鬼が理解できぬ


ある日莎弥は童磨が鬼であると改めて思い知らされた。

「あっ、莎弥!」

部屋の襖を開けるなり飛び込んで来たのは目を背けたくなるような、惨劇。童磨は人を喰っていた、童磨の事を教祖様と呼んで慕ううら若き娘を、信者であるその娘の白い足を手にし、まさに食事の最中だった。

「違う、違うんだ!」

動けずにいる莎弥を見て童磨は手にしていた娘の足をゴンと音を立てて落とし焦った表情で莎弥に駆け寄る。莎弥は一歩、後ずさった。

「これには訳があるんだ、聞いておくれ」

童磨が何と言うつもりか莎弥は知らないが人を喰うのに何の訳があると言うのだろう。腹が減ったからか食べないと死にそうだったのか…だから何なのだ莎弥は人間だ、鬼の道理なんて伝わる訳も無くて莎弥はただただ哀れな娘の亡骸をジッと見ていた。そんな莎弥の表情を見て、

「…ううん、ごめん。何を言っても言い訳にしかならないよね、ごめん莎弥」

童磨は目を細め悲しそうな顔をする。

「ここは俺と莎弥の部屋なのに勝手に余所の女を連れ込んだりして、それに何の訳があるのだと莎弥は思うよね。何を言っても、そんな事されて莎弥は悲しいよね」

莎弥は。

「でもこれだけは信じて」

この男は何を言っているのだろうと、童磨がなにを考えているのか理解出来なかった。

「俺が愛しているのは莎弥だけだから」

莎弥は童磨が言う「二人の部屋」に信者の娘を連れ込んだ事を責めるつもりなんて更々ない。責めるとするならば、どうしてその子を殺したのか、だ。なのにその事には触れず童磨は莎弥に勘違いされたくないとばかりに言い訳をしている。目の前に居るこの鬼は、所謂莎弥以外の女と密通している現場を本当に愛している莎弥に見られてしまった、ぐらいにしか感じていないのだろう。それ程童磨にとって人を喰う事なんて当たり前の事なのだろう。

「俺の事信じてくれる?」

目の前で懇願するような表情でいる童磨を見て莎弥は口角を上げた。

「…はい、童磨様」

そしてそう言うと嘘を付くのが慣れてきたなと莎弥は自分で感じた。きっともうじき愛してるの言葉も、平気な顔でこの鬼に言えるようになるのだろうと、童磨に抱き締められながら莎弥は思ったのだった。

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