拍手お礼ログ7

■ 拍手お礼 連載ミニ小説
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12月24日 クリスマスイブ。
世界中の多くの老若男女が家族、恋人、友人と共に祝い同じ時を過ごすと思われるこの日、神の一人であるライトニングは大きな袋を肩に下げて星空を光の速さで移動していた。
ライトニングにとってこの日は地上の人間が浮かれ、騒ぐ日のひとつでしか思っていない。人間ではない彼女にとっては一年365日のうちの一日でしかないためこの日も普段と変わらず仕事に明け暮れていた。
この日のライトニングの仕事は彼女の上司であるコスモスが用意した贈り物を地上で勤務している神々に届けるといった内容だった。今朝方、コスモスを訪ねると彼女の横に大きな、大人が2人も3人も余裕で入れそうな大袋が隣に鎮座しており、不審に思ったライトニングが尋ねると笑顔と共に「これを地上に住まう神々全員へ届けてください」と歌を歌っているかのような綺麗なソプラノで命じられたのだ。彼女曰く、1年365日怠けることなく、熱心に、そして真面目に働いている神々に日頃の労を労って、ささやかではあるが贈り物を用意したので届けてもらいたいとのことだった。

「天界で働いている者は光の戦士と竜騎士カインに頼みました。申し訳ないのですが、地上の神々は貴方に届けてもらいたいのです」

眉を少しさげ、申し訳なさそうに小さな笑みを浮かべるコスモスにライトニングは無言で贈り物が詰まった大袋を肩に下げ、地上で働いている神々のリストをコスモスから受け取った。これも仕事であるのでライトニングの返事は最初から決まっていた。


彼女は早速、地上で仕事をしている神々にコスモスからの贈り物を届けに降り立った。
贈り物は手紙と小さな箱。
コスモスからの手紙は神一人一人に宛てたメッセージで彼らはそれを読んで喜んでいた。
そしてもう一つ彼らに渡した小さな箱。大きさは手のひらに乗る程の小さな箱だったのだが、受け取った本人が開くと箱よりも大きな中身、本などの小さな物から大きな物ではマッサージチェアが出てきた。
どうやら彼らが箱に願いを込めると願った物が一つ、出てくるようになっていたらしい。
彼らは笑顔と共にこの場にいないコスモスと、届けに来てくれたライトニングに何度も礼を言った。中にはライトニングに休憩をしてはどうかと勧めてきたものもいたのだが、今日中にこの仕事を終わらせたかったライトニングは丁重に断り、「次があるから」と次に向かって移動をした。

「(・・・コスモスもなかなか手の込んだことをするな)」

箱とメッセージを届けながら改めて上司の凄さを感じ、ライトニングは大きな袋を抱え、手渡されたリストに載っている地上に住まう神々の家々へ次々と訪問していった。
夜空が星の明かりを灯し始めた頃、ようやく最後の一人を残したところまで終えると、ライトニングはふぅと息を吐き、最後の一人の名前と住所を確認しようとしてリストを見たが、名前を確認したところですぐにリストをしまい、再び移動を再開した。

リストの最後に書かれていたのは、ライトニングもよく知る人物、バッツ・クラウザーだったからだった。



最後の一人であるバッツ・クラウザーの家に降り立つと、彼は同居人の少年スコールと共にリビングで何やら冊子のようなものを広げていた。
最後の一人もつつがなくコスモスからの贈り物を渡せそうだとライトニングは安堵したが、肝心のバッツはどうも普段と少し様子が違う。

少し困ったような顔をして、スコールと共に「これでもない」、「あれでもない」と話をしている。
一体何があったのだと不審に思ったライトニングがあと一つしか入っていない贈り物が入った大袋を下げて彼らが見ている冊子を覗き込んだ。
冊子には、大きな四角い、何かを収納するための箱のようなものの写真が印刷されていた。

「どうだ?」
「・・・この会社の製品がいいと思うが、予算オーバーだ。もう少し値段が低い方がいい。そうするとこちらの製品になるが」

彼らの会話から冊子に印刷されている"箱"を購入するのだということを理解することができた。
ただ、地上勤務を経験していないライトニングにとってこの"箱"が何に使うためのものか理解することができない。写真をよく見ると食品のようなものを中に収納しているようだがそれ以上の情報は得られないようだし、なによりもコスモスから命じられた仕事がある。何やら作戦会議をしている彼らには申し訳ないがライトニングは彼らの間に割って入った。

「・・・邪魔をする」
「お、ライトニング」
「・・・こんばんは」

ライトニングに気づいた二人が視線を冊子から彼女へと向けた。バッツは朗らかに、スコールは少々ぎこちなく挨拶をしてくる。バッツは兎も角、スコールはどうもまだライトニングに慣れていないらしい。元々人見知りの気があるとすでに承知しているのでライトニングの方は特に気にもせず、最期の一人であるバッツに手紙と贈り物の箱を彼に突き出した。

「コスモスからだ。受け取れ。お前で最後だ」
「なんだ?メッセージと・・・この箱はなんだ?」
「コスモスからの手紙と贈り物だ。この箱に何か欲しい物を一つ、思い描きながら開くと欲しい物が出てくるように仕掛けられているそうだ。願う物は地上の物でも、天界のものでもどちらでもいいそうだ」

