意外にも部屋の内装の造りはちゃんとしてあった。寝台ともいえるベッドに、食事が出来るテーブルがあったが今のあたしには何の関心もなかった。
濡れた服を部屋着として用意されてあるものに着替えた方がいいんだろうが、あたしは入った瞬間、壁に寄り掛かるように座り込んだ。ため息を吐いて。

寝てしまおうかっと思ったが、隣の戸の音が聞こえてきてしまう。

「革たちって、……‥となりっ」

このままじゃ、本当に話が聞こえてきそうで、耳を塞いで目を瞑った。


「お譲さーん、ご飯ですよー」

肩を何度か揺さぶられ、目の前には従業員の女の人がいて、あたしに具合でも悪いんですかっと問い掛けてくる。女の人が言うように、テーブルに食事が用意されていた。
だが、あたしはテーブルには向かわずに引き戸を引いた。

「お譲さん、お食事は?」
「大丈夫です。えっと、少し外の風に当たってきます」
「え!?あのぉ、」

女の人には雨が降っているといい止めようとするが、あたしは構わず外に出た。居られるはずがない、隣の部屋は革とコトハなのだから。

行くあてもなく、雨に打たれながら、歩いた。ただ離れればいいと思い、足を進めれば大きな樹が目に入った。
樹の下は雨を避けるのに丁度いいと思い、縋るように、その幹に寄り掛かって降り続く雨を見つめた。


 * * *



「アラタ様ー、お食事来ましたよー」

濡れた服から部屋着に着替え終わった頃、タイミング良く食事が運ばれた。寝台に腰を掛けて、何かに悩んでいる革をコトハを呼ぶ。
革はこの状況をどうしたらいいのかと悩んでいた。初めての、巳束以外の女の子と2人っきり―――

「(…‥‥あれ、俺?巳束は)」
「アラタ様?」
「コトハ、巳束って――」

食事を置かれたテーブルを向かい合わせにして、巳束の名前を出そうとすれば「アラタ様っっ!!!今は私と2人っきりなんですよ」とコトハに遮られてしまう。


「私ね…、あの“子供だけの島”のナグとナルの2人、見てて思ったんです。“小さい頃の私とアラタ様みたい”って」


小さい頃の思い出をよみがえらす様に、コトハはアラタに言うが目の前にいるのは俺、革だ。

「コトハ、あのっ…」
「やっぱり私たちって、どこまでもいっても“兄妹”なのかな…、だから私が“好き”って言ってもムリだろうなって。だけど一緒にいるのに、アラタ様は違う人を見ていて」

コトハは話を続けながら、ずるずると座っている俺に近付いてくる。その距離にたじろい後ろに引き下がれば、手を振られそうになってバッと払いのけた。コトハを見ることが出来ない。


「アラタ様なら、私にうろたえたり、意識したりしない………あなた誰?」


詰め寄られ、生まれたときからずっと一緒だった、アラタ様じゃないの?と問い掛けられる。

「っあ、その…」
「私の目を見てください。あなたは誰?」
「……ごめん!!俺、“アラタ”じゃない。姿はアイツに見えてると思うけどっ、“神開(カンド)の森”で…“アラタ”と入れ替わった別の人間なんだっ!!」

床に手を着いてコトハに頭を下げた。信じられないかも知れないけど、“アラタ”は俺のいた世界にいるとコトハに告げて。


「別…人。やっぱり……」
「……?コトハ、」
「やだ――――――っっ!!」

叫ぶように声を上げたため、コトハの叫び声は他の部屋にも届いていた。
コトハは、動揺を隠せないでいた。頭を抱えながらウソウソと繰り返す。

「はずかしいっ!!私っ、てっきりアラタ様、記憶なくしているだけだって、思いこんでたから、あ…あんなこととかしちゃっ…別の男の子に…っっ」

自分の頭をポカポカと叩きながら死んじゃいたいっと、穴があったら入りたいという動作を繰り返している。

「なんで早く言ってくれなかったの!」
「いえ、最っ初の時点でかなり説明しました。“アラタ”のおばあさんは、すぐ納得してくれたけど…何回か言おうとしたし」
「ひょっとして、巳束さんも…‥ですか」
「あ、うん」

寝台に横たわるように、パタンっとコトハが倒れた。コトハは「…めまいがっ…」と呟いている。



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