拍手お礼ログ

■拍手お礼 ミニ小説



メインに掲載している同棲話の二人です。
(メインを読まなくても大丈夫かと思います)


強い日差しがアスファルトを照りつけている。じわじわと蝉が鳴き、むせ返るような猛暑は歩くだけでも体力を消耗する。
コンビニから買い物袋を下げてでてきたバッツは外と冷房のきいた建物との気温差に一瞬顔をしかめた。

「あっついなぁ〜・・・」

袋を持っていない方の掌で強い日差しから瞳を守り呟く。少し離れたビルの温度計のパネルは三十度を越える数値が表示されており見ているだけで暑さを感じさせる。
家へと帰る道のりの途中あまりの暑さに耐えられなくなったのでコンビニに寄り、買い物をしながら涼んで体力の回復を計ったのだがさっさと歩き出さないと意味がなさそうだ。
買い物袋と肩に下げていた鞄を持ち直し、家へと歩きだそうとしたその時。

「・・・スコール?」

数メートル先に見慣れた同居人の背中が目に入った。
どうやら帰る途中らしく、自分と同じ目的地へと歩みを進めている。思いがけない偶然にバッツは笑みを浮かべると早足で近づき、背中を強く叩いた。

「よぉ、おにーさん。今帰りか?」
「バッツ!?」

驚いたのか少々うわずった声のスコールにバッツは笑うとそのまま並んで歩きだした。

「いつの間に・・・」
「そこのコンビニ出たときにスコールの背中が見えたからさ追いかけたんだよ。帰る場所は同じだけど道の途中で会うなんてそんなにないよなぁ〜珍しいこった」

のんびりと答えるバッツにスコールは心臓に悪いから今度はもっと控えめにしてくれと文句を垂れる。
しかめっ面の彼にバッツはまぁまぁと宥めるとコンビニ袋に手を突っ込み何かを取り出した。

「驚いたのなら悪かったよ。これやるから許してくれよ」
「・・・なんだそれは」
「このアイス、一袋に二本入ってるんだよ。暑いから帰りながら食べようとおもってさ。一本やるよ」

バッツの手には棒付きのアイスクリームの袋。先程まで冷凍庫で冷やされてたそれは包装されている袋に小さな霜がついている。
バッツはスコールの返答をきかずに袋を開くと二本の棒がついているアイスを器用に半分に割り、差し出してきた。
断る理由もなければ暑さでのどの渇きを感じていたスコールはおとなしくそれを受け取り口に含むと口内にアイスの冷たさと爽やかな味が広がった。

「・・・冷たい」
「だろ?サイダー味でさっぱりするからさ子供の頃結構好きでさ〜久しぶりに買ったんだ」

暑い中で食べる冷たい物は格別である。
舐って少し柔らかくなったアイスをかじってみるとサクサクとした氷の触感が心地が良く、喉を通ると体が冷えていくように思えた。
どうやらお気に召したらしいスコールの様子にバッツは満足げに笑うと自分もと手に持っていた半分を口に含んだ。
サイダー味が口いっぱいに広がり、飲み込むと喉が潤いながら冷えていく。肌を焼くような暑さだからこそアイスの冷たさが体を内から冷やしてくれるような気がして暑さが少しだけマシになったような気がした。
アイスを舐りながらバッツは横目でスコールの様子を伺うと黙々とアイスを口にしている。自分と同じことを感じているのだろうか?先程よりも涼しげな様子の彼に笑みがこぼれた。

「・・・なんかいいよな」

思っていたことが口から自然と漏れると聞こえたらしいスコールがアイスから口を離すと首を傾げた。

「何がだ?」

大人びた雰囲気をしているスコールが首を傾げ、アイスを手に持っている姿は普段の姿よりも幼く見える。
他者に対して緊張を解くことが少ない彼がこのような仕草を見せることは少ない。
夏の暑さと半分に割られたアイス・・・自分とのこのひとときが彼をそうさせているのだろうか。
バッツはスコールから手に持っているアイスへと視線を移す。