ライトニングに説明され、バッツは手紙と贈り物を受け取ると見る見るうちに笑顔になった。

「すげーな!サンキュー!メッセージも贈り物も嬉しいぞ!」
「礼はコスモスに言ってくれ。私は届けただけだ。ところで・・・2人して何をしていた」

仕事が終わったので、ライトニングは先程湧いた疑問であるテーブルの上に開かれている冊子に視線を移すとバッツは「ああ」と笑顔で冊子の"箱"と先程何を話していたかを彼女に説明し始めた。

「スコールが冷蔵庫をもう一台買ってくれるんだ!あ、冷蔵庫って食品を保存する棚のようなものだ!おれ、人間に比べて結構食べるみたいだからさ。沢山食品を保存できるようにだって!けど、欲しい冷蔵庫が高くてなー。スコールが用意していた予算をちょーっとオーバーしちまうみたいで・・・」
「なるほど・・・」

だから予算がどうのと話していたのかとライトニングは納得した。
地上の人間は神々のように"力"が使えない変わりに道具などを使用し自分達の生活を支え、より良いものにしているがその対価として"金"が必要だと聞いたことがあるなとライトニングはぼんやりと思い出した。
自分自身は地上で働くことなどまったく考えたことがないためよくは知らないが"金"を得るのは特に若者など働く手段が限られている者は大変なのだと地上に住まう神々に教えてもらったことがある。"金"を手に入れる大変さと先ほどの二人の様子から"冷蔵庫"とやらは高価で簡単に手に入れられない物なのだろうと察した。
他人にあまり関心がないライトニングではあるがバッツもスコールもコスモスの言伝で月に数回は顔を合わせ、時々茶をする仲ではあるので多少不憫に思わないことはない。
バッツがスコールにコスモスから贈られた箱を見せながら「じゃあこれで冷蔵庫をお願いするか?」と聞いているのを見て、ライトニングは「待て」と片手を挙げてそれを制止した。

「・・・箱に願わずとも何とかできるかもしれないぞ」
「へ?どういうことだ?」
「お前・・・規約を見ていないのか?地上に住まう神々の必要最低限の衣食住は上が保証することになっている。つまりバッツの生活に必要なものであれば、その冷蔵庫とやらも上が何とかしてくれるかもしれないということだ」
「本当か?」
「ああ。だから箱は他の願いにとっておけ。私からコスモスに伝えてよう。早速だが冷蔵庫とやらを見せてくれ。どのような物か聞かれるかもしれないからな」
「ああ!じゃあ台所へ来てくれよ」

コスモスからの贈り物でなくても冷蔵庫が手に入ると知るやいなやバッツは満面の笑みでライトニングを台所へと連れて行ってしまった。二人の後ろ姿を眺めながら一人取り残されたスコールの頭には少々不安が過ぎる。

「(タダで冷蔵庫を用意してくれるのはいいが・・・)」

神々の力なら冷蔵庫くらい簡単に用意してくれるだろうが・・・相手は"神"である。
バッツが初めてこの家にやって来た時、人間の生活についての知識はほとんどなく、スコールにとって受難の日々が続いたのだ。地上で生活をし始めて数ヶ月経った今では彼に困らせられることはほとんどないが、学校に遅れそうになれば得体のしれない大きな黄色い鳥で送られたこともある。地上在住数ヶ月のバッツでさえこのような有様であるのに、天界に住むライトニングは地上の一般常識に詳しいかどうかは少々疑問である。
ただ、彼女はバッツよりも位が高い神で沈着冷静であるので無茶は・・・恐らくしないだろう。冷蔵庫の説明を受けて、地上にある製品をそのまま支給してくれると思う・・・多分。

「(・・・ライトニングの性格を考えると大丈夫だとは思うが・・・)」

台所から冷蔵庫について質問をするライトニングの綺麗なアルトの声と騒がしいバッツの声が聞こえてくる。
一抹の不安を覚えながらもスコールはライトニングを信用することし、開いていたカタログを片づけることにした。

しかし、スコールのライトニングへの信用は次の日、もろく崩れ去ることになる。
翌朝、スコールが目を覚まして2階の自室から下へ降りるとバッツと朝早くにもかかわらずライトニングが天界からやって来ていた。スコールが何故こんな朝早くにと問う前に彼女から昨日の件でやってきたと答えられた。もう冷蔵庫を用意したのかとスコールは彼女の仕事の早さに感心したものの、新しい冷蔵庫らしきものは何処にも見あたらない。首を傾げるスコールにライトニングは呆れた顔をして「そこだ」と指を指したのでその方向へ視線を向けると昨日までなかった"扉"があった。

「望んでいた品を用意したぞ」
「・・・なんだ、これは」
「?冷蔵庫に決まっているだろう」

何を言っているんだとばかりに方眉を上げるライトニングであったが、対するスコールは冷蔵庫と思えない、勝手口のような扉に眉間に皺を寄せて返す。
空いていた壁にきっちりとはめ込まれた木製の扉。
冷凍庫や野菜室などの引き出しも何もない、何の変哲もない扉をライトニングは"望みの品"イコール"冷蔵庫"とのたまっている。どこをどう見ればこの扉が冷蔵庫になるんだとスコールがライトニングに問うと彼女は淡々と扉もとい冷蔵庫の説明をし始めた。

「これは食品を保存するための"冷蔵庫"の機能を模して作ったものだ。ここにあるドアノブを回すと扉の色が変わるようになっている。白い扉は冷蔵に適した洞窟に繋がっている。水色は氷に覆われた洞窟につなが・・・」
「それのどこが冷蔵庫だ!??」

