見ていて笑いそうになった。
不意にジタンが少し離れた位置でぼんやりと2人を観察していたバッツに声をかけた。
「おおーい、バッツも来いよ!!スコールの奴おもしろいんだぜ!!」
そう言うと同時に隣のスコールがやや慌てた様子でジタンの腕を掴み、こちらには聞こえないように何かを話している。
その2人をみて、不意に疎外感を感じる。
「(あれ?・・・なんだろ?)」
いつもなら「何話してたんだよー?」といいながら向こうに行くはずが何故か足が動かない。
それに変に気分が落ち込むような、寂しいような気がする。
一向にこちらにやってこないバッツにジタンは首をかしげ、スコールもじっとバッツを見ている。
入るタイミングを失い、なんとなく気まずいような気がする。
スコールとジタンの楽しそうな雰囲気に少しもやもやとしたものを感じる。
「…あーごめん。おれ用事思い出した。あとで聞かせてくれ。」
そういうと両手を合わせて謝り2人が何か言いかけたにもかかわらず、身を翻して大広間を走り出ていった。
大広間から出た後、バッツはまっすぐに自分が寝室にしている個室に戻り、ベッドに腰掛けて頭を抱えた。
「(なんなんだよ、一体。おれ、すごく感じ悪いじゃないか。)」
本当は用事なんて何もない。
何故あのような行動を取ったのか自分でも分からない。
「何でだよ・・・。」
そうつぶやくとベッドに転がり、目を閉じた。
目をひらくと、窓から月明かりが差し込んでいる。
どうやらあのまま寝てしまったらしく、身を起こし、頭を掻く。
昼間2人に悪いことををしてしまった。
思い出して少し気分が落ち込むと、ぐぅ…と腹の音が鳴った。
「・・・あ、晩飯・・・。」
コスモスの仲間達は朝も早ければ夜もなるべく早く寝るようにしている。
この月の位置だと、みんな夕食を終えて、風呂に入っているか寝る支度を整えているか・・・なんにせよ食事は終えているはずだ。
「(あー・・・台所になにかあるかな・・・。)」
そこそこ腹が減っているので残り物かなにかを漁りにいこうとした時にドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
「・・・俺だが。」
ノックの主はスコールだった。
昼間のことがあるのでなんとなく気まずいが返事をした以上はドアを開けないわけもいかないので、バッツはドアを開いた。
部屋の前にはスコールが食事が乗ったトレイを持って立っており、バッツに向けてトレイを差し出してきた。
夕食を取れなかったバッツにに気を利かせたのがすぐにわかった。
「あー、ありがと。」
「…夕食の時に部屋を見たら眠っていたようだったから。」
スコールはそれだけ言うとバッツにトレイを渡した。
トレイにはシチューとパン、サラダとチキン、そして水とコーヒーが2つ乗っている。
「?飲み物多くないか?」
一人で食事を取るなら一杯の水と食後のコーヒー一杯で十分なのに、コーヒーが二つも乗っている。
バッツが首をかしげると、スコールが言いにくそうにつぶやく。
「…俺もここにいていいか?」
「え?」
思いがけない呟きにバッツは目を瞬いた。
「昼間様子がおかしかったから…。」
話くらいなら聞けるということなのだろう。
無口で冷たい印象を受けるが、中身はすごく優しい。その言葉をうれしく思う。
「…ありがとな。おれは大丈夫だよ。けど、せっかくコーヒー持参で来てくれたから、おしゃべりしようぜ。」
そう言い笑うバッツに一瞬スコールは戸惑ったかのような表情をしたが、すぐに頷き返し、部屋の中に入ってきた。
城を拠点としているものの、コスモスの戦士達は武器以外の私物をほとんど持っていない。
部屋の中には備え付けられた家具類や旅に必要な武器や荷物、衣類だけで他はほとんど何もなかった。
バッツの部屋も同様で、端のほうに荷物を寄せており、自分の手の届く範囲に武器を置いている。
ただ、ベッドのサイドテーブルに”幸運のお守り”である羽が置いており、殺風景な部屋が少し明るく見えるようだった。
備え付けの小さなテーブルの椅子のひとつにスコールが腰掛けると、バッツもトレイをテーブルにおいて席についた。
「めし、ありがとな!」
礼を言うとフォークを持ち、さっそく料理にありつく。
どれも暖め直されていて美味しかったのでどんどん腹に収めていく。
さっきまで気分が少し落ち込んでいたのに、スコールに食事を持ってきてもらい、腹を満たしていくことで浮上していく。
我ながら現金なものだと思いながら、バッツは食事をすべて平らげた。
食事が終わると2人でコーヒーを飲み、一息をつく。
部屋の中の照明はランプだけなので、淡いオレンジの光が部屋を照らしている。
食事に気を取られていて気づかなかったが、光に照らされたスコールの横顔が綺麗に見えた。
その顔は笑ってはいないが戦闘時のときとは違い、穏やかで綺麗だった。
「(顔立ちが整ってるとは思うけど、それ以上に目の色がきれいなんだよなぁ…。)」
深みのあるブルーの瞳は空か海どっちに近いかとスコールの顔を観察しながら考えていると、それに気づいたのかこちらに視線を向けられた。
「どうした?」
まっすぐ自分を見られた瞬間、急に息苦しさを感じた。
「(な、なんだろ、ちょっと息苦しい・・・?)」
スコールが自分をみている。
密かに綺麗だと思っていた青い瞳が自分に向けられている。
ただそれだけなのに、顔が熱くなる。すると、スコールが身を乗り出してきた。
「熱でもあるのか?」
そういうとバッツの額に手を当てようとしてきた。
心臓が騒ぎ出す。
今までにないくらい、鼓動が騒がしく感じる。
スコールの顔が、手が近づいてくる。
そう思った瞬間、バッツはあわてて席を立ち、それに逃れた。
「バッツ?」
やや戸惑った表情をされ、我に返って慌てて謝った。
「わ、悪い!!おれ、ちょっと体の調子悪いみたいだ!!」
病人とは思えない大きな声でそう言うと、素早くトレイの上に食器類を片付け、スコールに突き出した。
「悪いんだけどこれ、キッチンに返しておいてくれないか?おしゃべりに誘っておいてなんだけど、やっぱりさっさと休むよ!」
スコールが言い返さないうちに彼の背をぐいぐいと押しやって部屋から追い出すかのように退出させると、床にへたり込み、頭を抑えた。
「なんなんだよ〜…一体。」
急に騒がしくなった鼓動と息苦しさ。
原因のわからない苦しみに泣きそうになった。
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