「今日たまたまコンビニに寄ってアイスを買って、たまたまスコールとばったりあったから半分こにして帰り道に食べてることがさ。偶然が重なってこういうひとときが過ごせるのがいいなぁって思っただけだよ」

そう言うとバッツは自分の半分のアイスをかじり、冷たくてうまいと笑った。
バッツが何故このひとときがいいと思っているのかはスコールには今一つわからなかったが、明るく笑う彼の顔からバッツにとって楽しく、そして幸せなひとときなのだろう。自分にとっては何気なくてもバッツが、想い合う相手が明るく笑ってくれるのなら自分への幸せへと繋がっていく。

「今度・・・」
「うん?」
「帰りが一緒になったら俺が奢る。アイスでも何でも・・・半分にできるものを」

呟くように言うとスコールは自分の分のアイスへと再び視線を移し食べ始める。心なしか視線を合わせまいとしているように見える彼に照れているのだとバッツは悟ると目を細めて「ありがとうな」と礼を言った。

冷たいアイスで少しだけ涼しくなっていた体の内がじんわりとあたたかくなっていく。これは夏の暑さが原因ではない。
涼しさを得るために買ったのだけどな・・・とバッツは心の中で呟くが嫌なわけではない。
不器用な想い人の不器用な優しさが嬉しいのだ。
重なった偶然にバッツは感謝すると残り少ないアイスにかじりついた。


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暑い夏はアイスが美味しいです。






■ 拍手お礼 ミニ小説

以前連載しておりました神様シリーズの番外編です。


週末、いつものように少し遅めに起きたスコールが自室から居間へとやってくるともう既に同居人は目を覚ましているのか部屋の電気が点灯していた。
これは毎度のことなので特に気にならないのだが、その居間の様子が昨日とは違っているのだ。
空間の一部。丁度畳十畳分のスペースだけが何故か外の、葉の色が秋色に色づいている林になっており、地には落ち葉が大量に落ちている。まるでドラマのセットの様である光景であるが人間ではない同居人が不思議な力を使って何かやらかしたのだと察したスコールはため息を吐き、同居人の名を呼んだ。

「バッツ!どこにいる!」

名を呼んで数秒後、切り取られた空間から同居人バッツがひょっこり姿を現し、にこやかな笑顔で朝の挨拶をしてきた。動きやすそうな素材のパーカーと長ズボンに着替え、歩きやすそうなシューズまで履いて。

「おはよう。スコール。今日は早いんだな」
「おはようではない。なんだ、これは…」

バッツがちょうど立っている空間を指差し問うスコールにバッツは首を傾げる。

「何って…このスペースを秋の山にしたんだよ」
「それはわかっている。俺が聞きたいのは何故こんなことをしたのかということだ」

下界にやってきてすぐの頃のバッツはスコールが思いもしない突拍子もないことを散々やらかした。しかし、それなりの月日が経過した今はスコールからの指導に加えて神とばれないように人として日々を送ることでそれなりに常識を学んだからかありえないと思うようなことはここ最近していない。
バッツが何を思ってこんなことをしたのかが気になる。スコールが眉間に皺を寄せるとバッツは困ったような笑みを浮かべてスコールにある物を見せてきた。

「秋の味覚狩りだよ。秋は食べ物が美味しいってエアリスから聞いたんだ。昨日スーパーに行った時に調達しようかと思ったんだけど季節の味覚だからかちょっといい値段でさぁ……品ぞろえもそんなにだったからなんとかお手軽に調達できないかなって思ったんだよ」

バッツが見せてきたのはキノコ類に栗や山芋、山葡萄にアケビなどが乗っているカゴであった。
オーソドックスな秋の味覚が満載であり普段食べ物にそれほど興味がないスコールでさえも美味そうだと思う。しかし、気になるのが調達場所。さすがにこのご時世、個人の山や農園などに許可もなければ金も払わずに狩りまくっているとしたら盗人になってしまう。神なのに盗人になってしまっても大丈夫なのだろうかと背筋に冷たいものが走った。