冷蔵庫というよりも大昔に読んだ本に出てきた異世界に繋がる扉そのものではないかとスコールは頭を抱えたくなった。
昨晩バッツから教えてもらった冷蔵庫を彼女なりに考察して模した結果がこれだとは思わなかった。てっきり現物支給をしてくれるものだと思っていたのが・・・とんでもないものを造りだしてくれたものだと頭痛さえ覚えてしまう。
一方のライトニングは何故スコールが撃沈しているのか理解していないらしく、真面目な表情で小首を傾げている。沈着冷静で高位の神であるから人間の常識もきちんと理解しているかと思いきや彼女は意外にもバッツ同様・・・あるいはそれ以上にスコールにとって問題人物であった。

「冷蔵庫として機能を果たすならこれでも大丈夫だろう?冷蔵庫は電気代というものがかかるらしいし容量も限られているそうじゃないか?これなら食料の大量保存にも適して・・・」
「洞窟の中にいる鼠などの小動物に食品を食い散らかされたらたまらないだろう!?冷凍も!氷に覆われているようなところに保存していたら氷と一体になって凍ってしまったら取り出せないだろう!それに客が来たときだ!勝手口とほとんど変わらないこの扉を開けたらどうなると思っている!?」
「大丈夫だろう?ただの洞窟に繋がっているだけ・・・」
「人間にとっては信じられないことなんだ!悪いがこれは撤去してくれ!冷蔵庫はこっちで購入する!いや、コスモスからもらった"箱"でなんとかする!いいだろう!?バッツ!?」
「へ?ああ、おれはべつにかまわないけど・・・」

これ以上彼女と話しても何もならないと判断したスコールは怒涛の勢いでバッツにそう聞くとバッツの方は2人を傍観していてぼうっとしていていたためいきなり自分に話を振られて驚いたことと、スコールの勢いに気圧されてしまったために言われるがままに首を縦に振った。
バッツの了承を確認するとスコールはライトニングに向き合うと「今すぐこの扉を撤去してくれ!」と怒鳴った。扉を設置した本人であるライトニングはやや不服そうではあったが家主であるスコールが強く言ったこととバッツも撤去しても構わないと言っていたのであっと言う間に扉を消してしまった。

その後、用を終えたライトニングは天界へ帰ってしまい、スコールの方も用事があるのか外出してしまった。

「冷蔵庫、なくなっちまったなぁ〜おれはいいと思ったんだけど」

地上に住んではいるものの、もともと神であるバッツはスコールよりもむしろライトニングの考えに近い。食品が保存できるなら手段や方法にこだわりはないものの同居人があれだけ拒否をしていたのなら諦める以外はない。

「(まぁ、コスモスの贈り物があるけど、けどなぁ・・・)」

コスモスからもらった箱に願えば万事解決となるのだが、バッツはすぐそうする気にはなれなかった。
スコールは冷蔵庫を購入しようとしていたが、自分の生活を楽にするためにあって彼本人が欲しくて買うのではない。
バッツ本人も一緒になって機種を選んでいたものの、自分のためだけではなくてスコール自身のためになるための何かを手に入れる方がいいに決まっている。

「どうすっかな〜」

手のひらにのった小さな箱を見つめながらバッツはぼりぼりと頭を掻くと一人考え始めたのだった。


その日の夜、スコールが帰宅し、玄関の扉を開けると香ばしい香りが台所から玄関まで漂ってきた。
朝方ライトニングとの一件があったので、今度もまた何かあったのかと勘繰りながら台所へと向かうと一斤の大きなパンを抱えたバッツが笑顔でスコールを出迎えてくれた。

「おかえり。スコール」
「・・・この香りは?」
「ああ。コスモスのプレゼントでホームベーカリーをお願いしたんだ」

温かそうなパンを両手で掲げて笑うバッツにスコールはあっけにとられる。
彼のすぐ傍の作業台にはこの家には無かったはずの真新しいホームベーカリーの機械が乗っていた。今朝方、冷蔵庫をお願いすることになっていたはずではと彼が問うとバッツは小さく苦笑し、「やめたんだ」と笑った。

「やめたんだ。冷蔵庫頼むの」
「?何故だ。買い物が少しでも楽になるだろう?」
「確かに大量に保存できるのはいいけどさ、別におれは毎日買い物に行くのは苦じゃないよ?タイムセールの駆け引きも楽しいし、買い物へ行く途中に道草して少年野球の仲間に入ったり、エアリスんとこの花屋で雑談したりもしてるからさ。だから、買わなくてもいい」

バッツはそう言うと持っていたパンを置き、スコールの頭をガシガシと撫ではじめた。

「冷蔵庫はおれを楽させたいためだけに欲しかったんだろ?どうせコスモスにお願いするならお前にとってもいいと思える物が欲しいと思ったからホームベーカリーにしたんだ。ほら、炊きたてのご飯は簡単に食べることはできるけど焼きたてのパンはなかなか難しいだろ?これなら毎日ふっかふかのパンが簡単に焼けて食べられるからさ」

だからこれにしようと思ったんだと笑うバッツにスコールは願っていたものではないことと、子供のように撫でられたことが気に入らなかったのかやや不服そうな顔をしていたがバッツは「まぁまぁ」と宥める。

