自由主義者の欄外余白 | ナノ

19論


イナバさんが研究所に子供を連れてやってきた。
奥さんに用事がある時は、何時も研究所に連れてきて面倒を見るらしい。
まだ赤子だった頃はハマナさんの存在に大変助かったとのこと。

「お名前を教えてくれるかな?」
「こーき、です」
「…コウキくんか。よろしくねえ」

内心、ひえっと震え上がった。
そうだ、マサゴの研究員の子供と言えば、もう一人の主人公!!
まさかこんな急に、しかも幼少期に出会えるとは思わなかった。

年齢を訊けば、四歳です、と丁寧なお返事が帰ってきた。
成程、四歳にしてはしっかりしている。此処に居ても大丈夫なのだろう。

コウキくんは何時も研究所のポケモンの面倒を見ながら過ごすらしい。
イナバさん達もポケモンと一緒にコウキくんを見守れるから安心だ。

俺も書類の整理の他に、ポケモンの観察の仕方を少しずつ教わっている。
現在メインで観察しているのはスボミーだ。
研究所に居るのは三匹。これに加えてイナバさんはリーシャンも一匹観察中だ。

ナナカマド博士の研究所は、進化に関する研究を専門に行っている。
この二匹の進化の法則は世間的にも未だ判明しておらず、今も調査中らしい。
…ううん、物凄くネタばらししたい。

あ、でも野生の場合の懐き進化ってどうなるんだろうなあ。
成長したら勝手に進化するとか…それだと進化キャンセルの謎が残るか。
それなら、親から充分に愛情を注がれた頃に進化する、とかかなあ。

それに大抵、進化している子が大人で、未進化の子が子供、ってイメージだけど、道具を必要とするものや、交換によるもの…二人の人間が居て初めて進化出来るケースもあるのだから、一概には言えないのかもしれない。
スボミーのような所謂ベイビィポケモンはさすがに除くとしても、見た目が小さいポケモン達が、見た目の通りに子供であるという確証は何処にも無いのだ。

「エルディやカフカも、実は凄く長生きだったりしてねえ」
「らるる?」

きょとりと見上げるカフカの頭を一撫でし、頼まれていた本を棚から引き抜いた。
今日はコウキくんの様子を見つつ、頼まれれば雑用もする事になっている。
急いで本を届けて、コウキくんの元へ向かった。

コウキくんは初心者用のポケモン…所謂御三家を相手にしていた。
観察用のポケモンだけでなく、此方も数匹育てているのだから本当に凄いと思う。
信じ難い事に、オーキド博士との図鑑開発もこれに並行して行っているのだ。
これをたった三人で回していたと思うと…その気苦労も窺い知れるというものだ。
…博士の人手が増えて助かる発言は、半ば本音だったのだろうと思う。

「イノリおにいさん、このポケモンはなんていうんですか?」
「ビブラーバとラルトスだよ」

この地方では見ないポケモンに興味が沸いたのだろう、目を輝かせて訊いてきた。
どんな所が住処だとかどんな事が得意だとかを、ゲーム知識ではあるが披露した。
頻りに頷いて反応を返してくるのは、教師としても刺さるものがある。

確かにニートを目指してはいるけど、一応俺も教職なりにこういうものは好きだ。
一つ一つ積み上げるように成長していく姿を見ると、此方も充足感を覚える。
学生の頃から、教えるのは割と趣味みたいなものだったんだよねえ。

「ぼく、しょうらいは、はかせのおてつだいをしたいんです。ポケモンのことも、たくさん、べんきょうちゅうなんです!だからイノリおにいさん、ほかのちほうのポケモンのこと、もっとおしえてください!はかせのやくに、たちたいんです!」

…うん、この子本当に四歳か?
この歳で立派すぎるだろ、先生ちょっと泣きそう。

コウキくんのお願いに応えて、俺が知り得る事を順番に教えていった。
手始めに、俺が故郷で出会ったポケモンについて。
生息するポケモンをざっくりと上げると、緑色のポケモンが多いね!と言われた。
うん、俺もうっすら思ってたよ。あの自称神、絶対狙ってやってるよねえ。

ご近所さんのニョロトノ一家は、皆おおらかで歌が上手。
本来、ニョロトノの鳴き声は怒鳴るような騒音だと言われていた筈だけど、あのニョロトノ達は月夜の晩には、それは楽しい歌声を聴かせてくれるのだ。

ふと思い立ち、音楽の授業…基、合唱を教えた事がある。
曲は勿論かえるの歌だ。旋律も覚えやすいし、輪唱も出来るかもしれない。
結果、拙くもメロディーをある程度紡げる程にはなっていた。
輪唱はさすがに難しかったようだが、何故か見た事の無い技を覚えていた。
あれは何だったんだろう…音系の技はニョロモは覚えない筈だったが。

そして反対に、カフカの家族…サーナイト一家は初めは控えめな様子だった。
すぐに俺の事を受け入れてくれたが、あれは人間が珍しかったのもあると思う。
ラルトス達は感情に敏感だ。普通は人間を警戒するのが自然な事だろう。
彼等に心を開いてもらうには、此方が心から彼等を好きで居る事が重要だ。
コウキくんならきっと問題は無いと思うが。何より、主要人物の一人なのだから。

そして訊かれるだろうなあとは思っていたが、遂にコウキくんに何処から来たのか訊かれてしまい、何処からだろうねえ、と曖昧な返事しか返せなかった。
どうもこの子は聡すぎるようで深読みしてしまったのか、聞いてはいけない事だと判断してしまったらしい。慌てて謝られてしまった。此方こそ申し訳無い。

帰り際にコウキくんは、先生、また何時か!と手を振って去っていった。
此方でも先生と呼ばれるとは思わず少し面食らって、思わず笑みが零れる。
博士達に微笑ましい目線を向けられたのが少し気恥ずかしかったけれど。



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