「山の味覚を獲るためなのはわかった。だが……山の持ち主にばれたらどうするんだ……」
「あ、それは心配なく。秋の山ではあるけど空間を繋げたんじゃなくて環境の一部をここに複写しただけだから実際の山からとったわけじゃないよ。最近の下界は厳しいらしいなぁ〜大変だ」

実際の山には何の被害はないと言うバッツにスコールは一応胸を撫で下ろした。
しかし、何故そんな回りくどいことをいきなりしたのかがまた気になる。いつものようにスーパーや商店街でも調達できないことはないのに何故家の中の一部を山中にしてまで食材調達をしているのか。
十畳程の山中を模した空間を何やら呪文を呟いて元に戻したバッツにスコールは追加で質問を投げる。

「バッツ」
「ん?なんだ?」
「その、そんなことをせずともちょっとくらいの値段などたまになら気にせず買えばいいだろう?カゴに乗ってるもの全部は無理かもしれないがある程は近場でも調達できるだろう?」
「まぁお前の言う通りなんだけどさ。けど、直接獲った方が新鮮美味しいものを自分で好きに選べるだろ?自分で選んだものをお前と食べたかったんだよ」

苦笑を浮かべカゴの中の大量の秋の味覚に目を細める。朝からどれが美味いか、スコールが喜ぶかなど考え、探しながら採ったものだ。あれもいい、これもいいと次々とカゴに入れたらいつの間にかこんなに採っていたんだなと益々笑みがこぼれる。

「これもエアリスから聞いたんだけどさ、季節に合ったものは美味いし健康にいいんだと。ほら、これから寒くなるだろ?お前が体調を崩さないためにもしっかりばっちり栄養補給してほしいんだよ。だからいいものをちょっくら狩ろうかな〜って思ったわけだ。んで、この成果がこれだ。……あ、ちゃんとスコール以外の人間にばれないように結界も張ったから大丈夫だからな!」

最後の方を慌てて付け加えるのはスコールと共に暮らすようになってから彼に下界ではありえない、非常識なことを散々注意されたからである。スコールの為にと思ってやったことでも彼が駄目だと思うことをしてしまっては意味がない。
じっと自分が獲ってきた味覚を無言で眺めるスコールにやっぱり駄目だったのだろうかとバッツは肩を落としたその時、思いもよらないことをスコールが言ってきた。

「……もう、狩りは終わったのか?」
「へ?いや〜これから芋畑を複写して芋ほりでもしようかな〜って思ってはいたけど……」
「手伝う」
「え?」

まさか自分の思いつきに乗るとは思わず目を丸くするとスコールは瞳を逸らしながらぼそぼそと呟く。

「食べるのは俺だけじゃない。それに、あんたの胃袋だと全然足りないだろう。だから、俺もする……」

健康でいてもらいたいのは俺も同じだから。とバッツに聞こえたか聞こえないかわからない程小さな声でそう言うとスコールは「靴を持ってくる」とそそくさと部屋を出てしまった。
普段のスコールはこういったことにあまり興味を示さないだろうとバッツは思っていたのだがまさか自分と一緒にしてくれるとは思わずバッツは見る見るうちに顔を綻ばせた。

「よーし!じゃあ次は芋ほりだ!あ、あと梨狩りもしたいからよろしくなー!!」

靴を持ってくるために玄関にいるであろうスコールにバッツは大声で宣言するとカゴを置くことも忘れ、高らかな声で呪文を唱え始めたのだった。


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神様バッツ様番外編。スコールさんが怒らなかった…なかなか素直ですね(笑)
ちょっと神様でドタバタを書きたいと思ったのですが、合間に考えた今回の秋の味覚が季節柄よいかな〜と思いアップしました。近いうちにまた神様でもう一本拍手更新したいと思っています…はい。





