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旅の仲間が増えた。
とても強い力を持った魔族だけど、同時にとても弱い…優しい心を持っていた。
レイシーはこの人を魔王にするつもりらしい。
未来の魔王だから、レイシーはルキメデスと名乗らせた。
ルキメデスというのは今の魔界を支配している魔王の名前だ。
「長いね。ルディで良い?」
「ま、まあボクは構いませんけど…」
「それじゃ名乗らせてる意味無いだろ」
「えー。いちいちルキメデスなんて呼んでたら舌噛むよ」
語呂的にクレアシオンよりも噛みやすそうだ。
ルディもいきなりルキメデスは気分的に恐ろしいという事でルディで押し切った。
レイシーの時は二回も断られたんだ、とレイシーに名前を聞いた時の事を教えた。
お前はよくそんなにあだ名が浮かぶよな、とレイシーに返された。
「でも、どうしてルキメデスなんですか?別に無理に名乗らなくても…」
「…せめて、あいつの名前だけでもちょっとはマシな形で残ってれば良いだろ」
「え?」
レイシーはぽつりと呟いて、さっさと先に進んでしまった。
時々見る、あの変な顔をしていた。
ルディは心配性だった。
やたら此方の体調を気にしたりと、何だかお母さんが出来たみたいだ。
「クレアシオンさん、そろそろ休憩した方が…!!いい加減倒れますよ!!」
「そんな暇は無い」
「エノさんも、クレアシオンさんよりまだマシとは言え全然食べないですし!!」
「別にお腹空いてないもん」
「そんなやせ細った体で何言ってるんですか…!!」
確かに前と比べると食べる量は減ったけど、特に問題は無い。
そんな事より、レイシーが行くって言ってるんだから行かないと。
ルディはレイシーにうるさいと怒られて渋々黙り込んだ。
とっぷり日も暮れた頃になると、暗い森の中じゃさすがにこれ以上は進めない。
今日はその場で野宿となった。ルディは早速寝ずの番を買って出た。
「後の事はボクに任せて、お二人はちゃんと寝て下さい!特にクレアシオンさん、ボクと出会ってから一睡もしてないでしょう!!」
「え、そうなのレイシー」
「目が冴えてるんだよ。どうせ眠れないなら起きてたって同じだろ」
「目瞑るだけでも良いです!!」
「そうだよ、さすがにそれは駄目だよレイシー。私も付き合うから一緒に寝よ」
ルディと会った時って、もう一週間は前の事だ。
レイシーがレイシーの事を話してくれてから、レイシーも少し休んでほしいという意味も込めて夜は必ず寝るようにしてたけど、それは私だけだったらしい。
私も目を閉じただけのまま一夜を明かした事はよくあったので、あんまり人の事は言えないけど。
「レイシー、眠れないなら歌ってあげるよ」
「歌?」
「うん、子守唄」
小さい頃、怖い夢を見たり、怖い目にあった時、お母さんが歌ってくれた。
雑音が無くなって、よく眠れるんだ。
「ゆーりかごーの、うーたを、かーなりやーが、うーたうよ…」
しばらく歌っていると、レイシーは深く穏やかに呼吸していた。
どうやら眠ってくれたらしい。子守唄は効果覿面だったようだ。
「良かった…というか、クレアシオンさんの寝顔初めて見た」
「うん、そういえば私も初めて見た」
「えっ!?エノさんも!?」
改めて思えば、私はレイシーの寝顔を見た事が無かったのだ。
私は何時もレイシーが寝る前に寝るし、レイシーが起きた後に起きるから。
それはレイシーが私が寝てる間を狙って魔力を集めに行くからというのもあって、あんまり気にしてなかった。
でも確かによくよく考えると、私が寝てる間に魔力を集めているなら、レイシーは何時寝てるのかという話になる。レイシーは相当無茶をしていたらしい。
「エノさんもちゃんと寝て下さいね」
「うーん」
「あ、じゃあボクがその、子守唄を歌いますよ。えっと…ゆーりかご、の…?」
「まずは歌を覚えないと駄目なんじゃない?」
「うっ…じゃあ、後で教えて下さい」
「今じゃないの?」
「今は寝て下さい」
ルディは相当私に寝てほしいらしい。
さて今日は普通に眠れるだろうか、と首を傾げる。
ああ、そうだ。ルディはお母さんみたいな人だった。
「ルディ、お願いがあるんだけど良い?」
「はい、ボクに出来る事なら」
「私が眠るまで、頭撫でて、背中叩いて」
安心するから。
レイシーとは対照的な、ルディの真っ黒なマントをぎゅっと掴むと、ルディはちょっと驚いた顔をして、それから勿論と頷いてくれた。
ルディの手はレイシーのよりもちょっとだけ温かかった。
「ああ…この子達は、こんなにも幼かったのか」
うとうとと微睡む中、ぽつりとそんな呟きが耳に届いた。
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