「そんな顔をするなよ?今日はえーっとクリスマスなんだろ?出来立てのパンとシチューに他にもいろいろ用意したんだから。手伝ってくれよ」

諭すようにそう言うとバッツはスコールに背を向けてシチューが入っているであろう鍋の中身を確認し始めた。
シチュー以外にもオーブンには鶏肉、作業台には大皿のサラダとさきほどバッツが見せてくれた焼きたてのパンが乗っていた。焼きたてのパンの香りは様々な香りに混じって目立たなくなりつつあったがそれでも食欲を刺激するには十分であり、その香りに腹が控えめにくぅ、と鳴った。
冷蔵庫を願わなかったのは残念ではあるが、バッツ自身がこれが欲しいと願ったのなら仕方がない。

「(俺に気を遣わなくてもよかったのに・・・けど)」

一人だけではなく二人にとってよいものを選んでくれたバッツの気持ちがスコールの心に僅かに火を灯す。

「(バッツがそう言うならまぁいいか・・・)」

絆されているような気もしなくもないが嫌な気はしないのでこれ以上何も言うまいと決めると食事の支度に忙しそうなバッツの手伝いに参加したのだった。



一方天界ではコスモスにすべての贈り物を届け終えたことをライトニングは報告をした。

「みんな喜んでくれましたか?」
「ああ。みんな手紙も贈り物も嬉しそうに受け取っていた」
「そうですか・・・貴方もお疲れ様でした」
「いや・・・」

一人一人にきちんと手紙と贈り物を渡すだけなので難しいことではないとライトニングがきっぱりというとコスモスは小さく微笑む。
ライトニングのことだ彼女の言う通り全員に贈り物と手紙をきっちりと手渡してくれたことだろう。しかし、無事に任務を完了したはずにも関わらずライトニング本人は小難しい、何か考え込んでいるような顔をしている。普段迷い、悩むことがほとんどない彼女がそのような表情をすることを見たことがなかったためコスモスは何かあったのかと問うと彼女は小さなため息と共に表情の訳を吐きだした。

「・・・少しわからないことがあってな」
「何がわからないのです?」

小首を傾げて優しい声で先を促すとライトニングは今朝方あった出来事と、バッツが願った贈り物についてを説明し始めた。
実は先程バッツからライトニングへ「冷蔵庫のことは気にするな」と連絡があり、その話の中でバッツにコスモスからの贈り物は冷蔵庫ではなく他のものにしたのだと嬉しそうに話をされたのだ。
昨日あれだけ二人で悩んでいて、今朝もスコール本人がバッツに冷蔵庫にしろと言っていたのになぜそのようになったのか皆目理解できなかった。

「スコールのことを思うなら冷蔵庫を願うと思っていたのだがな・・・」

ライトニングの話を黙って聞いていたコスモスはその一言を聞くと小さくくすくすと笑った。口元に手を当てて笑うコスモスにライトニングは理解できていない自分を馬鹿にされたのだと思いこみ何故笑うんだと不機嫌そうに片眉を上げるとコスモスは小さく首を振った。

「いいえ。仕事ばかりにしか興味を持たなかった貴方が・・・」
「は?」

何が言いたいとばかりの表情で見つめてくるライトニングにコスモスはふわりと柔らかく微笑んだ。
優秀であるが故に他者に興味をそれ程持たないライトニングが仕事以外のことで考え込むのは珍しかった。本来は心優しい女神ではあるが不器用であるが故に他人のことを理解する能力にいささか欠ける彼女にコスモスはある提案を持ちかけた。

「そうですね・・・その答えがわかるように・・・来年も贈り物を配る仕事を貴方にお願いしましょうか?」
「は!?何故そうなる!?」

来年も地上の神々に贈り物を配るために走り回れと!?と驚き、少々面倒くさそうな表情をするライトニングだったがコスモスは「もう決めました」と有無を言わせない笑顔を浮かべている。

「この仕事を繰り返していれば、きっとその答えは見つかりますよ・・・きっと・・・」

何故また私がと小さく嘆くライトニングにコスモスは優しく背を撫でると、懐から小さな贈り物の箱と手紙を取り出して肩を落としている女神にそっと差し出したのだった。


メリークリスマス♪



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神様バッツ様番外編その3でした。
ピクトロジカで閃光のサンタクロースライトニングさんからサンタライトさんにしてみました。
85はあの後仲良くご馳走を食べたかと。幸せなお話を書きたいなぁと思っていたので少しでもそう感じていただけたら幸いです。






■ 拍手お礼 連載ミニ小説


その事件は特に何の前触れもなくただの平日に起きた。

その日スコールはいつも通りの時刻に起き、学校へ行くための身支度を整えて台所へと顔を出すと、普段ならとっくに起床している同居人の姿が見えなかった。
馬鹿がつくほど働き者で家事が好きな同居人バッツは平日の朝のこの時間はスコールが学校へ持っていく弁当と朝食の準備をしているのが常である。そのバッツの姿もなければ昨日の夜に片付けられた時のままの状態である。
平凡な日常のほんのわずかな異変にスコールは台所から二階へと続く部屋へと視線を移した。

「(・・・寝坊か?)」

恐ろしく早起きの彼が珍しいこともあるものだとスコールは首を傾げ、起こしに行った方がいいだろうか?日頃の疲れが溜まっているかもしれないのならそのまま寝かせておいた方がいいだろうかと迷ったのが、その迷いはすぐに解決した。

「だーっっ!!寝坊したっっ!!」

ドアが乱暴に開かれた音と焦りの色が混じった声が二階から響いてくる。スコールの予想通りバッツはどうやら寝坊をしたようである。どたばたとにぎやかな足音と共に台所へ飛び込むように入ってきたバッツはよほど焦っていたのか身支度は整えておらず寝間着と寝癖だらけの頭であった。

