25論
かつて見た景色にまみえる事も無く、オーキド博士がミオに来る日を迎えた。
エルディに探索で入手した木の実をあげながら、船着場で博士の到着を待つ。
エルディは体も大きく目立つので、傍に居てもらえば博士も気付きやすいだろう。
やがて、博士が乗っている予定の船が来た。
賑やかな人混みの中から何とか認識出来た白衣を纏う男性…オーキド博士の姿は、記憶にあるイラストよりも僅かに若い印象を受けた。
後ろからもう一人、茶髪の少年も着いてくる。博士の助手だろうか。
「いやあ、待たせたね!君がイノリくんか!」
「初めまして、オーキド博士。一緑と申します。お会い出来て光栄です」
「ほぉん…あんさんが例の電気信号に目ェ付けたっちゅーやっちゃか」
「ぶうい?」
ん、んん?関西弁…此方で言うところの、コガネ弁か。
おまけに肩に乗って可愛らしい鳴き声を上げたのは…例のポケモンだ。
「初めましてやな。わいはマサキ!ほんでこっちはイーブイや」
「ぶいぃっ!」
「彼はポケモンの転送システムを開発している若き天才でのう!今回の話をしたら是非同行したいというので着いてきてもらったんじゃ」
「…貴方が、マサキさんですか。お噂はかねがね」
「そないな堅っ苦しいんは要らへんて!年もそう変わらんやろ、楽にしい!」
「っわ、ええと」
「わっはっは、早速仲良くなれそうで嬉しいぞ!」
さすが関西人…基コガネ人のコミュ力というか。
ばしばしと肩を叩かれて思わず戸惑っていると、オーキド博士にそう言われた。
博士の失礼にならないのであれば、まあ、遠慮なくそうさせてもらおうかな?
「それじゃあ、改めて。これからよろしくね、マサキくん」
「くんも要らん!!」
「あはは、うん、解った。マサキね」
オーキド博士もマサキも飛行ポケモンを連れているので、俺が先行してマサゴまで案内する。カントー地方でもフライゴンは珍しい為、エルディを目にした二人は、飛行機が間近で飛ぶのを初めて見た子供のように眩しい視線を送っていた。
「よく来たな、オーキド。マサキくんもようこそ。歓迎しよう」
「おおきに、ナナカマド博士!」
「いやあ、ご無沙汰しております。こうして顔を合わせるのは久しぶりですなあ」
二人は此方に居る間、研究所に滞在する。
来客室に荷物を下ろすと、早速図鑑について議論を交わし始めた。
「データを最初から全て開示する場合の問題は以前も話していたのう」
「それですけど、ポケモンは特定の電気信号発しとる言いましたやろ?実はあれ、ボールに入っとらんでも微量に放っとるのが判明しましてん。その信号を図鑑でも拾えるようにして、スキャンしたポケモンは情報が見れる言うんはどうやろかと。ほんならポケモン探しに行く楽しみも奪わんでええやろし」
「ふむ。それは非常に嬉しい情報だな」
わあ、これだけ博士や技術開発者が集まると会話のレベルが高いなあ。
俺はこの後の予定は無いけど…イナバさんの手伝いでもしようかなあ。
邪魔をしないようにそっと退散しようとすると、マサキが唐突に振り向いた。
「なあ、あんさんは何かあるんか?」
「え、俺?」
「言いだしっぺはあんさんやろ?聞いたで、図鑑とボールを連動させる案」
「でも、あれは本当にただの案だけだよ。その為の方法は俺には解らないし」
「ええからええから!わいかて制作自体には関わっとらん、ただの案出し係や!」
「ううん…あ、じゃあ、図鑑同士で情報を共有出来るとか」
其処でぱっと浮かんだのは、すれ違い通信だった。
確か今のゲームにはそんなのがあるんじゃなかったっけ。時代の進歩は早いねえ。
俺は一度もその機能を体験出来ずにこっちに飛ばされてしまった訳だけど…うわ、そう思うと凄え悔しいな。せめて最新作プレイしてから飛ばしてほしかった。
「図鑑同士で、共有?」
「博士達もポケモンに関して色んな研究をしているけど、トレーナー同士が実際にポケモンと出会って得た情報が共有出来たら便利だよなって思って。今、図鑑にはポケモンの分布や平均値とかが記載される予定らしいけど、図鑑を持った人同士がすれ違う度にその情報を自動で共有、更新するんだよ」
「おお!それは何とも楽しそうじゃなあ!」
「ええと、これが出来ると、以前話したボールと連動する機能についても同じ事が可能だと思います。このポケモンはこんな技を覚えるんだとか、新発見も増えて…すると新たな戦略も生み出されて、トレーナーはどんどん強くなっていく筈です。そしてその図鑑を博士に見せる事で研究者側にもすぐに情報を開示出来ますから、研究もそれまでよりハイスピードで進むようになると思います」
こうして擬似的なネットワークを生み出そうという訳だ。
さすがに携帯のように小型の機械でネットワークに繋いだりするのは今の技術では厳しいだろうけど、通信ケーブルは原作にも存在するし、似たようなものであれば充分開発が可能だろう。すれ違い通信は後々実装されれば良いと思う。
後者の技の共有に関しても問題は無い。この世界ではポケモンが技を忘れることは無いので、当然相手の技構成…戦略なんてバトルするまで解らないのだ。
「これは良い!トレーナー同士が交流する機会も増えていくでしょうな!」
「はあー、ポケモンやのうて図鑑の中身を交換か!それは思い付かんかったわ!」
思ったより絶賛されて少し吃驚した。
実際に未来に存在する技術の話をしているから画期的に聞こえるのかなあ。
その場で思い付いたのは結局そのくらいだったので、その後は当初に浮かんだ通りイナバさんの元で研究の手伝いをすることにした。
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