■拍手お礼ミニ小説
以前連載しておりました神様シリーズの番外編です。

日の光がオレンジ色を帯び始める夕刻。
仕事をしていたバッツはその手を止め、大きく伸びをし、肩を回した。
ここ最近下界に住む神々からの問い合わせが多い。神である自分の長であるコスモスとカオスに下界で任についている神々のサポート役を命じられてから数か月が経過している。仕事が忙しく感じるのはそれだけ他の神々から頼りにされるようになってきたということなのだろう。ただ、問い合わせをしてくるのは日が明るい時だけなので忙しいのは昼間だけなのだが。

「(今日も一日お疲れさんっと…それにしても腹へったなぁ…)」

昼食をしっかりとったのだが忙しくしているとその分エネルギーを消耗する。胃袋が食物を入れろと催促しているかのように盛大な腹の音を鳴らしてきたのでバッツは眉を八の字に曲げた。
夕飯はいつもスコールと摂るようにしているので彼が帰る頃に出来上がるようにしている。時計を見るとスコールが帰ってくるまでにはまだ時間がある。彼は部活などはしていないらしいが図書館などを利用して毎日自習をしているらしい。スコールとの夕飯までの間、何か間食をして腹を落ち着けてからのんびり片付けと夕飯の準備でもするかと決めたその時、呼び鈴が鳴った。

「(呼び鈴…誰だろ…)」

滅多に鳴ることのない呼び鈴にバッツは首をかしげつつ玄関に向かった。一瞬スコールが珍しく早く帰ってきたのかと思ったが彼が呼び鈴など鳴らすことなんてない。呼び鈴の相手は宅急便かそれとも回覧板などの用事がある近所の人だろうかと予想しながら玄関の扉を開くとそこにはスコールと見たことがない少年が一人いた。服装が同じなのでスコールが通っている学校の同級生であることはすぐに察することができたが、少年の正体よりも気になるのがスコールが支えられるように立っていることである。

「す、スコールどうしたんだ!?」

頓狂な声を上げるバッツに少年は困ったような表情を浮かべ、事情説明と共に駆け寄ってきたバッツにスコールを引き渡した。

「えーっと、はじめまして。俺、スコール君と同じクラスの者で。スコール君が足と手を捻挫したみたいなので一緒に帰りました」

少年に言われよくよく見てみればスコールの手首に手当てがされている。なるほど怪我をしたために補助をしてもらって帰ってきたのか。図書館に寄らずまっすぐ帰ってきたのもそのためかとバッツは納得する。
補助が少年からバッツに移るとスコールは一緒にいた少年に頭を下げた。

「逆方向なのにすまなかった。ヴァン」
「気にするなよ。じゃ、俺は行くから」

ヴァンと呼ばれた少年はにっと歯を見せて笑うとバッツに丁寧に頭を下げ、踵を返して行ってしまった。
彼の後ろ姿を見送ると怪我人が立ったままでいるのも辛いだろうとバッツは先程感じた空腹などすっかり忘れすぐさま家の中へとスコールを運んだ。
よほど痛いのか時折顔を顰めるスコールにバッツは居間のソファに座らせると何があったのかを問う。
スコール曰く、先ほどスコールを送ったヴァンともう一人の同級生ティーダと三人移動授業で目的の教室に移動していた時、ティーダが階段で足を踏み外したのに巻き込まれてしまったとのことであった。ティーダ本人はかすり傷程度で済んだのだが、後ろを歩いていたスコールは踏み外した彼の下敷きになってしまい、足と手首を捻ってしまったらしい。
自分のせいだとティーダは謝り倒し、最初は彼をスコールを送っていくと言って聞かなかったらしいのだが部活の大会が近い上にエース選手であるティーダの立場を知ってるヴァンが代わりに送ることになったとのことだった。

「みんな大変だったんだなぁ」

スコールもだが足を踏み外したティーダも彼を宥めつつ遠回りをしてスコールを送ってきたヴァンも。
話をし終わったスコールは疲れたのかソファに深くもたれかかるとため息を吐いた。