「ごめん!目覚ましが鳴らなくてさ!弁当と朝食、すぐ準備するから待ってくれ!」

そうは言われても普段ならもう二人揃って食卓について朝食を摂っている時間である。バッツが身支度を整えずにそのまま朝食と弁当を用意し始めるとしてもその準備にかかる時間と今時計が指している時刻を計算したがいつもの登校時間に間に合わないのは明らかだった。
薬缶に水を入れながらまな板と包丁を取り出して今から準備に入ろうとするバッツにスコールは今日は弁当も朝食もいらないと告げた。

「今日は別になしでもいい。時間がないだろう?コンビニですませるから・・・」

だからゆっくりしてくれとスコールは言ったのだがバッツはそれを譲らず大きく首を横に振った。十代の育ち盛りで一日の始まりはちゃんとした物を食べさせないといけないと思っているのか、それとも居候の身なので家事くらいきちんとしないといけないと使命に思っているのか・・・どちらにしても彼はスコールの遠慮を断固拒否し、手早く冷蔵庫から食材を取り出すとガスコンロに薬缶、フライパン、卵焼き器を並べ始めた。

「や、大丈夫!間に合う間に合う!"力"をフルで使って同時進行させたら間に合わないことないから!」
「・・・なるほど」

"力"の一言でスコールはバッツが何故間に合うと言い切ったのかを理解した。
この家に来て最初の頃、彼は力を使って手を使わずに皿や食材を自在に動かして朝食作りしていたことがあった。それができるなら常人には不可能な同時進行もたやすいだろうとスコールは納得するとバッツの好きなようにさせてやることにした。
最初の頃は人に見られたり、バッツが使う"力"を不審に思っていたため彼が力を使うことに反対はしていたのだがその力を見慣れた今は以前に比べて"力"を使うことに否定的ではない。他の人間に見られないよう部屋の中をカーテンも閉まっているし、そこそこ緊急事態なので今日くらいはいいかとスコールは「今日ぐらいは盛大にやってしまってもいいだろう?」と目で訴えてくるバッツに了承の意味を込めて頷いた。

「さんきゅーな!んじゃさっそく!」

スコールから許可を得るや否やバッツは笑みを浮かべ、指先から光を発し、紋を描き始めた。
何度もこの光景を見たが描かれている紋様にどのような意味が込められているかはスコールにはまったくわからない。ただ複雑なそれからきっとすごい技を出すに違いないと予想する。
バッツは紋様を描き終え、それを頭上にくるくると浮かべると紋様はどんどん発光が強くなっていく。ここから閃光のような光の洪水が発生することをもう知っているのでスコールは身構えたのだが紋様は光を発することなく、すーっと空中へと消え去ってしまった。

「・・・」
「・・・へ?」

無言のスコールと目を丸くするバッツが二人で顔を見合わせた。本当なら紋様から閃光が発生し、何かしら術が出てくるのが普通なのだが紋様は空気中に溶け込むかのように消え去ってしまった。今までにない結果にバッツが首を傾げながら「失敗したかな?」と呟きもう一度紋様を描こうとしたのだが今度は紋様を描くどころか指先から光を発することさえできていない。

「・・・あれ?な、なんでだよ!!??」

頓狂な声を上げ、何度も技を出そうと奮闘しているがその姿はよく言えばまるで指揮者が指揮を振っているかのようにしか見えない。
朝の忙しい時に何をやっているのだとスコールは眉を顰めた。

「おい、さっきから何をふざけて・・・」
「邪魔をする」

スコールがバッツに声を掛けたと同時に背後から聞き慣れた声が部屋に響く。
心地よいアルトの声。声の主はバッツと同族である女神ライトニングのものであるとスコールはすぐにわかった。
振り返ると見慣れたノースリーブの上着とショートパンツ姿に複雑そうな構造の騎士剣を腰に携えた薔薇色の髪の美しい女神が立っていた。

「ら、ライトニング!!ちょうどよかった!!おれ・・・」

突然現れた同族に力が使えないんだとバッツが泣きつくかのように駆け寄ると彼女は腕を組み小さくため息を吐いた。

「言われなくてもわかっている。"力"が使えなくて困っているのだろう?」
「・・・へ?」

なんで事情を知っているんだとバッツが目を丸くすると、ライトニングは掌から光と共に丸められリボンで巻かれた書類の束を出現させてバッツの前に差し出した。

「お前の一級神免状の更新期日についてだ。管理部門から書状を預かってきた」

免状?一体何のことだとスコールが内心首を傾げるとバッツの方は何か心当たりがあるのか、顔を一気に青くしライトニングから書類を受け取るとすぐに目を通し始めた。

「・・・げっ!?更新って昨日までだったのか!?おれ聞いてないぞ?」

頭を掻きながら書類とライトニングを交互に見るバッツだったが彼女は組んでいた腕を腰にあて、先程よりも大きくため息を吐いてみせた。

「管理部門からは何度も書状を送ったが返事がなかったと聞いている。・・・天界の自宅からこっちへ郵便転送の手続きをしていないのか?」
「あ・・・」

ライトニングに突っ込まれ固まるバッツ。二人の会話の様子からどうやら大事な手続きを怠ったがために"力"が使えなくなったのだとスコールは理解した。
不思議な能力を使うために免状が必要でしかもその更新まで行わなければいけないとは大雑把そうに見える神々でもそのあたりは意外にしっかりしているらしい。おかしな力をむやみやたらに使われて失敗された時のことを考えればあってもおかしくはない。彼らが言っている免状はさしずめ地上で言う運転免許証みたいなものかとスコールはぼんやりと想像した。

