▼ 大空と航海士
「今日は良い天気だなぁ……」
雲ひとつない朝の空を見上げてツナが言った。
昨日は嵐にあい、なかなか大変な1日(正確には午後)を過ごしたのだ。しかし、疲れている筈なのに何故か目が覚めてしまい、いびきがうるさいので外に出てきていた。不寝番のゾロ(嵐が来た時に寝ていた)は見張り台にいるらしく、姿は見えない。
「あれ?」
自分以外はまだ寝ていると思っていたのに上の方に人影。
「おはよう、ナミ。早いね」
「おはよう。ツナも案外早いじゃない」
「あー……いびきがうるさくて2度寝できなくて」
ニコリと笑うナミに苦笑しながら返す。
「ナミは何してるの?」
「昨日の嵐でみかんが傷んでないかみてるのよ」
「あ! そっか、みかんの木はナミのだっけ」
以前クルーから、珍しく大真面目に、腹は減ってもみかんにだけは手を出すなと忠告されたのを思い出す。小走りにナミの所へ駆けていくツナ。
「その、手伝おうか?」
「ありがと。でもちょうど終わった所なのよ」
(いつから起きてたんだろ……)
少し疑問に思いつつ、口を開いた。
「みかん、本当に好きなんだね。タトゥーもみかんと風車……だよね?」
「そーよ。このみかんはベルメールさんのみかんなの」
「ベルメールさん?」
「えぇ、ベルメールさんはね──」
おもむろにナミが話し始めたのは自分の過去のこと。
「そんなことが……」
ひどく傷ついた顔のナミはツナに微笑みかける。
「1つ食べる?」
「え、良いの?(でも有料だったらどうしよ――!?)」
口にした瞬間、請求される。ナミならやりかねない、とそんな考えを表情察したのか、初回大サービスでタダよ、と言って手頃なみかんを1つもいでツナに渡した。
「! おいしい!!」
「でしょ?」
顔をほころばせるツナにナミはウインクした。
「こんなにおいしいならいろんな人に食べてもらわなきゃ、だね」
「1つ500ベリーよ」
「えっ!?」
反射のレベルで間髪入れずに返したナミはウフフ……と妖しく笑っている。
「怖っ!」
ツナは一歩引いた。そこにゾロが見張り台から降りてきた。右手には空のビン。酒がなくなったらしい。
「!?
――っと」
ツナがみかんを食べているのを見て危うくビンを落としかけた。
「みかんを……天変地異の前触れか……!?」
「失礼ね!!」
「はは……」
ナミは噛み付き、ツナは苦笑をもらした。
(ナミのイメージって……)
ナミのみかんを食べて無傷と他のクルーからも驚かれて大騒ぎになるまであと8分。ナミの鉄拳で鎮まるまで、あと10分。
ツナは残りのみかんを口に放り込んだ。
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