「こうなってしまっては仕方がない。暫く不便になるが幸い明日から連休だ。大人しく家で過ごせばいいだけだ」
「そっか」

今のスコールの状態だと登下校も学内の移動も容易ではなさそうである。連休中外出できないのは些か不便ではあるかもしれないが買い物など外の用事は普段バッツが中心でしているので問題はない。無理をせず家の中で大人しく過ごさせてもらい治すことに専念しようとスコールは決めるとふとバッツと目があった。

「なぁなぁ。おれに何かできることないか?」

その一言にスコールはピクリと眉を跳ねあげさせた。バッツと共に暮らしはじめ、彼は悪い人間もとい、神ではない。寧ろいい奴であると思っている。しかし、彼からの気遣いに何度か散々な目にあってきたので今回の申し出に素直に甘える気にはなれなかった。

「……別にいい」
「なんだよ。なんで目を逸らすんだよ」

目を逸らし、断るスコールの態度にバッツも何かを感じ取ったのかじっとりとした目でスコールの姿を見つめる。
張り切られると余計に何かをしでかさないかという不安が生まれ、スコールは何とかバッツに引き下がってくれるように努めてなんともない風を装い話を続けた。

「いや、あんたは良くしてくれているから今のままでいい。買い物に掃除に食事作り。それだけで十分なんだ。あとは俺が大人しくしていればいいだけなのだから」
「ほんとかよ〜……張り合いねぇなぁ」

口を尖らせるバッツだったがスコールの言い分に納得してくれたのかこれ以上は何も言ってこなかった。その様子にどうやら危機は回避できたようだとスコールはバッツに悟られないようにほーっと胸を撫で下ろしたのだった。


いつもより少し早めの夕飯が終わり、一番風呂を先にどうぞと勧められたスコールはお言葉に甘えてそうさせてもらうことにした。
風呂は一人で落ち着ける貴重な時間。バッツが嫌なわけではないのだが一日のうち一人でいられる時間はスコールにとっては必要なものであった。賑やかな学友や同居人から離れる数少ない場所と時間にさっさと服を脱いで入ってしまおうと服に手を掛ける。
夕飯は大食漢のバッツが空腹であったことと、怪我をしたスコールに栄養をつけさせたかったからか食卓に乗りきらない程のオカズが出てきた。大半はバッツが食べるのだがそれでも食え食えと勧められ腹が重たい。そういえばバッツが来てから少し太った気がする。育ち盛りと呼ばれる年齢とはいえ食べ過ぎは怖い。しかもこんな状態では運動もできないのでせめて長湯をしようと決めたのだがいかんせん、足と一緒に利き手を怪我したせいで中々思うように服を脱ぐことができない。

「(……脱ぎにくい)」

内心舌打ちをしながらもぞもぞと身体を動かしてようやく制服のワイシャツと中に着ていたTシャツを脱ぐことができた。
後は下だけだとスコールが再び奮闘しようとしたその時であった。ガチャリとドアが開くとともにタオルとパジャマを手にしたバッツが入ってきたのだ。

「なっ!?」
「よくよく考えたら風呂の時不便じゃないかと思って。同性同士だしたまには一緒に入ってもいいよな」

目を剥くスコールをよそにバッツは我ながらいい思いつきだとばかりに笑顔でのたまい服を脱ぎ始めた。その言葉と様子にスコールは目眩と頭痛がした。

「前にも言っただろう!?家庭の風呂で一緒に入るのは子供の時くらいだ!」

思い出すのはバッツがここに来た初日。裸の付き合いを知った彼は家庭用風呂ではそのようなことをしないことなど気にもせず無理矢理スコールの入浴に乱入してきた。あの後、その行為が常識から外れていることをなんとか理解してもらったのだが、今回の彼は怪我をしているスコールの補助目的でやってきている。良かれと思ってやっている上に理由が理由なので断りきるにはやや武が悪かった。

