劍神を手にしていないこと、戦う意思がないことを示すが、ナグは首を縦に振ろうとはしなかった。

「ナルの友達を消したのは悪かった!!」
「ナグ、革はあなたの味方だよ、怖がらないで!」
「巳束……、そうだよ、ナグ…怖がらなくていいから俺はここにいる間は、お前らの父様に――!!」

その時だった、大蛇の尾がグワッ――と音を立てるように動いたのは。
革に覆い被され「危ないっ」という声と同時に、軽い衝撃が走った。革が庇ってくれたのだ。

「っ……革、平気!?」
「あぁ、大丈夫。…ナグ、どうしたんだ?お前なにを…そんなに…っ」

革とあたしは、大蛇と化け物に挟まれていた。その大きさから、囲まれているといってもいいだろう。ナルがナグから走り出す。あたしたちの方へと。その姿にナグは「ナル!?」と叫ぶが、止まらない。

「止まれ!!」

駆けだしたナルに危険が及ばないように、ナグは化け物たちに声をあげた。

「アラタの父様!しっかりして!!」
「……ナル……?」
「ごめんなさい!ナグを許して。ナグもホントはアラタの父様も、ミツカの母様も大スキなの!…ナルがいけないの」

ナグは全部、ナルを守るためにやったという。顔を伏せて革の腕にしがみ付くナルをあたしは、そっと抱きしめた。

「お前ら…ここに2人だけで…?」
「寂しかったの」

ナルはナグに、実体化させた友達の次に“父様と母様”が欲しいと告げた。ナグは、一生懸命に描いてはくれたが何度やってもうまくはいかなかった。

「さっきのたくさんの“オトナ”は全部失敗作…、だってホントの“父様と母様”はよくわからないから……」


“ナグ 父様はどこに行ったの?”
“知らない…ちょっと行ってくるっていったきり、だから捜してるんじゃないか”

“じゃ 母様も?” “母様は死んだって”
“死んだって なに?” “…知らない”

“じゃ いつか2人共見つかるね”


「…でも、どんなに歩いてもどこにもいなかった…。
 だから通りかかった“大人”がここに来るようにしたの。その人たちが本物の父様と母様になってくれますように…」

ナグに大きい化け物を描いてもらい“大人”が通りかかったら、誘導をさせていた。そして、あたしたちはこの島に辿り着いた。

「でもホントはね、ナルはナグが心配だったの。ナルがいけないの。ナグを1人置いてっちゃたから ―――」

ナルの言葉に、あたしは抱きしめている腕に力を込めた。

「お願いします。ナグをここから出してあげてください…」
「ナル…お前…」

「………ミツカの母様、もう大丈夫。抱きしめてくれてありがとう

 ナグ、一緒にいたかったけど…ごめんね」

「ナ、ナルっ!!」

ナルはあたしの腕から離れ、ナグへと向き直った。


「こうしてナルがいたら…、ナグはずっと独りぼっちだよ。そんなのダメ、ナルのことはもう気にしないで。外へ出て…」


ここは、ナグだけの王国だった。現実逃避の……・・・ 閉じられた王国。
中2のときの、革の部屋と同じ――――

「ナル、お前は……いいんだな…?」
「うん、楽しかったよ。コトハの母様とお料理したりミツカの母様とお話ししたり、あとは…」


革はその小さな体を、力いっぱい抱きしめた。力強く。


「…ナグは任せとけ!大丈夫だ。だから…安心しろ―――――!!」

「よかった。ありがとう、アラタの父様。ミツカの母様、手を…」

「……ナル、握ってるよ」

小さな手を握れば「ありがとう」っとナルは口にした。革は、腕から劍神“創世”を手にする。

「やめっ…」
「顕れたまえ――――― 」


“ナグ、ずっと一緒だよ―――――”

幼い2人はさ迷い歩いた。お互いの手を取りあって心細いのを我慢し、支えて。歩いた先にあったのは、この島だ。


“ナグ…疲れた、おなか…すいた…”
“あ、ナル 見て、島だ。あそこまでがんばろう”


 “ナル”

  “…ナル”

   “ ナル?”



だが、返ってくる声はなかった。大好きな声が聞こえない。小さき体が崩れたのは、――――― この島の目の前だった。

“ナル”

ナグはもう一人の自分を思い出すようにナルの絵を描いた。

“戻ってきて、ナル。今度こそ僕が守るから”
“ここを僕らの国する。おうちも父様母様も友達も全部あげる”
“だから、ずっと”

革とあたしの目の前から、ナグの描いたナルの絵がスッと消えていった。


“一緒に―――――”


託された想い

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