「人だ」
「5人もいる」
「…女の人が2人も――」


何者かがあたしたちを覗いていた。それは小さな、誰か。


 * * *


先頭にて、歩みを進めていたカンナギの足が止まってしまう。目の前に、大きな岩山のようなものが存在しているからだ。

「岩山!?道、間違えたんじゃないのか!?」
「そんなはずはない、この場所は岩山なんて…」
「ねぇ、なんか動いている気がするんだけど」

立ち止まっている革とカンナギに声を掛ければカナテも気付いたようで「んなぁ!?王様、これなんっスか――っ!?」と口にすれば、カンナギは「いや、知らん」と答えた。
岩山だと思っていたものは、葉っぱで殆どの部分が覆われていてグウ…と不気味な音を出す化け物だった。振り向いたその姿は、片目に口、そして4本指の手があり、行こうとしていた先の橋をガツっと握り潰してしまう。
行く手を遮られ戸惑えば、別の道へと走った。不気味な化け物はあたしたちを追うように、橋を壊しながら付いてくる。

「カンナギ!!まさか近道っつって俺ら、はめようとしたのかよ!!」
「なんだと!?そのカナテが持ってる地図が大ざっぱだから、わざわざ教えてやったんだぞ!!」
「大ざっぱで悪かったさ!かっぱらった兄貴に文句言え!」
「お前、それ盗品かよっ!!」
「そんなの、今はどうでもいいから!!走って、入り口見えてきたから」

逃げるように走れば、橋の終わり、つまり入り口が見える。あたしたちは、建物の中に駆け込み扉を閉めた。堅い扉を閉め切れば、その化け物から何かをされることもなく急に静かになる。

「おい!こっちだ」
「…?」

カンナギが呼ぶ方へ丸い門をくぐり足を進めれば、人がいる広場のようなとこに出た。円型の建物であって、中の造りも丸いのだが違和感を感じる。

「子供ばっか…?」
「なんだここは――――」

そうだ、見渡す限り子供しかいない。大人がいないんだ。
それが違和感なんだと気付いたとき、入ってきた扉に急激に蔓のようなものが伸び始めていた。

「なんで、門が!!」
「急に蔓草(ツルクサ)が!?」
「…………」
「嫌な感じだ、とっとと出るぞ!門は最低でも四方角にあるはずだ!」

「「え?」」

この円型の建物自体が島となっており、ひとつの街になっているとカンナギは説明する。それが“ヨルナミ”の領土の特徴だと。道か空中の橋でそれぞれ別の島につながっている。

「ねぇ、ねぇ」

カンナギの説明を聞いていれば、革とあたしは袖を引っ張られる。同じ方向を振り向けば、小さい女の子と男の子が革とあたしを交互に見て声を掛けてきた。

「出られないよ」
「え?」
「ん?どうして?」

女の子たちの視線に合わせるためしゃがみ込めば、コトハが「キミたち双子?」と口にする。女の子がうんと言って笑う。

「あたしはナル」
「…………」

「こっちはナグだよ」

二つ結びの女の子がナルで、無口の男の子がナグだという。2人に「巳束だよ」と声を掛けれれば「うん!」っと笑い返してくれる。
ここにいる子供たちに親のことを聞けば、いないや知らないっと声をあげた。ナルがコトハに抱き付いて「姉ちゃん」っと口にする。

「母(カカ)様になって!」
「は!?」
「ナグはこっちのお姉ちゃんがいいみたいんだけど………だから、お姉ちゃんもいい?」
「ええ?あたしも……」

先程からあたしの袖を掴んでいるナグは、コクンっと顔を揺らした。その仕草に、ニッコリ笑い返せばギュッと抱き付かれる。
周りの子供たちからも、そうだそうだっと言われ、抱き付いてくる。

「じゃあ、こっちお兄ちゃんは父(トト)様やって!!」
「えぇ!?革が!?」
「待って、巳束…俺だと不服か?」
「違う!そういう意味じゃなくて」

子供たちが「一夫多妻制ってこと?」と口にする。いやいや、そういうことじゃないよと声を上げたかったが、他の子が「ちがうよ、ゆーじゅーふだんなんでしょ」や「フリン、フリン」と言葉を出し始めてタイミングを逃してしまう。
一体、どこで覚えたかのか。子供のいうことだから、気にしてもしょうがないっと思うことにしよう。
そこへ、四方角の門を見てきたカンナギが「どの門も塞がれていた」と戻ってくる。だが、そのカンナギにも背や腕に子供たちが抱き付いていてとても楽しそうだ。

「カンナギ、子供に好かれてるね!」
「おおい!お前にはそう見えのか!!」
「なにカンナギ、遊んでんだ」
「革もそう見えるよね!」





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