あたしと革にとっては、海の浅瀬で謎の生物と言える「ムル」に遭遇していた。それはとてつもなく巨大でオットセイような、そしてとても獰猛。
羽根を広げ襲いかかろうとする巨大な牙に、陸地まであたしたち4人は泳ぎきって、なんとか難を逃れるのだった。
そして、大きな樹を挟みあたしとコトハ、革とカナテで分かれて、濡れた身体と衣服を焚火に当たり乾かしていた。
「コトハちゃーん、ミツカっー!そっち大丈夫っさ?」
「大丈夫でーす」
「こらー!なんでコトハは、ちゃん付けであたしは呼び捨てなのー?」
「なら、ミツカちゃんがいいっさ?」
聞こえてくるカナテの声に少し悩めば、革の「巳束ちゃーんねっ」と笑い声が聞こえてくる。何となくムッとして「いい、そのままで!」と告げた。
「ってか、2人共のぞかないでよ」
衣服を脱いだコトハには体操服の上を貸しているけど、危険なので念の為だ。
「了解さ!アラタはどうかしんねーけど!」っと、カナテのすぐ後に「俺ものぞかないよっ!!」っと革が叫んでいた。
「きれいな、髪ですね」
焚火に当たりながら、コトハがふと声を掛けてくる。「そう?コトハだって髪の毛長いし綺麗だよ」っと言えば「巳束さんはそれ以上、伸ばさないんですか?」っと聞いてくる。
「んー、これ以上伸ばすと走るのに不便で。
一度、切ろうかなって思ったんだけどある人が言ったんだ。勿体ないって」
「その勿体ないっと、伝えた人は大切な人なんですか」
「へ?」
「とてもいい顔をしていますよ」
コトハの言葉に吃驚してしまう。「想いは伝えないのですか?」っと言われてしまった。
伝えられたいい、だけど伝えられないかな。きっと怖いんだ。関係を壊してしまうかもしれない。だから、首を横に振った。
「その人、今まっすぐ走ろうとしているんだ
だからあたしのせいで、それを躓かせたくは無い」
きっと、あのとき
追い打ちを掛けるようなことになったのは、余計なことを言ったあたしだから。
「そうなんですか…」
「そんな顔をしないで。コトハ」
この話から切り替えようとコトハに笑い掛ける。「あ!これは革とカナテには内緒ね。恥ずかしいから」っと言えば「はい!大丈夫です」っとコトハが笑う。女の子同士の約束だ。
そのとき革はカナテに、カンナギが秘女王を斬ったこと、唯一の目撃者“アラタ”つまり自分と巳束を共犯、身なりの変装と逃亡で狙われているいる理由を話していた。
「さぁーって、ここからカンナギ領なんだよね?」っと、コトハに聞けば「そうですね、気を付けなくてはいけませんね」っと言うが、草むらから見えた人の影に声をあげてしまう。
きゃあっっと上がった悲鳴に、革とカナテが急いで顔を出せば「きゃーっ」とまた声があがる。
「ば、ばか!革とカナテっっ!!」
「!、ご、ごめん!どうした2人共!?」
「み、み、み、見てないさ」
コトハが「誰かが、私たちの服を盗んで―――」っと告げればカナテが一目散で走り出す。「巳束は俺のカバンから上着取って、キャミソールの上に着とけ!」っと言って、革もカナテを追い掛ける。
何者かが、あたしとコトハが乾かしていた服を一式ごと持ってってしまったのだ。
コトハには、乾くまでっと言うことで体操服を貸していたが際どい姿なのでジャージのパンツを渡せば「でも」っと口にする。
「今穿いているのレギンスだから平気」っと言ってみるが「れぎんす?」っと当たり前だが疑問符を浮かべていた。
「2人共行っちゃうなんて…」
「コトハの言うとおりだよ、ここで誰かに遭遇したら…!?」
あたしがそう言った瞬間、誰かが馬のような乗り物に跨りあたしとコトハを見下ろしていた。だが、逆光で顔が見えない。
「「誰…!?」」
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