「それだと服の脱ぎ着も頭や体洗うのも大変だろ?まぁまぁ遠慮するなよ」
「遠慮をしているわけではない!っ!うわっ!」
「お、おいおい」

スコールは断固拒否するとばかりに勢いよく怒鳴り散らした為、体がよろける。怪我の足では踏ん張りが足りなかったらしい。
倒れそうになるスコールをバッツはあわてて支えたのだが、なんと間の悪いことに二人の身体が密着したと同時に女神ライトニングが脱衣所の扉を開けて二人の前に姿を現した。

「バッツ。ここにいたのか。コスモスとカオスから新しいしご…」

用件を言い始めたライトニングだったが目の前にいる半裸で抱き合っているように見える二人の姿を瞳に映すと表情こそは変わらなかったが言葉を詰まらせた。
二人を上から下へ。下から上へと眺めると彼女は瞬きを一つしてくるりと背を向ける。

「……すまない、邪魔をしたみたいだな」
「っ!まてっっ!違う、違うんだーっっ!!」

ライトニングのその一言に彼女は自分達の姿を見て何か誤解をしているのだと瞬時に悟ったスコールは怪我をしているというのに俊敏な動きで彼女の肩を掴んで引き止めたのだった。


スコールの予想通り、ライトニングは同性同士とはいえ半裸同士で抱き合っているスコールとバッツの姿から二人がただならぬ関係であると解釈したらしい。もっともスコールの鬼気迫る説明にライトニングが抱いた誤解はすぐに解くことができたのだが。何故このようになったのかを話しているうちにスコールが怪我をしていることを知ったライトニングは脱衣所では何なので居間へと移動をしスコールの手足を診ると呆れた表情をバッツへと向けた。

「なんだ。簡単なことじゃないか。バッツ、力で回復を促してやればいいだけだ。これから連休とやらが入るのならいきなり怪我が治ったことで学友に驚かれることもないだろう」
「……は?」
「あ、そうか!確かに!」

納得するバッツであったが一人訳がわからないスコールにライトニングは分かりやすいように説明をしてくれた。
神々にとって力で生物の治癒力を爆発的に高めてやることで怪我の回復を促すことはそう難しいことではないらしい。ただ、それをしてしまうと人の常識範囲外の速度で怪我や病気から回復をしてしまうので不審に思われるのを避けるために行なうのは極まれではあるらしいのだが。
彼女に言われるまで思いつきもしなかったらしいバッツは申し訳なさそうに頭を掻きながらスコールに頭を下げた。

「ごめんな。おれがもっとよく考えていたら色々面倒なことにならなかったな」

色々面倒なこととはスコールが不便をしたことと先程の風呂とライトニングの誤解の一件も含まれているのだろう。
確かに面倒ではあったがバッツはバッツなりにスコールの助けになろうとしていたのはスコールもわかっている。少々強引ではあったが。

「別にもういい。それより怪我が治るのならそれに越したことはない。ライトニング。すまないが治療を頼む。バッツはその間先に風呂に入ってくれ。俺は治った後なら一人で入ることができるからな」
「お、おお……なるほどな。わかった」

スコールの怪我が治れば補助もいらないということだと理解したバッツはスコールの言葉にやや間を開けたものの素直に従い、風呂場へと向かって行った。後姿を見送るとライトニングに「頼む」といい彼女に怪我をした手と足を差し出したが彼女は何もせずスコールをただ見つめるだけであった。力での治療を提案をした彼女が何故何もしてくれないのかとスコールは眉を顰めると彼女は小さく首を振りかえした。

「この怪我は、風呂から上がったバッツに治してもらえ。その方がいいだろう」
「は?何故だ。あんたも治すことはできるのだろう?」
「それは可能だ。だが、あいつは手段はどうであれスコール、お前のことを思って行動をしたことをわかってやれ。人としての常識から外れることをしてしまったかもしれないがな」
「……」