「(・・・運転免許みたいなものだと思うと身近に感じるな)」

天界も案外根本は人間世界と変わらないのかもしれないとスコールは心の中だけで呟いていると、二人の神は書類を手に取りあれこれと話を続けていた。人間であるスコールはことの重大性は分からないが、この二人のやり取りから余程重要なことらしくバッツはいつになく困った顔で、ライトニングは普段から厳しい顔つきをしているがいつも以上に眉間に眉を寄せていた。

「書類を見る限りは管理部門は何も悪くないみたいだな。知人がそこに働いているのだが更新を怠る神なんて今だかつていなかったから困っていたようなので見に来てみたら・・・呆れた奴だな」
「ま、マジかよ・・・」

どうしようと頭を抱えてうずくまるバッツにライトニングはバッツから書類を取りもう一度ざっと目を通してその中の一枚をバッツに差し出した。

「あんたのうっかりが招いたことだ。とはいえ"力"がなければ色々不便するだろう。書状に更新手続きの書類が同封されていたから書け。持っていってやる。というか"力"が使えないのなら提出もできないだろう?」
「ほんとか?ありがとな〜・・・」

差し出された更新手続きの書類をバッツは目を潤ませて受け取ると「すぐに書くよ」と近くにあったボールペンを手に取りダイニングテーブルに座って書類を書き始めた。

「しかし、書類を今から出しても恐らく免状の更新は地上時間で一週間ほどかかるだろう。その間はもちろん"力"は使えないだろうな」
「・・・使えないとそんなに困るのか?」

書類を描きこむバッツを見下ろしながら困ったように呟くライトニングにスコールが質問するとライトニングは「神々にとってはな」と呟き、当事者であるバッツは「そうだなぁ〜」と書類書きながらスコールに答えた。

「そんなすごく困りはしないとは思うけど・・・なんつうか、人間とほとんどかわりなくなっちまうのかな?簡単に言えば」

空も飛べないし、何もないところから物は生み出せない。今までめんどくさかったら"力"で衣服の着脱を行っていたがそれもできない。なんでも手作業ですべてをしなければならなくなるってところだとスコールに説明すると、バッツはようやく書き終えた書類をライトニングに差し出した。彼女は目と指で書類の内容をざっと確認し、良しと頷いた。

「記入漏れもないし大丈夫だろう。これは私から提出しておいてやる」

書類を丸めながらそう言われバッツはほっと胸を撫で下ろした。
これで免状とやらの更新はどうにかなりそうではある。ただ、先ほどライトニングが更新には一週間ほどかかると言っていたのでそれまでの間バッツは神々の"力"を使えないため普通の人間となんらかわりがない存在となる。毎日の家事はともかく彼は天界からの仕事をここで行っているため多かれ少なかれ"力"を使っている可能性はある。そうなると今までのように仕事をこなすことは不可能となり業務が滞るかもしれない。"力"が使えない間は彼の負担になることはなるべく避けなければいけない。まず最初の問題として今日の朝食や弁当の準備から始まる家事は休んでもらった方がいいだろうとスコールは考えた。

「今日の朝食と弁当は自分で済ます」
「え?」

ほっと一息をついていたバッツにスコールはそう投げかけると、上着と学生鞄を手に持ち出かける準備をし始める。

「俺よりもあんたの方が大変そうだ。コンビニに寄って学校へ行くから今日はもう家を出る。あんたの力とやらが使えるようになるまでは大変だろうから暫くこのままでいい」
「あ〜・・・うん」

スコールはバッツにそう言うと彼は少し眉を下げて了承をした。その表情は少し申し訳なさそうであったが事情が事情なだけに仕方がないしスコール自身も咎めるつもりはまったくない。むしろ家事をしてくれていたことには感謝をしているので「これは休めるいい機会だと思えばいい」とバッツに言い聞かせた。
そんな二人の話を聞いていたライトニングに向かってスコールは小さく頭を下げ、「すまないがよろしく頼む」と言うと彼女は「ああ」と短く返してきた。面倒事を頼まれただけのライトニングが迷惑に思っていないらしいところが唯一の救いである。スコールはそのまま真っ直ぐ玄関に向かい、家を出て行ったがいつもなら「行ってらっしゃい!」と元気よく投げかけてくる同居人の視線こそは感じたものの声は聞こえてこなかったのだった。



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姉さん、またまた事件です。
少しだけ続きます。






■ 拍手お礼 連載ミニ小説


バッツの力が使えなくなったこと以外はスコールの一日に大きな変化はなかった。
唯一、本日弁当持参ではないので購買のパンを買ってきたら昼食を普段共にするティーダに何故今日は弁当ではないのかと大騒ぎされ、しまいには「彼女と喧嘩したッスね!」と大声で間違った指摘をされて他の生徒に好奇の目で見られてしまい、スコールはティーダの顔面に怒りの鉄拳をめり込ませた。もう一人の友人であるヴァンが仲裁に入らなければティーダは顔が変形したまま次の授業を受けていたか、保健室で過ごしていたかもしれない。ティーダの発言に苛々しながら午後の時間を過ごしたスコールは授業が終わったらさっさと帰ろうと決め、寄り道に誘ってきたヴァンを断り、さっさと下校した。
家への帰り道を一人静かに歩いていると、幾分心が落ち着き、ふぅと息を吐き、家に居るであろう同居人の存在を考える余裕が出てきた。
力が使えなくなってしまったバッツは今何をして過ごしているのだろうか?普段なら昼間仕事をしながら家のことをしていると聞いたことがあるが朝の一件で満足にそれをこなすことができなくなっているかもしれない。明朗快活な者ほど内側で何を考えているのかわかったものではないと思うと少々心配になってきた。
自然と早足になり、家路へと急ごうとすると目の前に光が走った。

