「ミツカ!しっかりするさ―――」


朦朧とする意識の中で、その声が頭に響く。痛む体を感じなら重い瞼を開けば、見知らぬ天井と共にカナテが視界に入った。

「…カ、…ナテ…‥‥?」
「ミツカ、気付いたさ?よかった――」

親切な人が一晩、手当てのために泊まっていいと言ってくれたと告げる。カナテが言うように、腕などに手当のあとがあった。

「……革とコトハは」

なんとか上体のみだが体をお越し、側にいない2人のことを口に出せば、カナテは気難しい顔をする。コトハが気絶したままであること、そして革がしばらく1人にしてほしいと告げて出ていってしまったと。

「カンナギ様が“創世”を奪って、今 狙われたら危険なのにさ――」

「…いかなきゃ、あたし――」

「ちょっと待つさ!ミツカ、その体じゃ!!」

カナテの制止も聞かず、あたしは上着を掴んで部屋を飛び出した。外が危険とか、その体じゃ危ないとか耳には入っていなかった。革の支えになりたいと、気持ちが巳束を動かしていた。


「…もう、ひとりで悩まないで欲しいっ」


 * * *


革は1人で考えたかった。自分のしてしまったことを。ただ、ただ、歩いていると見知った人物が待ち構えていることに気付く。それは、カンナギだった。


「情けない面だ。さっきとは別人だな」
「カ…」
「子供でも一瞬でも殺れそうだ。ほら“創世”だ」
「…………」
「どうした、取り返さなくていいのか」


手にしていた“創世”を差し出すように革へ向けるが、革は取ろうともしない。視線を逸らしたまま、見ようともしない。カンナギは“創世”を構え 脚力をつけ 一瞬にして、その間合いを詰めた。
革はそのまま斬られると思い、目を瞑るが それは一向に訪れはしなかった。ザンっという劍が地面へと突き刺さった音が聞こえたと共に、カンナギに胸倉を掴まれる。

「――なにがあろうと、やろうと決めたことは貫け。“世界を変える”んだろ?」
「カンナギ…!?」
「お前は、そこまでの人間(ヤツ)だったのか!?本当に“世界を変える”覚悟があるなら、もう一度“創世”を手に取れ、アラタ!!」

革とカンナギの間の足元には、地面に突き刺さった“創世”がある。意志を貫き通せというカンナギに、革はなんで?と口にした。

「“創世”を狙ってんたんじゃ…」
「俺の劍神は、やはり“火焔”だけ。他人の劍神を、手にしたが…お前の“創世”は、重い」

革自身の使命と責任の重み。初めて他人のものを手にしてそれを知ったと。カンナギは革から顔を逸らし、他の誰が扱えると告げてその場所を後にした。


「…‥カンナギ?」


重い体を引きずるように、雨の中歩いて行けばあたしの存在に気付いたカンナギがこちらへと足を進めていた。

「アラタなら、じきに来るだろう。ちょうどお前に聞きたいことがあったんだが」
「そっか、なら良かった…‥」

きっと、カンナギが何か告げてくれたんだろうとそんな気がした。だから、あたしはカンナギに聞きたいことは何かと口にする。

「ミツカ、お前は秘女族の者か?」
「は?……、カンナギ?何を言っているの」
「腕を、左手首を見せてみろ」
「ちょっと、いきなり何なの!?」

腕を掴まれ、袖を捲りあげられる。そしてカンナギは巳束の右手首の内側にある、小さな痣に目をやった。

「痣?刻印は、無いんだな」
「離してって!…この痣は、赤ん坊の頃からあるの。だいたい、何言っていんの?あたしは、生まれも育ちも日本っ!!」

何のことだが分からず、掴まれていた手を巳束は払う。カンナギは、天和国の人間じゃないのかと巳束に言うのだ。


「なら、あの天通力の、そうではないという説明はお前は出来るのか?

 俺はこの目で二度、見ている。しかも、あの惨事の傷が酷く、動けなくても当たり前なお前は目を覚まし、こうして動いている」

「いい加減にして!まだ、こっちは本調子じゃないんだから!」


あたしは、カンナギの言葉から逃げるように走っていた。
頭の中がぐるぐると回っている。天和国に来て起こったことで、確かに説明が出来ないことがあった。ホニを庇ったときに当たると思った炎が当たらなかったこと、そして、自分から出た光についてだ。


「おっ…と、巳束?」


訳も分からず、前へと走っていた巳束は革と打つかってしまう。革は、カンナギの言っていた通りに戻ろうとしていたところだった。

「革――――っ」

打つかったままで、動かない巳束にどこか様子のおかしいと思った革は、そのまま腕の中へと閉じ込めるように抱き寄せた。

「ごめん、俺……お前のこと」
「……革、あたしは天海巳束でいいんだよね…‥」
「え?」
「小さい頃から革の隣にいる、幼馴染みの」
「何言ってんだ、巳束は俺の幼馴染みで大切な人だよ」


その言葉を聞きながら、カンナギの告げられたことが頭の中で渦を巻いていた。


「うん、………ありがと」


あたしが、…秘女族なんか、天和国の人間なんかじゃ、ない――――――



思い掛けない言葉

<<  >>
目次HOME


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -