「あれが、ヨルナミの宮殿…!?」
「今までの島とは、何か違うね」

目の前に見えるのは、今までの島より大きく、陸から橋が伸びているが周り一帯は海。
水に囲まれている十ニ神鞘“ヨルナミ”の宮殿だ。中央部に水が上がっていくように、出来あがっている柱と水の球体が存在している。

「“玉依ノ宮(タマヨリノミヤ)”だ」
「……さすが、十二神鞘のお城」
「俺の城よりは小さいがな」

高台から 革、巳束、カンナギ、コトハ、カナテは玉依ノ宮を見下ろしていた。まだヨルナミの宮まで、距離はあるがその大きさは窺える。

「そんなこと言ってもカンナギの城は見たことないし」
「そう!そう!」
「ンっ?」

あくまでも自分の城の方が大きいというカンナギに巳束とカナテが言葉を漏らせば、カナテは睨まれてしまう。
カンナギは、自分たちが宮の近くまで来ていることはヨルナミも分かっているはずだが、何もしてこないことに不思議がっていた。

「革?どうかした」
「いや、ヒルコがヨルナミを“元に戻せるかもしれない”と言った言葉を考えてた」
「会ってみれば、分かるんじゃない?」
「そうだな」

ヒルコの言葉は、あのとき巳束も聞いていた。元に戻すということは、変わってしまったことを意味する。“創世”を持つ革に告げた言葉は、きっと心を元に戻して欲しいと言いたかったんだろう。


「鞘“ヒルコ”…何度見ても、あきれることよ」


水の球体に映るのは、ヒルコが革に自分の主“ヨルナミ”を降すことが出来たならば、属鞘全員が降ってやると告げた映像だった。
劍神“哭多(ナキサワ)”を手にし、ヨルナミが不敵に笑う。ヨルナミの周りには、属鞘と仕える侍者たちが跪いていた。

「鞘“シオツチ”」
「はっ!」
「私の“嫌いなもの”は?」

前列で畏まる老人に、ヨルナミは投げ掛けた。ヨルナミの嫌うものは、“下品”、“野蛮”、“失敗”であると。

「そのとおり―――。
 ときにシオツチ、そなたには“塩”の属鞘として管理を任せたはず。ほかの神鞘の領土を含め制圧せよと命じた件、どうなっておるのです」

命じたのは、ほかの十二神鞘領土内の“塩”の制圧。“大王”への一歩ではあるが、シオツチは 鞘だけではなく、民の生活をも奪ってしまうことに出来ていなかった。

“失敗は許されない”

ヨルナミは、シオツチに“哭多”を振るった。それが、一筋に仕えてきた属鞘であろうと、関係はなかった。
水の中でもがき、苦しむシオツチを見て、側にいた鞘“クンヒラ”がシオツチは老体である身だと声を上げるが、ヨルナミの耳には届きはしなかった。

「言い訳などいらぬ!!出来の悪い属鞘など、私にはいらぬわ」
「……!!」
「…殺しはしない、属鞘(みな)への見せしめです」

それだけを伝えれば、ヨルナミは奥へと引っ込んでしまう。玉座の間ともいえる部屋。
ヨルナミが創りだした、いくつもの水球が存在している。その中のひとつに、水の中に浮かぶ煌びやかな着物がある。浮かぶというよりも何者かが身を包んだようだった。その前で、ヨルナミが跪き愛おしそうに告げた。

「―――母上」

幼い頃の思い出。母上の為に、喜んで貰えると思って作った首飾り。その思い出の母は、こんな物を作る暇があるのなら 武芸の丹念でもしなさいと告げるだけだった。


「全ての源である“創世”―― あれを手に入れれば“大王”は目の前、今度こそ母上にも喜んで頂けましょう」



野宿するための場所の確保、宮の周りへの偵察、それぞれが動き回っていた。ひと息入れるために、巳束は島の周りを流れる水に手を入れて顔を洗っていた。

「巳束、あのさ…」

「ん?どうしたの」

ポケットに手を入れて、革は巳束へと声を掛けようとすれば後ろから足音が聞こえてくる。

「革、巳束、ここにいた」

「コトハ!カナテとカンナギは?」

「偵察に行ったきりのカナテが帰ってこないから、カンナギ様が見に行ってる。見張りに捕まってるんじゃないかって」

「そっか、何だかんだであの二人って仲良いもんね」

巳束とコトハの会話。先ほどからポケットに手を入れたまま固まっている革に、巳束が声を掛ければ「何でもない」と言われてしまう。
変な態度に、思わず巳束から笑いが零れてしまう。

「ったく、巳束!いつまで笑って」
「だって 革が挙動不審だから、ね!コトハ」
「くすっ、そうだね」

笑いすぎてお腹が痛いと言えば、横にいる革から小突かれる。そんな二人を見て、コトハが目を細めた。


「革と巳束は、いつか二人の生まれた世界に帰っちゃうんだよね…?」

「コトハ?」

「……(生まれた、せかいっ)」

コトハはそのまま言葉を続けた。二人がいつも一緒だから寂しさをそう感じないかも知れないけど、やっぱり大切な人たちもいるんだよねっと。

「無事帰れる日まで、私ずっと見守ってる」

「コトハ」

「ごめん、変なこと言っちゃったね」

「コトハ!待って」


寂しそうに告げたコトハが気になって巳束が追いかけようとすれば、革が声が掛かる。

最初は、秘女王に期待されて応えたくて、降し合いで罪のない人が死ぬのが許せなくて、なによりここでなら、自分が変えられると思っていた。
巳束が一緒にいるから、最初に感じた寂しさも無くなっていたから忘れていたが家族が待っていることを――

劍神を首都の秘女王の元へ、全て終わったら“帰ることは”それは当たり前のことであると、革は思う。


「巳束、帰るよな。俺たちの生まれた世界に」
「……あたしは、革と一緒だよ。ずっと」


巳束は、一瞬戸惑ってしまう。革と一緒にいることは、いたいと思うことに間違いはない。ただ、カンナギに告げられたことを思い出してしまったのだ。
コトハを追いかけながらも、巳束は考えていた。“秘女族”、“天和国の人間”自分の生まれた国は、ここなのかっと。

「…っ、コトハ!?危ないっ」

水辺の端に座るコトハに向かって、龍のように伸びる水に気付き巳束はコトハを庇うように押しだせば、体から光が放たれ水を弾き飛ばす。

「まさか、今の光…」
「え、なんで」
「巳束、危ない」

巳束の放った光に、二人は止まってしまう。一度襲いかかった水は払いのけられたが、一瞬にして 巳束は水に両足を固定されるように奪われてしまった。そして同じように、コトハも水に足を捕まれてしまう。


「巳束!コトハ!」

「きゃぁああ!革、早く巳束を!」


駆け寄った革の目に映るのは、水に呑み込まれている巳束と、今にも水に呑み込まれそうなコトハだった。
革は、腕から“創世”を手にし神意を告げようとするが、先に水球が動いて海の中へと引き込んでしまう。


「巳束!コトハ!―――」

「おい アラタ、どうした?」

騒ぎにカンナギとカナテも、駆け寄った。三人の目の前で、巳束とコトハの二人は光に包まれて消えてしまったのだ。


「今のは“ヨルナミ”か!!」

カンナギは、ヨルナミは水を操るという。おそらく行き先は奴の宮であると。そして、革に今度ばかりは心で降そうと思うなと告げた。

「……巳束!」

「アラタ!!」


革は、カナテの声を聞かず走り出してしまう。ヨルナミへの宮へと一直線に。それが、ヨルナミが迎え入れようとも知らずに。



水の宮へ

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