自由主義者の欄外余白 | ナノ

16論


ポケモン図鑑を一通り読み込んだ後はキッチンへ。
お世話になりっ放しなのもあれなので、せめて炊事は手伝うと申し出た。
普段はナナカマド博士による甘党御用達の料理か、ポケモンセンター内の食堂か、ハマナさんによる健康的手料理の内のどれからしい。
イナバさんは所帯持ちだが、ハマナさんは一人暮らしなので、帰りが遅くなる日はそのまま二人で食事する事が多いのだとか。

今回はハマナさんを手伝う形で参加した。
男の子なのに料理出来るなんて凄い、とやたら褒められたが、一人暮らしが長いとこんなものだろう。所詮男飯だし。ナナカマド博士も男だが料理は出来る。
と指摘したら、あの人ちょっと甘党が過ぎて…と零された。そんなに酷いのか。

しっかり喉を潤して、薬も飲んで、就寝。
次の日には、喉のいがいがとした痛みはすっかり消えていた。

「イノリ、喉の調子はどうだ?」
「はい、お陰様で大分良くなりました。もう大丈夫です」
「良かったあ!イノリくんずっと喋るの大変そうでしたからね」

イナバさんは満面の笑みを湛えて、自分の事のように喜んでくれた。
腕に抱えているカフカが、ほんのりと温かくなった。

「ところでイノリ。君はもしやモンスターボールを持っていないのではないか?」
「はい、町に出てお金を手に入れたら買おうと思っていたんです」
「ええっ、そうだったのかい!?それじゃあこのポケモン達は!?」
「この子達の意思で、俺に着いて来てくれてます」

だから、厳密には未だ野生のポケモンなのだ。
博士も俺がこの子達をボールに入れる様子が無いから気付いたのだろう。
変なトラブルが起こらない内に、なるべく早くボールに入れてしまいたいのだが。
ナナカマド博士はふむふむ頷いて、一枚の紙を目の前に出した。

「これはトレーナーカード発行申請書類だ」
「えっ」
「この欄を全て記入してポケモン協会に送れば、トレーナーカードが進呈される。一人のトレーナーとして認められるという事だな」

え、あの、でも俺、既にカード持ってて。
紙を目の前に言葉が出ない俺を置き去りにして、とんとんと話が進んでいく。

「カードが届くまで君自身はポケモンを持てないが、研究所のポケモンという体でボールに入れておく事なら可能だ。これなら安心だろう」
「は、い。えっと…でも、良いんでしょうか」

俺既にカード作っちゃってるんですけど。
言葉を口にする前に、遠慮する事は何も無いと全力で頷かれてしまった。
そ、そっか。ううん。なるようになれ、かなあ。

ええと、写真は後で撮ると言われたし、まずは名前と、性別と、年齢…

「俺、何歳くらいに見えます?」
「えっと…成長期の男の子ですからねえ…12歳くらいですかね?」
「僕もそのくらいに見えるかなあ…でも、どうしてですか?」
「いえ、ちょっと。有難うございます」

成程。14っと。
おおっとおその哀れなものを見る目をやめてくれ。サバは読んでいない。
俺の成長期は比較的遅めだったけど、たけのこかってくらい伸びるからまじで。
住所は研究所のものを教えてもらってそのまま記入した。

研究所のカメラで写真を撮って切って貼って、折り畳んだら封筒に入れて。
イナバさんが、フレンドリィショップにお使いに行くついでに投函してきます!とそのまま封筒を持って走っていった。
そんなに急がなくても、ポストは逃げないのになあ。
見る見る遠ざかる背中に、三人で苦笑いした。

イナバさんが戻ってくると、赤と白のツートンカラーのボールを二つ渡された。
お、おお、初めて見たけどこれがモンスターボール。

「私からのプレゼントです!早速これに二匹を入れてみましょう」
「わあ…有難うございます」

エルディがさあ来い!と言わんばかりに俺の前に降り立った。
それでは遠慮無くエルディから。俺の最初の、相棒だからねえ。

こつんと額にボタンをぶつけた。
赤い光に包まれて、エルディはしゅんっとボールの中に吸い込まれていく。
何度か手の中で小さくかたかたと揺れた後、かちん、とはまる音がした。

「おめでとう!これでゲットは成功ですよ!」
「イノリの初めてのポケモンという事だな」

早速ボールを軽く投げてみた。
地面に当たったボールは赤い光を弾き出し、どういう原理か俺の元に戻って来る。
光が形を成して、其処にはすっかり元のエルディが居た。

「エルディ、どうかなあ。ボールの中は過ごしやすい?」
「らぁぶらー」
「ん、そっか。それじゃあ普段は出したままにしようねえ」
「びぃぶっ!」
「はああ…今まで野生だったとは思えないくらい、意思の疎通が出来てますねえ…イノリくん、本当に凄いです」
「この子の好きなものを色々見てきたので、何となくってだけですよ?」

エルディは日向ぼっこが好きだから、好んで入っていたくはないという事だろう。
カフカはその辺、元々洞穴暮らしだしボールの中でも平気かもしれない。

「じゃあ今度はカフカ、おいで」
「らぁるっ」

同じようにカフカにボールを触れさせて、捕獲。
すぐに出して感想を訊く。うん、予想通り。
だけどどうせなので、カフカも普段は外に出しておく事にした。
博士達も、この地方ではあまり見ないポケモンに興味があるみたいだしねえ。
俺もこれで一安心だ。他人に捕獲されないって思うだけで大分違うなあ。

カードが届くまで、ボールは博士が管理する事になった。
ポケモンを譲り受ける為の申請もあるが、此方はパソコンですぐに出来るらしい。
カードの申請がきちんと通るかどうか、今はただそれだけが不安だった。



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