ライトニングの言う通り、バッツのしたことに困りはしたものの自分を思って故の行動である。もし、力を使っての治療を思いついていたのならすぐにでも行なってくれたであろう。
力になろうとしていたバッツではなく自分が頼ったのはバッツではなくライトニング。蔑ろにした訳ではないが自分がもしバッツの立場であったのなら……多かれ少なかれ傷つくかもしれない。自分が考えなしであったことにスコールは気付くとライトニングに小さく頭を下げた。

「すまない。頼んでおいてなんだが……」
「わかっている。そうしてやれ」

ライトニングはそう言うと仕事のことを伝えに来たがまた後で来るといい姿を消した。彼女なりに気を遣ったのだろう。スコールはため息を吐くと長い前髪を掻き上げる。
思えば、バッツがここに来てから今まで彼に自分の常識を色々と押し付けすぎていた。彼はそれに対して嫌な顔をせずスコールの話をよく聞き、概ね従ってきた。多少強引なところはあったものの大量の夕食も風呂の一件も最初の頃に比べて人の常識をある程度は理解している彼がそうしてきたのは彼なりに考えたからなのだろう。

「(俺は、自分の事しか考えていなかったんだな……)」

スコールは自分に対して反省をした後、小さく息を吐くとひょこひょこと足を動かして部屋を出た。



「(やっぱりおれ、だめだめだなぁ)」

風呂に浸かりながらバッツは今日スコールに対して行ったことを反芻する。
力で回復することを思いつかなかったことに加え、怪我とはいえ人の常識にはずれた行動を嫌うスコールに対して少々強引だったかもしれない。
治療をライトニングに頼んだのもそんな自分に呆れたからなのだろうかと考えると心が沈む。自分よりも優秀な神である彼女がスコールの治療をしてくれるならそれはそれで助かるのだが頭でそう思っていても気持ちが納得していない。何だか心がもやもやとした雲で包まれていっているような、そんな気持ちになる

「(人の世界で仕事がしたいと思っておきながら、近くにいる人に何もできないなんてざまぁないよなぁ)」

顔を半分湯船に浸からせてぶくぶくと泡を作り反省していると唐突に風呂の戸を叩く音がしたので慌てて顔を出した。
写っている影からスコールであることはわかったのだが、自分が入ってそんなに時間は経過していない。と、思う。もしや自分が思っているよりも時間が経過していて治療を終えたスコールがまだ上がらない自分に痺れを切らしたのだろうか。

「すまない。まだ途中だよな?」
「お、おお。すぐに出るからもう少し待っていてくれ」

そう言い、さっさと出ようと湯船から上がろうとしたがスコールはバッツが思いもしなかったことを言いだした。

「いや、もう少し待ってほしい」
「へ?」
「……ライトニングは今忙しいみたいだったから、治療はアンタに頼みたい。それで…丁度あんたは風呂に入っているから……その、ついでだから背中を流して欲しいのだが……」
「へ?あ、ああ。それはいいけどさ……」
「……ありがとう」

小さな礼の後にもぞもぞとスコールの影が動く。多分風呂の準備をしているのだろう。
スコールが言っていることを分かってはいたが、治療は兎も角、風呂を共にするなんて信じられなかった。
ここに来た頃、人の常識を知らずに強引に乱入した時も、そして先程も嫌がっていたのに一体どういう心境の変化があったのか。

「(何があったんだろ、スコール。けど、まぁ……)」

彼に力になりたいと思っていたので頼りにしてくれたのなら、嬉しい。
先程まで曇り模様であった心がいつの間にか晴れ晴れとしている。我ながら現金なものだと自身に呆れたが口角が自然と上に上がり始め気持ちを隠せない表情が今自分が一番何を思っているのかが明白であった。
折角力になりたいと思っていた相手からのせっかくの申し出。次こそはきちんと応えなければ。バッツは緩む表情を両手で引き延ばして直すとまだ手足が不自由なままのスコールを今度こそきちんと手助けできるように腰にタオルを巻きなおすと湯船から上がったのだった。


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このシリーズのスコールさんにしては素直ですね。ちょっとはバッツさんになれてきたのでしょうか?(前回と言い、書いている管理人もびっくりしております)





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