自由主義者の欄外余白 | ナノ

24論


フライゴンになったエルディを見て、博士やマサゴタウンの人達は驚いていた。
友人のお陰で進化したと伝えれば、口々におめでとうと返ってくる。
ただ、二倍近い大きさになってしまった為、連れ歩くのが難しくなってしまった。
海の近いマサゴなら障害物も少なく広々としているので大丈夫だとは思うけど。

エルディが進化したので、次の日から早速空を飛ぶ練習に入った。
博士達に見守られながら若葉色の背に跨り、バランスを取りやすい位置を探る。

「――良いよ、エルディ。飛んで」
「ふらうっ」

ばさり、羽が大きく波打つのに合わせて髪が舞う。
やがて地面から足が離れ、慎重に、慎重に空へ登っていく。
ビブラーバの時と比べて違うのは、包まれているような安心感がある事だった。

そして俺達は、久々に青空へと躍り出た。
初めはゆっくりと飛行し、次第に雲を追い越していく。
多少早くとも問題無い程度に安定していて、何とも頼もしかった。
むしろ風の心地良さを感じる余裕すらある。

博士が近くを飛んでいるから心配する事もなく、しばらく空の散歩を楽しんだ。
程良いところで地面に降り立つと、ハマナさんが興奮しながら駆け寄ってくる。

「凄いですよイノリくん!一瞬で乗りこなしちゃうなんて!」
「本当、様になってましたよ!これが才能ってやつなんですかね…」
「あはは、絆の成せる技ってことで」
「ウム。あと何回か練習して、問題が無ければすぐにでも他の町へ行けるだろう」

天気予報と相談して、風の強い日や長距離の飛行練習のスケジュールを組んだ。
これが終われば、いよいよ故郷探しが本格的に始まる。
テレポートと時渡りが同時に発動して海の上に落ちてるから、俺達の島が此処から南側にあるとは限らないのが難点なんだよねえ。
本当に地道な作業だがやるしかない。早く見つかると良いけれど。

「早く皆に会いたいね、エルディ、カフカ」
「ふりゃぁ」
「らるるっ」



嵐の中を飛び回った経験のあるエルディである。飛行訓練は難なくクリアした。
晴れて俺はナナカマド研究所所属ポケモン研究員見習いとなったのだ。
初めなので練習がてら、博士のお使いをしながらその周辺を調べる事にした。

「では最初の仕事だが、オーキドの迎えに行ってやってはくれまいか」
「えっ、オーキド博士が此方にいらっしゃるんですか」
「ウム。以前から一度来たいと話していてな。それが四日後だ」

つまり早めに出発し、探索をしながらオーキド博士を待とうという話だった。
博士は船に乗って此処まで来るらしい。港町と言えばミオシティ。俺が通い慣れた場所であり、初めてのお使いにはうってつけという訳だ。

「解りました。それでは明日の朝、行ってきますね」

そして次の日、早速マサゴシティを飛び立った。
到着早々探索に向かうのはさすがに疲労が溜まるし申し訳ないので、ミオシティに着いたらエルディを休ませるついでに図書館で周辺の地理を調べることにした。
上空からあの島を見渡した時は近くに他の島は見えなかったから、海の方も詳しく載っている地図があれば一番良い。

今後のことも踏まえ、最終的にはシンオウの地図を片っ端から開くことになった。
結局条件に合うような島や似たような形の島は見つからなかったが。
例の神様はディアルガの領域に衝突した所為で俺の体が縮んだと言っていたから、シンオウに俺達の故郷が無い可能性は元々高かったんだけどねえ。

「まあ…載ってない可能性だってあるしねえ。徹底的に調べていこうか」
「るるっ」
「わあ…珍しいポケモンを連れていますね」

掛けられた声に顔を上げると、いかにもこういった場所に似合うような、穏やかな雰囲気を纏う少年が其処に居た。
あっ、突然邪魔をしてすみません、とウェーブ掛かった藤色の髪を何度も揺らして謝る少年に、何処となく俺の生徒を思い出して、ふっと笑みが零れる。

「構いませんよ。この子はラルトスって言って他の地方に居るポケモンなんです」
「へえ、この子がそうなんですね。本で名前を見たことがあります。人の感情をキャッチするポケモンだとか…」

初めまして、と微笑む少年に、カフカはおずおずと目を合わせると、しばし様子を伺った後ほんのりと笑みを返し、青年と握手を交わした。
会ってすぐにこんな反応を返すなんて珍しい。相当優しい心の持ち主なのだろう。

「貴重な経験をありがとうございます。私はゴヨウと申します」
「初めまして。俺は一緑です」
「イノリさんですね。それではイノリさん、短い時間でしたが私はこれで。どうか再び貴方との縁がある事を願っています」

その時は貴方のポケモンの話を沢山お聞かせ下さいね。
すっと一礼して去っていく後ろ姿を見送ると、俺も再び地図に目を落とした。
それにしても、見た目より大分大人びた雰囲気の子だったなあ。アカギとはまた違ったタイプだ。普通に成人しているであろうアカギと比べるのもなんだが。



少年、ゴヨウとは案外早く再会を果たした。
探索を終えてミオに戻った頃に、図書館から出てくる彼と鉢合わせたのだ。

「これも何かの縁、是非友人になりましょう!」

という事で、ゴヨウに対しては比較的砕けた調子で接している。彼の場合は敬語が癖のようなのでそのままだが。
ちなみに、見た目的にはゴヨウの方がいくらか年上だと思われる。中身は俺の方が大分歳上なんだけどねえ。多分彼の年齢にプラス10歳くらい足せば俺の精神年齢に近いんじゃないだろうか。俺の生徒と大体同い年くらいだろうし。

前回は居なかったエルディを紹介しながら、彼等の故郷を探しているのだと自分の事は伏せて話すと、心当たりを探してみますね、と快く力になってくれた。

「しかし恐らく、ホウエン地方にその島はあるのではないでしょうか。話によるとホウエン地方でよく見掛けるポケモンが多く生息しているようですし」
「うん、俺もそう思うんだけど…」

アルセウスの話では、ホウエン地方のみならず更に広大な範囲を災害が襲うようになっていたらしいから、少なくともホウエンではない気がするんだよなあ。
でも、比較的ホウエンに近い場所にあるのかもしれない。

「どの道、隅々まで探しに行くつもりだからねえ。いくら時間が掛かろうと」
「はい。私も精一杯協力しますので、一緒に頑張りましょう」

何とも頼もしい少年である。ラルトスは前向きな人間が好きだというし、カフカがゴヨウを一目見て気に入ったのもよく解るなあ。
彼はよくこの図書館に来るというので、暇があれば今後も来てみることにしよう。



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