ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

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二日間歩き続けてようやく辿り着いたのは、魔族の村だった。
この世界に住んでる人は皆、人間ではなくて魔族らしい。

魔族というのは、この世界で生まれた人達の事。
その内、言葉を使わず理性も持たない、非人間的なものは魔物に分類される。
そしてこの世界は魔界というそうだ。魔法で作られたから、魔界で、魔族。

人間界もちゃんとあるけど、人間界には元々魔法は無くて人間は魔法を使えない。
レイシーは人間界から来た生粋の人間だけど、とある事情で魔法が使えるという。

そしてその魔族の村を、私を襲ったヤツよりもずっと怖い「魔族」が襲っていた。
私を瓦礫の隙間に隠すと、レイシーはそれらを一人で倒してくれた。

「本当にありがとうございました。貴方のお名前は?」
「…クレアシオン」
「なんと!貴方があの勇者様でしたか!」
「レイシー、有名人?」

村中の人がレイシーを勇者様と持て囃していて、ちょっと居心地が悪くなりながら私はレイシーのマントをくいくい引っ張った。
勇者って凄いな。勇者の敵っぽい魔族が勇者に感謝するってのももっと凄いけど。
レイシーは別に、と呟くと、それっきり無言で人の輪の中に突っ立ったままだ。
村の魔族はそんな私達に、魔族から救ってくれたお礼にと一晩宿を貸してくれた。

「レイシー、何で魔族が魔族を襲うの?同じ魔族でしょ」
「さあな。強い魔族が弱い魔族を虐殺するのがこの世界なんだ」

レイシーはとても酷い顔をしていた。

「レイシー、もう寝よう。今日は沢山教えてくれてありがと」

最後にぎゅっとレイシーの手を掴んで、少し名残惜しくなりながらそっと離すと、少し固めのベッドに潜り込んで目を閉じた。
レイシーの手は冷たかった。



次の日目が覚めると、部屋にはレイシーが居なかった。
そういえば、別々のベッドだったから、レイシーのマントは掴んでなかった。
外に出て、近くに居た魔族にレイシーの事を訊いても見てないと言う。

レイシーは何処だろう。
村中を隅から隅まで探しても見つからない。

村の外に行ったのかもしれない。

柵から一歩足を踏み出す。

「おい」

突然腕を引っ張られて顔を上げると、其処には探し人が居た。

「そっちは危険だ」
「レイシーだ。探してたんだ。何処行ってたの?」
「彼処に居る魔族に頼まれてちょっとな」
「なんだ、逃げられたのかと思った。吃驚したー」

最初に話しかけた魔族はたまたま知らなかっただけか。
あの後は聞き込みしないでひたすら歩き回ってたもんなあ。うっかりうっかり。
レイシーは顔を顰めたかと思うと、思いっ切り私の頬を引っ張った。

「ひゃにすんの」
「…お前、戦えないんだろ。だったら安易に外に行こうとするな」
「うん、解った。じゃあレイシーも置いてかないでね」
「俺はもう此処を出てくぞ」
「え?」

レイシーにはやる事があるから、何時までも同じ所には居られないらしい。
本当は日が昇ると同時に発つつもりだったけど、出発前の旅支度中薬やら何やらの物資を得る代わりに頼まれ事を買った為留まっていたとか。
その口振りからどうやら私は置いてく気満々なのが解ったので、マントをがっしり掴んで阻止した。

「着いてって良い?」
「…人が居る所までって言っただろ、お前」
「うん。でも、人って言っても魔族だったし。それに…」

ちょっとだけ言うか悩んで、ぽつりと一言。

「レイシーと一緒が良い」

ぎゅうっと掴んだ手に力を込めた。
少しの沈黙の後、レイシーはその手を放そうとする。

「もう俺に構うな」
「やだ。レイシー何でそんな事言うの」
「…お前に着いてこられると迷惑なんだよ」
「我が儘でも良いもん。レイシー、お願い」
「だから、」
「やだ!独りにしないで!」

レイシーに抵抗してその体に思いっきりしがみついた。
一瞬、レイシーの頭の青い炎が激しく揺れるのが見えた。
塞き止めていた思いが、抑えきれずにぼろぼろと溢れ出していく。

「こんな所でひとりぼっちなんてやだよ。お願いレイシー、置いてかないで…」

世界や常識ですら違うのは、レイシーと話してると凄く良く解った。
家族も友達も居ないこんな世界に取り残されるのは、想像しただけで体が震える。

目が覚めたら突然変な生き物に襲われて、訳も解らず逃げ出した。
初めて目にした、赤黒く染まる冷たい村で、寒い夜を独りで過ごした。
そんな中、やっと会えたのがレイシーだった。温かい人の体温に救われた。
それから何日もかけてようやく辿り着いた街には、もっと残酷なモノが居た。
なんて恐ろしい世界だろうと思った。
だけど、其処から救い出してくれたのもレイシーだった。

心も体もくたくただった。
けど、レイシーが居てくれたから、私はまだ絶望せずに済んでいる。

独りは、怖い。

「レイシー、」
「解ったから、その顔はやめろ」
「え?」

思わず顔を上げると、目元をごしごしと拭われた。
荒っぽい仕草の割には優しい手つきだった。

「もう勝手にしろ」
「良いの?」
「良くはない」

むすっと不機嫌そうに返されて、何それ、と思わず吹き出した。
レイシーは私の勝手にさせてくれるというので、私も勝手に着いていこう。

魔族に一言泊めてくれたお礼を告げて、去っていく背中を追いかけた。


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