「今帰りか?」

光と共に現れたのは朝もあった女神ライトニングであった。
流石に昼間の往来の中で普段の恰好ではまずいと思ったのか、普段の騎士服ではなくシンプルな黒のコートにジーンズとショートブーツという恰好であった。

「・・・昼間のこんな道で・・・」
「わかっている。お前以外いないか気配も確認している。それに加えてきちんと結界を張ってここに来たからたとえ見られていたとしてもお前以外の人間には今の光は見えていないさ」

光は見えなくとも何もない道でいきなり女性が現れたら吃驚するだろうとスコールは眉根を寄せたが、ライトニングは気にしていないのか腕を組んで話を続けた。

「免状の件をバッツに伝えようと思ったが家に居なくてな。気配を探ったらお前の方が近かったからこっちに来た」
「何故俺に・・・」
「バッツの同居人のお前が話を聞いて伝えればいいだろう?それに、バッツは今数人の人間がいる場所に留まっているようで割って入るわけにもいけないし、いつ帰ってくるかもわからなかったからな」

だからこっちに来たんだとのたまうライトニングにスコールはため息を吐いた。人を伝書鳩か何かと思っているのだろうか?天界からここまであっという間に来れるなら時間を空ければいいじゃないかと文句を言おうとしたが、ライトニングはくるりと背を向けてすたすたと歩き出した。一体何処に行くんだとスコールが眉間に皺を寄せて問うとライトニングは首だけ動かしてスコールを見た。

「ここは冷える。家に戻ってから話す。せっかく来たのだからコーヒーを淹れてくれ」
「は・・・?」

突然の要求にスコールは目が点になりそうだったが要求してきたライトニングはそれに構わず再び前を向くとすたすたとまた歩き出した。
用件を伝えにきたと言っていたがまさかコーヒー目当てで来たのではないのだろうかと思わず疑ってしまいそうになる。そういえばバッツは彼女が来るたびにわざわざ豆を挽いてコーヒーと茶菓子を出していたことを思い出した。

「(うちは喫茶店ではないぞ・・・)」

心の中で文句を言ったがバッツの一件で面倒を見てくれたのは彼女であるのでぞんざいに扱うわけにはいかずスコールは渋々家に向かうライトニングの後ろをついて行ったのだった。




「今日はどうしたの?」
「へ?」

紅茶とお菓子が出されたテーブルの向かいに座っていたエアリスが心配そうな表情でバッツの顔を覗き込んできた。
何故バッツが彼女とお茶をしているのかは遡ること半時間ほど前、買い物の帰り道にエアリスの花屋を通った時に彼女に呼び止められたからである。その流れで挨拶をすると立ち話もなんだからと奥へと通された。いつもなら挨拶とほんの少し会話をするだけなのだが、今日は店員が総出で働いていて暇だと言ってきたのだ。いつもならもう一人の配達中心の授業員であるクラウドとアルバイトのフリオニールかティナのうちの一人しかいないので珍しいこともあるものだと誘いに乗ることにした。フリオニールから紅茶とお菓子を出されてエアリスと二人、椅子に座って話をしていたのだが、話をしてるのはエアリスが中心でバッツはほとんど聴き手にまわっていた。普段は自ら話をすることも多いバッツの様子に心配になったエアリスが尋ねたというわけである。

「元気、なさそうだったから」

おっとりした外見に反してエアリスはそこそこ鋭い。女性で尚且つ小さい花屋ではあるが経営者で接客業をしているからだろうか?淡いグリーンの大きな瞳で覗き込まれると意識してやっているわけではないとは思うが心の中を覗き込まれている様な落ち着かない気持ちになり、バッツはそれから逃れようと、紅茶のカップを手に取って飲みはじめた。

「そんなことないぞ?」

本当は今まで普通に使えていた力が使えないこと、朝のスコールの淡々とした態度など色々思うことはあるのだが自分達の事情を知らないエアリスに話すわけにはいかない。
喉を鳴らしながら紅茶を一口飲み「このお茶、美味いな」とにこやかに茶の感想を述べたがエアリスの表情は変わらなかった。そのエアリスの後ろから花束や植木鉢を抱えたクラウドとフリオニールがひょっこりと顔を出した。

「・・・茶と菓子を前にして黙りこくっていたら誰でもそう思う」

呆れたようにクラウドが突っ込む。その突っ込みにバッツがうっと唸るとエアリスとフリオニールが苦笑した。
なるほど、これでわかったのかとバッツが頭を掻くと、フリオニールが植木鉢を軽く持ち直しながら「配達に行ってくるよ」と一言添えた。

「あら、もうそんな時間?」
「ああ。今日は少し遠いご新規さんだから余裕を持って行こうと思うんだ。量も多いから俺もクラウドと一緒に配達に行ってくる」
「わかったわ。お願いね」

