「この島もこれで見納めだな。ほらナグも見えるか?…これからは俺と一緒に旅しような!」

ナグとナルのいた建物に向かって革は、劍神“創世”を腕から少しだけ出して別れを惜しんだ。ナグの王国に。

「アイツすげぇさ。自分からアラタに降るなんてさ!チビだったのに、いろいろ ちゃあんと分かってたんだな…ミツカもそう思うよな?」
「………あ、うん」
「ミツカ、元気なくないさ?」
「そんなことないよ、ほら行くよ」

輪に入っていなかったカンナギから行くぞと声を掛けられ、あたしたちは止めていた足を動かし始めた。少しだけ、カンナギの声に救われた。
あたしは、あの時から革と話せていない。目を合わせることも避けていた。

「“降し合い”で鞘に感傷は無用だ。この先にもな!」

釘を刺すようにカンナギが告げれば、革の元にコトハが駆け寄った。

「ナグはアラタ様に感謝してたと思います!だから…」
「分かってる、コトハ」

革はコトハとの歩みを揃えれば、ナグは消えてしまったが自分の劍神の中でちゃんと生きていると口にした。秘女王のいる首都まで届けることができれば、きっとまた逢えると。
カナテは、後ろを歩く革とコトハの会話に振り返り「でも」と言う。

「ひっでーのはあいつら兄弟放ってった親さ!ウチも他人んちのこと言えねーけどさ。アラタんちは?」
「ウチは両親、うまくいってんじゃないかなー。2つ下の妹いるけど、まあ 仲いーし」
「妹いんのかぁ!カワイイ?カワイイ?」
「さあな〜」

革の告げた言葉に、コトハはハッとする。“アラタ”には両親も妹もいない。革をアラタだと思っているコトハは動揺をした。
顔を合わせ辛いあたしは、先に歩いていたため、そんな会話をしていたとは知らなかった。


 * * *


「急に降ってきたな!」


大分歩いて陽が傾いてきた頃、急に雨が降ってきてしまう。その雨を睨むようにカンナギは空を見上げる。

「………………」
「カンナギ?」
「どうしたのさ、カンナギ様!」
「この領土“ミツハメ”を統治するヨルナミは水の劍神の鞘だ。雨も制御しているはずだが――――」
「…俺らが領土内に入っていることバレてんのかな」

カンナギの言葉をあたしとカナテが待てば、おかしいと告げた。革もバレているのではないかと口にした。確かに、ナグもあたしたちが島に入ったことを見ていたのだからヨルナミが知っている可能性はあった。
少し不安げな空気になれば、カナテはただの雨だからどうってことはないと言った。


「ねえ、あれって宿かな?」
「巳束さん、そうですよ!」

道先にある灯りに気付き、口にすればこれで泊まれると喜んだ。だが、カンナギが宿の立て札を読んであたしたちに告げる。

「で?貴様ら花降銀(カネ)はあるのか?」

カンナギの言葉にあたしたち4人が「え?」と声を揃えた。自分は十ニ神鞘であるため朝廷が払う仕組みになっているという。政府の要人であるから当然であると。

「劍神取り上げられてンのに?」

思わず口にしてしまったカナテは言ったと同時に、カンナギの拳が顔面に入っていた。カナテに「口は禍のもとだよ」とコソッと呟けば、カンナギに睨まれてしまった。

「コトハ持ってる?金!」
「えーと3人分はナントカ…」

革がコトハに花降銀のことを聞けばカナテ分が足りず、残念と言うような、憐れんだ目でカナテを見る。そんな2人にカナテが声をあげた。

「部屋割はどうするさ?1人部屋が1つに2人部屋が2つさ!コトハちゃんアラタは危ないさ!俺と泊まるさ!!」
「お前のが、危ないわカナテ!!」
「いえ…ホラ、私アラタ様の采女だし…アラタ様だったら私、何をされても――」

なぜかコトハをめぐって、革かカナテのどちらが泊まるかの話になってしまっている。一歩踏み出してその話に入ろうとすれば、カンナギに腕を掴まれてしまう。

「よし、ミツカ お前には1人部屋を与えてやろう」
「は?カンナギ、何言って、わ、っぶぐ……・・」

思い掛けない言葉に、声をあげようとしたがカンナギに口を塞がれてしまい、あたしは何も言えない。その顔を見上げれば、楽しそうな顔をしている。

「2人を泊めて、カナテは特別に俺がおごってやる」
「やだやだやだ男と泊まるなんて!しかも王様ときっと暑苦し…ぐわっ!!」

ニコっと笑うカンナギは、面白そうだからっと顔に出していた。カナテは喚くように騒いでいたが、カンナギに足蹴りをされて部屋に押し込まれていた。
あたしは満更でもない革の顔に、大人しく1人部屋でいいと従っていた。



(もう、……‥わかんない)




言葉を発せない

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