夜空に舞うのは、幾つもの蝶と光。澄んだ水に、水流の流れている音がする。その宮殿の中心には水が球体となって浮いていた。
ある男の手に蝶が、舞い降りる。

「――アカチがカンナギの劍神 “火焔”を奪ったと?」
「ああ…今はどこかに潜伏しているかもしれないが、さすがにカンナギ自身は降せなかったらしい」
「“大王(オオキミ)争い” はアカチが先陣を切りましたか」

話しをしていた者が、その者のことを“ヨルナミ”と口にする。そして“新しき鞘”の話を振った。
罪を被せた彼が、まさかの鞘とは思ってもみなかった。だが、なんの劍神と組んでいるかは不明だった。
だから、しばらく様子を見ようと。

「“大王の座”をかけるならば、少年といえど降すしかないでしょう」


こことはまた、別な場所でも動き始めていた。あたしたちは知る由も無かった。蠢く闇に。
ひとり現代の日本で門脇や優のことで奮闘するアラタに危機が迫ろうとしていた。
門脇にも、何かが起ころうとしていた。
酔っ払いに絡まれ、門脇は自分の足へとナイフを向けられたとき足は止めろと告げた。

「マジで二度と走れなくなっちまう―――――――!!」

それは門脇の本心。門脇は、本気で革に挑んだあの中学でのことをずっと引き摺っていた。

何かが、大きく変わろうとしていることは誰もまだ気付いてはいない。


 * * *


「おい、腹が減った。早く用意しろ。」


それを言ったのは、カンナギ。あたしたちは焚き火の前にて釣った魚で用意をしている真っ最中だが、カンナギは大きな葉を何枚も重ねてその上に横たわっていた。

「なんっか、チョー態度でかいんですけどこの人」
「しょうがないよ、革…カンナギは王様だから」

コソッと革と話していれば、カナテがカンナギに俺らは家臣ではないこと、一緒に旅をするのなら自分で動くようにと言う。だが、カンナギは反論する。

「俺は別に貴様らと同行する気はなかったんだ。そこのアラタが“一緒に来てください”と言うから仕方がなく」
「俺、そんな言い方してねーし!」
「そうそう、実際は “俺と一緒に来いカンナギ!”……ポチャンっと髪から水滴が落ちて“誰に向かって命令してんだっ!!”って革を足蹴りにしていたじゃん」

カンナギは言われた言葉に「な!?」と声をあげるが、あたしと革はカナテからのひそひそ話に交ざっていた。

「アラタ!なんでこんな裸の王様誘ったのさ!!」
「…そうだよね」
「言うな、カナテも巳束も。次の瞬間、俺も後悔したことは」
「今なら1・2の3で逃げられるかも…」

「聞こえてんぞお前ら!」


っとまぁ、カンナギを含めての旅は始まってしまったから仕方がない。
少しお腹が膨らめば、先へと急ぐことになる。
革はカンナギは苦手だが、全鞘を束ねて秘女王の元へ行くには逃げても始まらないっと思っていた。

「(でもコイツをはじめ相手の“心を変える”って、力で戦うよりハイレベルだよな…)」

手の平から劍神“創世”の柄を手にすれば、何かの視線に気付く。隣を歩いていた巳束も気付いたようで後ろを振り返った。そこには、あからさまに顔を反らしたカンナギがいる。

「カンナギ、見てたよね」

巳束の言葉に、カンナギは知らぬ顔をするだけでなにも言わない。はぁーっとため息を吐いて前と向き直す。
チラっと覗き見をすれば、カンナギはじ――っと見ていた。


「バックに立つな!!そして分かりやすいガン見すんな!!先行って、先!!」
「……革?」
「フン」

カンナギに後ろを取られた前回のトラウマもあって、革は先頭へと促した。

「(こいつが同行を求めた魂胆など見えているが、そばにいれば劍神“創世”を手に入れる機会はいくらでもある)」

アカチから“火焔”も取り返すと言っていたが、こんなガキにできるものかっとカンナギは思っていた。

「(“力で降さない”など甘い考えが通用せんと分かる時が見物だな。しばらく様子を見てやってもいいか)」

先頭を歩くカンナギにカナテは、王様なんだから乗り物とかないのかと口にするが、浮舟も土器馬(ハニワ)も全部 アカチに破壊されたため無いという。

「劍神なしで城にも戻れん」
「うわ、それじゃホントに裸の王様…」

ガッと、カナテに肘打ちを食らわせば、カンナギは告げる。「乗り物よりも、この先は足を使ったほうが動きやすい」っと。


「「え?」」

生い茂る木々の中を歩いていたのだが、目の前の景色が変わっていた。雲が低く、海が広がっている。

「こんなに低い位置に雲が…?」
「陸がない?」
「ここから先は十ニ神鞘“ヨルナミ”の領地」
「“ヨルナミ”…」

ヨルナミは“水”を操る劍神の持ち主、その前にまず奴の属鞘たちとぶつかるだろうとカンナギはいう。

「ここからはそれこそ鞘同士の“降し合い”、おとなしく俺に“創世”を譲ったほうがいいんじゃないか?」
「…………」

譲ることはしない、それが革の役目なのだから。前を見据えて「進むぞ!!」と口にした。
丸い島が幾つもあり、その上に円型の建物が存在している。だが、そこへ行くには縄のような草で造られた橋を通るしか術がなかった。

「近道とはいえ、ほかに進み方ないのかよ」
「高い…。コトハ、足元気をつけてね」
「巳束さん、ハイ!海が雲で見えないのが救いですね」

カンナギ、カナテの後をあたし、コトハ、革の順でついて行く。カナテはあたしたちの怖がる声に、面白いこと思い付いたのか縄に寄り掛かった。

「ば、っか!!カナテ揺らしたら」
「カナテ、やめんかァァッ!!」

その揺れにて、足元がふら付いてしまう。
不安定になったコトハが「きゃっ」と革によろけていた。ドキッとなる、革とコトハ。カナテは文句を言っていたが、カンナギは若干、呆れていた。

(あたしは、………痛いなっ)

「巳束さん、どうかしましたか?」
「うんん、なんでもないよ」

足が止まっていたことに、後ろにいたコトハが気になったのか声を掛けてくる。あたしは笑って返した。「止まっちゃってごめんね」っと告げて。








迷っても、今は前へ

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