時計を確認しつつエアリスが頭を小さく下げると、花束を抱えたクラウドがバッツからエアリスの顔に視線を向け、口を開いた。

「店にはティナが残っているからあまり動くんじゃないぞ」

親が子供に注意するかのようなそんな一言にバッツは首を傾げ、言われた方のエアリスは眉を少し下げ、少々申し訳なさそうな表情で「はい。心配、ありがとね」と手を振ってフリオニールとクラウドを見送った。クラウドの言葉と花屋のメンバーが総出のこの状況で流石にエアリスに何かあったのかと察したバッツは椅子に座りなおしているエアリスに問いかけた。

「どうしたんだ?」
「え?」
「あんまり動くなって・・・」

体でも悪いのかと問うとエアリスは困った表情で自身の左足に視線を落とした。

「少し足をくじっちゃったの。それからみんな、心配してくれて・・・」

困った様子で呟くエアリスにバッツも足元に視線を落とした。長めのスカートを着用しているため足元が見えづらかったのだがよく見れば左足に包帯が巻かれていた。どれほどひどいのかを聞けば数日で治る程度のもので日常生活には全然問題ないとのことだった。しかし花屋で働いていれば重い植木鉢や水を張ったバケツを持つことが多く足によくないので店のメンバー総出なのだとエアリスは説明した。先程のクラウドの言葉や学業に忙しいフリオニールやティナが店に出ているのはこのためかとようやく理解した。

「みんな、学業や私生活あるのに、申し訳なくて・・・普段できていること、できないのが辛いわ」

溜息を吐きながら呟いたエアリスの言葉がバッツの胸にちくりと刺さる。
怪我をしているわけではないが普段通りの行動をとれない点ではエアリスとバッツは同じである。スコールとの朝の一件も"力"さえ使えていたら簡単に解決していた。自分の居場所を与えてくれ、最近は少なくなったとはいえ、スコールには散々迷惑を掛けてきたのでせめて忙しい学生であるスコールの負担軽減のため家事手伝いで返そうと決めていたのだがそれすら満足にできなかった。朝のスコールの淡々とした態度は"力"が使えず何もできなかった自分に呆れたのだろうかと暗い方へと考えてしまい頭を垂れた。

「・・・うん。普段できることができないってつらいよなぁ」
「・・・バッツ?」

何気ない呟きにエアリスは首を傾げる。心配そうな彼女の表情にバッツは何でもないと慌てて首を振った。

「や、エアリスの言う通りだよなぁって思っただけだよ」

それ以上でもそれ以下でもないと柔らかい笑みを浮かべたが、再び瞳を覗き込んできた。その瞳から再び逃れようとバッツはカップに手を伸ばして視線から逃れようとしたが何かを察したらしいエアリスが柔らかく微笑むと自分のカップに手を伸ばし、両手で包み込むように手に持って膝の上に落ち着かせた。

「そうね・・・けど、不安はないの」
「へ?」

紅茶に視線を落としながら話しだすエアリスにバッツは紅茶から視線を戻すとエアリスは両手で紅茶のカップを僅かに揺らして遊んでいた。

「頼りすぎだって思われちゃうかもしれないけど、わたしに何かあってもね、みんな、いてくれるからだいじょぶって思えるから」

カップを揺らすことを休めずに苦笑するエアリスの動作は少し子供じみていたが視線と声色は優しげで誰を思って話をしているのかが手に取るようにわかった。
花屋のメンバーが何を望んでいるのかを理解し、彼らを信頼しているからこその言葉にバッツは静かに視線と耳を傾ける。

「だから、はやく治るように、今はみんなに頼って、治すことに専念しようって思ってるの」

エアリスはふふっと笑うと手に持っていたカップを口元に持って行き紅茶を一口飲んだ。仲間達に負担を掛けているかもしれないと心配をしていたが、少しでも早く治して普段通りの生活を送れるようになることが彼らにとってもエアリスにとっても一番いいことであるのはわかる。だが、バッツの場合スコールとそこまで信頼関係を築いているのかと言われると少々自信がない。寝食を共にすればするほど、スコールがどのような人間であるのかわかればわかるほど、自分は押しかけてきた同居人のそれ以上でもそれ以下でのないのではないかと思ってしまう。心優しい人間であるのはわかるが、スコールがバッツをどのように思っているかを聞いたことは今まで一度たりともない。罰則をくらって地上にいるから情けとコスモスやカオスからの頼みで家に置いてくれているのではないのだろうか?エアリス達のような信頼関係は自分とスコールとの間にはないかもしれないと思うともやもやとしたものが胸に広がった。

「エアリスは、頼れる仲間がいるんだな」

仲間がいてよかったという思いの中にほんの少し羨ましさを含ませながらバッツが呟くとエアリスは首を傾げてきた。

「バッツにだって、レオンハートさんがいるでしょ?」

無口だけど優しそうな人だと思うし、一緒に暮らしているのでしょう?と小首を傾げるエアリスだったが、バッツの表情は曇ったままだった。

「・・・どうだろうな」
「バッツ?」

普段明るい友人の小さな一言にどのようなことがあったかはわからないが、簡単に晴れそうにもない悩みを抱えているのだということは解り、中途半端なことを言ってしまったかもしれないとエアリスは後悔したのだった。

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くら〜いバッツさんですみません;(このシリーズではめずらしく乙女化してしまいました;;)
後、補足ですが、お花屋(フラワーセトラ)のメンバー全員バッツさんのお友達でスコさんと同居していることを知っている設定です。(エアリスとティナはバッツさんのお茶とお菓子仲間、フリオはお花と料理の友、クラウドからはバイクや車についての話を聞いていたりしています。・・・スコさんをチョコボで学校に送ったくせに・・・)
どうでもいい補足を長々とすみません・・・。



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